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優華とみどりと変人と  作者: ばたじょ
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第5章 ロストメモリー 前編

どうも、ばたじょです!

さあさあやって参りました!お待ちかねの二部構成!いや本当に申し訳ない!


今回ばかりはどうしても字数を減らすことができませんでした。しかし、それはつまり濃い内容の物語になりつつあるという前兆…であって欲しい!


それでは本編スタートです!いってらっしゃいませ!


「――であるからして他の動物と違って俺たち人間には意思がある、やつらは本能のままに生きるのが当たり前だが俺たちにその道理は通じねえ」


現在、一年A組の教室では四限目の授業・道徳が行われている。担当教員は優華たちの担任を務める破天荒教師・五大庄真である。 授業のテーマは"心のストッパー"だそうだ。


「それは行動に限った話ではなく日常生活における発言も含まれる」


出会ってからまだ二日目とはいえ、流石にみどりちゃんに対する耐性がついた優華は昨日のように呼び出しを受けないように五大の授業はいつもの1.5倍増しで真面目に話を聞いている。

隣の席の直子はというと、珍しく起きてノートを取っている。


(流石に直子も応えたようね、きっと私と同じことを考えてるに違いないわ)


「そんなに難しい話じゃねえからな?例えるなら…よし実践形式にするかー、おい直子!ちょっと協力しろ」


「ふえ?ラジャー!イェッサー!承知しました!」

「どれか一つにしなさいよ」

「返事の三段活用だよ〜」


独特な返事をして直子は自身ありげに席を立つ。


「ここで会ったが百年目!我らの遺恨を晴らそうではないか〜!」

「お前は誰と戦っているんだ、いいから始めっぞ」


五大は面倒くさそうに眉間にしわを寄せて、手元の教材を閉じる。


「そうだなー…じゃこうしよう。直子は、いつもつるんでる奴らからなんて呼ばれてんだ?」

「名前ですか〜?うーむ、人それぞれですけど、多いのは…なおちゃんかなぁ〜?」

「じゃ逆にだ、これまでの人生において呼ばれたら嬉しくないあだ名とかあるか?」

「ムム?そんな呼び名はあったかな〜?」

「そうか仕方ないから俺が作ってやる…よし決めた、お気楽直子だ」

「えへへ〜、なんだか照れるなぁ〜」

「ほう、では能天気野郎だ」

「いや〜、それほどでも〜」

「馬鹿」

「だーれが馬鹿じゃごらぁぁぁぁ!」

「いや残り二つも大体同じ意味でしょ⁈」

「まぁわかったから良しとしよう、でだ」


五大は黒板に適当な顔を描き、そこから吹き出しをいくつか足していく。


「こいつは直子の顔だと思ってくれ」

「え〜、五大先生には私の顔がそういう風に映ってるの〜?」

「特に深い意味は無いと思うわよ」


そして吹き出しに、直子の名前であろう、なおちゃん・お気楽直子・能天気野郎・馬鹿….と単語を埋めていく。


「現時点で、俺は直子に関する情報を知っている。いろんな奴らになおちゃんと呼ばれていることや、直子が馬鹿と呼ばれることを嫌がること…」


馬鹿と書かれた吹き出しを赤のチョークでぐるぐると丸で囲む。


「このように、誰かと会話をする時や何かをする時には、必ずその対象に関するあらゆる情報がいくつか思い浮かぶだろう」


そこで、五大はチョークで"直子ちゃん、元気ですか?"という文を一つ黒板に書いて再び直子に向き直る。


「いつもの俺なら、この例文の通りに"直子ちゃん、元気ですか?"と言うだろう…しかし頭の中にはそれ以外の選択肢が残されているはずだ」

「あれ〜?五大先生が私に"元気ですか?"なんて優しく言ってくれたことは一度もないですよ〜?」

「じゃ次から言ってやる、でだ選択肢だがな…」


すると、今書いた文から黒板消しで直子の部分を消して馬鹿と書き直す。


「ある日外で直子に出会ったとして、俺が直子の私服を褒める前にこう挨拶する可能性もあるわけだ….よう能天気の馬鹿野郎、元気してるかー?ってな」

「またまた能天気だなんて〜…ってだーれが馬鹿野郎じゃごらぁぁぁ!」

「なるほど、直子でも馬鹿とだけは呼んでは駄目なのね…」


ノートの端にどうでも良いことをメモする優華である。


「安心しろ、実際に俺が直子に対して馬鹿とは呼ぶことは絶対にない…たぶん」

「たぶん〜?」

「何故なら、俺は直子が人に馬鹿と呼ばれることを嫌がると知っているからだ」

「えへへ〜、五大先生は優しいね〜」

「いやどこに優しい部分があったのよ…?」

「つまり俺が今日言いたいことはだな…発言や行動をする前にそれを相手がどう捉えるか、もしくは何が起きるのかを想定しろってことだ」


(なるほど、だから心のストッパーという表現なのか)


