ゴミ100 達人、学園長と面談する
3月18日。
学術都市ヒルテンにて、ドワーフの少女クが通っているルマスキー学園の学園長と面談。似たもの同士の親子だった。昨日サスペンションを教えたが、話が進みそうにないので、タイヤを教えることを条件に、こっちの話を先にさせてもらう。
「とりあえず、昨日クから俺たちの紹介は終わっているわけだが、そちらの学園長については紹介してくれないのかな?」
「ルマスキー学園の学園長で、私の父よ。」
「ヒと申します。
ちなみに、学園の名前である『ルマスキー』というのは、我が家の屋号です。我々ドワーフは、名前が1文字ですので、同名の人物が多く、集落レベルの人数が集まると屋号なしには個人の特定ができなくなってしまうのです。
ですが屋号というのは、いわばあだ名。ファミリーネームと似た使い方をされるとはいえ、正式なファミリーネームではないため、同族以外では名乗らないのが普通です。」
屋号ってそういうものだよな。ただ、屋号というのはその家の特徴を表わすものだ。つまり、ルマスキーという屋号にも何か意味があるはず。
「なるほど。
ちなみに、『ルマスキー』というのは、どういう意味ですか?」
「そうですね……直訳すると『知識人』とか『凝り性』とか『技術者』といったような意味です。
前半の『ルマ』というのが、ドワーフ語で『知識』とか『知識欲』とかを意味します。文脈によっては『技術』とか『分野』とかを意味する場合がありますし、前後の単語によって『熱中する』とか『凝る』といった意味にもなります。
後半の『スキー』というのは、『その一族』とか『その家』とか『その人』とかいう意味になります。」
ロシア語圏の苗字に「~スキー」というのが多いが、それと似たようなものか? たしか旧ソ連のサッカーチームに全員「~スキー」という選手だった時期があったと思うが。ただ、俺はロシア語は喋れないし聞き取れない。ドワーフ語とロシア語が似ているかどうかは確かめようがない。当然ルマなんて単語がロシア語にあるのかどうかも知らない。あ、でも「ノルマ」ってのはロシア語らしいな。
日本語的には「技術屋」といった屋号になるのか?
そういえば近所の家が昔は紙を作っていたとかで「紙屋」という屋号だったな。ただ、最近では屋号ではなくファーストネームで「**ちゃんの所の」という言い方が主流になっている。屋号がついた当時と、現在のその家の特徴とが一致しないことが増えてしまったせいだ。我が家も近隣住人から屋号で呼ばれたためしがない。おかげで我が家の屋号を知らないのだ。紙屋だけは今でも段ボールを作っているせいで屋号で呼ばれているが。
ドワーフの屋号も、いずれそうなるのだろうか?
とにかく、また1つ、この世界の文化に触れた。
それはともかく、昨日から実際に車をいじっていたから、クから学園長ヒへの報告も終わっている。元々は「同行した方が話が早い」という話だったが、本当にこれで話が早かったのか疑問は残る。そこで、試しに尋ねてみた。
「同行しなかったら、どうなっていたんだ?」
クに尋ねたが、そのクはヒを見た。クの視線を受けたヒが答える。
「クの車を実際に見て、クラッチやユーザーインターフェースについて驚いただろうね。
そして、それが確かにクだけでは思いつきもしない代物だと理解しただろう。クラッチはもしかすると基本構造ぐらいは思いついたかもしれないが、ユーザーインターフェースは別だ。あれは見事なデザインだよ。まるで何十年も実際に使ってデータを集めたような、洗練されたものだ。」
はい、その通りです。
さすが学園長。鋭い。
「で、クの報告にあった『助言をくれた人物』に興味を持つ。
私は『ぜひ会ってみたい』と言うだろう。連れてきてくれ、と。
そしたらクは君を探して、ここへ来てもらって、そしたらあとは昨日からやったのと同じさ。」
なるほど。確かにいくらかは面倒が減ったわけだ。
「浩尉にとっては、どちらでもそう変わりなかったな。」
軽くため息交じりにアローが言う。
無駄に貴族に迷惑をかけたような格好になって、クもヒも言葉に詰まる。アローが護衛らしく振る舞うのはいいが、ちょっと貴族臭を出し過ぎているような気もするなぁ。助け船を出そう。
「ああ……まあ、そうかな。同じなんだから、特に問題はなかったわけだが。」
同行しないで先に領主にアポを取っておくという手もあった。これはアローが提案したことだ。
今の話だと、同行したことで省略できたのは、クが俺を探すという手間だけだ。一晩待たされている間に、領主にアポを取る……というのは時間的には可能だったが、時刻が遅くて無理だった。それなら同行しないで先にアポだけ取っておき、学園長らに待たされている間に領主と面談してくるというのが効率的だっただろう。領主の都合さえ合えば、だが。
「まあ、次はアローの言う通りにしてみるか。」
そう言うと、クとヒの親子は恐縮し、アローはいくらか溜飲を下げた顔をした。
「ところで、こちらの学園では魔道具が専門とのことで車を開発しているそうですが、ゴッドアの流行病に対して、病気そのものを治すなり防ぐなりする研究はしていませんか?」
「ああ……当学園には薬学部や医学部がありませんから。
そういうのは、それ専門の学校がやっていますよ。」
「なるほど。バイオハザードを防ぐにもノウハウが必要ですからね。」
「まったくです。」
これ以上は情報を得られないだろう。
俺としては、そういう研究機関から出るゴミ――いわゆる医療廃棄物的なもの、あるいはバイオハザードの危険があるような有害廃棄物については、どうやって処理しているのか、という事が気になるのだが。
仕方ない。あとは領主から聞くか。
「では、約束通り、領主の屋敷に案内して貰いましょうか。」
タイヤについては、道すがら話すことにした。




