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ゴミ01 達人、転移する

 あざというのを知っているだろうか。町村のさらに下にある行政区画で、おおむね江戸時代にできたものが今も残っている。たとえば我が家は、郵便物や免許証などに使う住所は「E市N町1234番地1の2」だが、そういう所には使われない「N町2区浜井班」という所属がある。N町には1~11区の区画があり、それぞれの区の中にさらに複数の班があるのだ。この区が大字おおあざ、班が小字こあざである。

 たとえば日曜日の午前中に町内でいっせいにゴミ拾いをやる「クリーン作戦」――地域によっては「クリーン運動」とか「クリーンアップ作戦」とかいうらしいが――では、町単位ではなく小字単位で活動する。

 N町は、面積24km^2と東京都港区より大きいのに、人口は1600人ほどしかいない田舎だ。山間部の川沿いにある盆地で、山と水田しかないのに小字が「浜井」だから意味が分からない。どこに浜があるんだ? 井戸は我が家にもあるが。

 そんな場所なので、同じ小字「浜井班」に属するのは、わずか10戸ほどの家である。


「では、今日もよろしくお願いします。」


 班長の短い挨拶が終わって、20人ほどが散っていく。10戸の家から20人。つまり親子とか祖父母と孫とかの組み合わせで参加している人が多い。俺も小学生の頃は親と一緒に参加していた。

 俺は子供のころから、このゴミ拾いが得意だ。普段着でレジ袋に軍手と火ばさみ(最近は「ゴミばさみ」という名称でも売られているが)を持って、道端の紙くずや空き缶を拾っていく人々に混じって、俺は作業着で一輪車にE市指定ゴミ袋(大)を可燃・不燃の両方乗せて運ぶ。小学校3年生の頃からずっとこのスタイルだ。作業着は社会人になってからだが。ちなみに一輪車を使う理由は、ゴミ拾いが終わる時間には市指定ゴミ袋(大)が両方満杯になって重たいからである。おかげで「(ゴミ拾いの)達人」なんて呼ばれている。

 なぜ俺だけがそんなに大量のゴミを集められるのか。それは、ゴミを見つけるのが得意だからだ。この田舎町には、道路脇が草むらだったり森だったりする場所がいくつもある。そういう人目につかない場所に、大量のゴミを投棄していく奴がいるのだ。誰か分からないが。

 もしかすると、他の人も気づいているのかもしれない。だが気づいたとしても、子供連れで森や草むらの中に入ろうという保護者はいないだろう。たまに蛇とか出るし。その点、俺の親はだいぶ放任主義である。


「……お。今日はここだな。」


 道路脇に一輪車を止めて、俺はゴミ袋と火ばさみを持って道路から外れる。

 腰ほどの高さまで育った草が生い茂る斜面を降りること5m。生い茂った草むらに隠れるようにして、大量のゴミが放置されていた。カセットコンロにフライパン……? 珍しいものが捨ててあるな。釣り竿もある。釣り糸と釣り針がついたままだ。大きいビニールシートみたいなものがある。なんだ、これ……? ズルズルっと引っ張ってみると、テントだ! 組み立て式ポールと、ペグまである。キャンプ趣味の人が用具を新調して古いのを捨てていったのか? あぶねぇ! ナイフまで捨ててある! まだ使えそうじゃねえか。おっと、段ボールが出てきたぞ。段ボールをちぎって重ねてナイフを突き刺しておけば安全……っと、その下からナイフのケースが出てきたか。収納してから捨ててくれよ。あ、ロープみっけ。おや? 下から古いゴミが出てきたな。こっちは数十年前に捨てられたっぽいな。錆びてボロボロになった金属……菓子の缶かな? 朽ちた木の枝と見間違うような錆びだらけの金属の棒……たぶんハンガーか何かだろう。見慣れた「ザ・ゴミ」だ。どんどん袋に詰め込んでいくぜ。


「おっ……!? こいつは大物だな……ッ!」


 火ばさみで掴んだゴミが、重さに負けて落ちた。俺は火ばさみを左手に持ち替え、右手でゴミを掴む。力を込めて引っこ抜くッ!


「……くそ。片手じゃ無理か。」


 左手に持っていたゴミ袋と火ばさみをさらに持ち替える。ゴミ袋は輪に腕を通して、火ばさみはベルトに装着したカラビナへ。ついでに首に巻いていたタオルで汗を拭き、腰の水筒を取り出して、ぐびっと。ぷはー! うまい! 通販で買った水筒だが、大きい割に軽く、断熱性も高い。おまけに頑丈で、何回か落としているが壊れない。シンプルなデザインもお気に入りだ。さて、ゴミ拾いを再開しよう。両足の位置を決めて踏ん張り、両手でゴミを掴む。


「せー……のッ!」


 ズボッと抜けた正体不明の物体(ゴミ)

 勢い余ってバランスを崩す俺。

 足下は斜面。

 草むらだからあまり痛くないのが幸運だったが、俺は斜面を転がり落ちた。





 体を起こす。

 腰まである草むらの中で、座った姿勢になると草は頭の高さである。立ち上がらないと周りが見えない。


「……は?」


 立ち上がって一言目がそれだった。それしか出なかった。

 さっきまで道路脇の草むらにいたのに、今、周囲は草原である。何かが頻繁に通って、草がハゲてしまった道がある。獣道……というには、いささか道幅が広いようだが、周囲に人影は見えない。


「……どこだ、ここ……?」


 草むらを出て、道? に立ってみる。

 360度の大草原。人影なし。動物なし。樹木なし。河川なし。

 よく晴れた青空に、いくつかの白い雲が浮かぶ。そこに……ん?


「……ん?」


 目を擦って、再び空を見上げる。見間違いではなかった。


「太陽が2つある……。」


 不意に日光が遮られ、何か大きいものが飛んでいった。

 飛行機にしては、ずいぶん低いところを飛んでいる。E市には空港なんてないが……ていうか、飛行機にしては形がちょっとおかしいな。主翼の形がおかしいし、機体後部が歪んでいる。それに表面がちょっとデコボコしていて、まるで鱗に覆われているかのような……。


「……ドラゴン……?」


 そう。まさにそういう形状だ。けど……。


「……ありえねぇ。」


 まさか、ここは異世界だとでも……?

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