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ワガハイハ

 “ワガハイハ ユウレイ デアル。

ナマエハ サエキ アキト”


 剣の切っ先で地面に文字を刻んでおく。

その隣では屈強な男達が緑の人達と戦っている。

彼等はなかなか腕が立つようだ。

緑の化け物達は小柄な身体つきなので、決して力がある訳でもないし、俊敏な訳でもない。

しかし連中は数だけは多いので囲まれたら厄介なのだが、彼等のように連携をとって戦えばなんら苦戦する事もない。


 一人は赤髪短髪の若い剣士。

鉄鎧を着込んで盾と剣を構えて仲間を守りながら戦っている。

二人目は長いブロンド髪の細マッチョの槍使い。

動き易そうな皮鎧に身の丈程ある長槍を振り回して緑の化け物を近付かせない。

三人目はムキムキマッチョメンの両手斧を振り回す獣皮の腰巻きをした大男。

小柄とはいえ人型の化け物を一刀両断する怪力だ。

その後ろには裾長の外套を着込み、フードを深々と被った細身の弓使いが次々と緑の化け物の頭を射抜いていく。

素早く、そして正確だ。


 これまで何人も見てきたけど、彼等は非常に連携がとれてるように見える。

魔法を使える人がいないのは残念なところだけど。

珍しいから見てみたいんだけど、あんまり魔法使う人はいないんだよね。


 ちなみに俺の記した文字にはフードを被った弓使いが気付いてくれた。

緑の連中を一通り片付けると、指を指して皆を集めだす。


「ゴブリンの文字なのかな?」


 その声は女だった。

この弓使いは女の人だったのか。

胸がぺったんこだから気付かなかった。

顔も見えないくらい深々とフード被ってるし。


「コイツらにそんな知性がある訳ないだろ?」


 イケメンのブロンド長髪槍使いが呆れ顔でやってくる。

続いて赤髪剣がやってきて文字をジッと見つめる。


「……読めないな。シエル、読めるか?」

「わかんないわ。見たこともない文字。

ていうか、これ文字なのかな?」


 文字ですけど。

そりゃ汚い文字かもしれないけど、剣で書いたから仕方ないだろ。


「実はさ……。

戦闘中にちょっと私気になってたけど、この辺りで剣が浮いてたのよね」


 それ、俺です。

皆さんが必死に戦ってる最中、地面に文字を彫り込んでいました。


「何言ってんだ?見間違いだろ」

「少なくとも、アンタよりは眼はいいけどね。見間違いでは無いと思うわ」


 小馬鹿にした槍使いに向かってツンと言い張り、再度皆に伝える弓使い。

そうですとも、犯人は俺です。


 でも、そうか。

文字は読めないのか。

それなのに話してる言葉は理解できるのが本当に幸いだ。


 俺は遠くに置いてきた剣へと近寄り、それを浮かび上げる。


「お、おい……まさか、あれか?」


 渋い無精髭を生やしたガチムチの斧男が俺を指差して声を震わせる。


「嘘だろ……何で剣だけが……」

「何かの魔法か……?」

「呪術の類かも……呪われた剣とか」

「他の階層からの紛れなら厄介だ。一旦退こう」


 彼等は頷き合い、槍使いが古ぼけた巻物を開きだす。

彼を守るように周りの他の者たちは身構え、弓使いは矢を引き絞る。


 めちゃくちゃ警戒されてる……。

これ以上近寄るのはやめといた方が良いか。


 槍使いが「リコール」と唱えると魔法陣が彼等の足元に広がってその姿を消してしまった。

消える間際に矢が放たれ、正確に剣が射抜かれ弾け飛ぶ。

あの人百発百中だな。


 それにしても、うーん……存在アピールは出来たけど、意思疎通が出来なかった。

むしろ最後はちょっと怖がらせてたし。

去り際に俺の剣が吹っ飛ばされたし。

あの剣には罪はないのに。

何の変哲も無い鉄の剣が呪いの剣扱いされてたからか?

お前に罪はないぞ、ごめんな。


 俺は仕方なく落ちてる短剣やら手斧やらを拾い上げ、武器回収に勤しんでいると地面に魔法陣が出来上る。

そこから再び緑の化け物が湧き出てきたのだ。

この化け物達はこうして幾らでも湧き出てくる。

つまり倒しても倒しても、キリがない。


 俺は拾った短剣と手斧を振るい、復活した分だけ奴等を斬り伏せると、頭の中で今度はレベルが上昇との告知を受ける。

この化け物達を討伐するとレベルなるものが上がるらしい。

人型である彼等を襲うのは最初こそ僅かに抵抗があったが、今は何の躊躇も容赦もない。

慣れとは怖いものだ。


 緑の化け物……そういやゴブリンとか呼ばれてたな。

湧き出て早々逃げてる所悪いけど、次の人間に出会うまで俺の剣の練習に付き合ってくれ。

俺は斬る練習でお前らは斬られる練習な。

その特訓の成果は俺の独り占めだけど。


 放たれた短剣とクルクル回る手斧が彼等の頭をカチ割り絶命して塵になる。

投擲スキルも少しづつ上がってきた。

最近のマイブームはレベルとスキル上げだ。

むしろこれしかやる事もない。

側から見ればさぞや危ない趣味の持ち主だと思われる事だろう。

自分でも悪趣味だという自覚はある。

それを改善しようとは思わないが。


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