「まぁふざけ半分でも人が傷つくのは誰だって嫌だろ?俺だってなぁ、好きな映画を観に行きたいのにそんなの観に行くなって否定されたら悲しいんだぞ?」


(バタフライエンジェルYuki のこと根に持ってるわね…)


内心で呆れながら優華は授業を聞いていると、五大のいる教壇の方から機械のバイブレーションのような音が教室に響き渡る。

五大は悪びれもせずにポケットからスマートフォンを取り出して画面を確認すると、生徒たちに向き直る。


「おおっと、すまねえ…どうしても外せない用事が出来ちまった!はい後自習ー」

「あわわ、起立!礼!」


日直の順番は前の席から後ろへと周っていく。そのため本日の日直係である優華の後ろに座る太陽光が号令をかける。


「今日の自習開始時間は昨日よりも五分早かったわ」

「このままいくと、その内五分だけ授業で後は自習なんてこともありえるかもしれないね〜」

「笑えない冗談ね…」


クラスメイトたちも大半が"本当に大丈夫か?"という空気ではあるが自習や読書、友達と話す…など各自やりたいように自習を過ごしている。

優華と直子は自習時間で明日行う授業代行の作戦会議をするとにした。

新たにノートの白紙ページを開き、手元でボールペンをくるくる回しながら話を始める。


「まず始めに何をするかだけど…意見がなければテーマは今朝話した通りタイムカプセルで話を進めようと思うわ」

「みどりちゃん観察計画は〜?」

「はいはい却下ー」

「ふえ〜⁈」

「じゃあみどりちゃんには直子が交渉しなさい?」

「むむ、痛いところをつくね〜!でも私は優華ちゃんのアイデアで良いと思うよ〜」

「オッケー。で、今朝の話をもう一度確認するわよ」


ノートにスラスラとタイムカプセルをテーマとした模擬授業を行う順序を記していく。


「まず始めに、予め用意した過去のタイムカプセルを各々で開封する。そしてタイムカプセルをしばらく鑑賞した後に、それを基に新たにタイムカプセルを作る…こんな感じだけど何か意見はある?」

「はい優華先生!」

「うむ、直子くん発言を許そう!」

「まず一つ、新たにタイムカプセルを作るとのことですが、それは何年後を想定しているのですか〜?どうぞ!」

「私たちは小学校から高校までは同じ地域内に通うけど、それ以降はたぶんバラバラになると思うわ…だから無難に高校三年時の卒業前くらいに開封することを目安にしようと考えてるわ」

「なるほど〜、それなら三年後、みんなとさよならする前に一年生の頃とどう成長したかを確認できて面白いかもね〜」

「そういうこと。せっかく同じ町に住んでるんだから、少し早いけど最後の思い出を振り返れるように準備しておくってことよ」

「流石我らの優華ちゃん!猫神家の長女というだけのことはあるね!」

「いや、そういうあんたは何様よ」

「じゃあもう一つ質問!新たに作るタイムカプセルも小学校の時みたいに学校で保管するの〜?」

「あ、考えてなかったわ」

「流石我らのドジっ子優華ちゃん!」

「ドジ⁈私ってそういうポジションなの⁈」

「せっかくだからね〜私は新しいタイムカプセルはどこかに埋めて保管したいと思うな〜、校庭の端っことか〜」

「たしかに、せっかくだし埋めるのもいいかもしれないわ」

「うんうん!いいね!楽しみになってきたよ〜!」


優華は教室の窓から校庭を見回す。


「そうね…正門の近くに生えてる一本桜の根元辺りとかはどうかしら?そこなら木が目印になるし、埋めるにせよ掘り起こすにせよ、移動時間を短縮できるわ」

「決まりだね〜、じゃまず準備するものは…」

「過去のタイムカプセルは放課後小学校へ取りに行くわ、後でそのためのアポイントメントは五大先生に任せるわ」

「ということは….あとはスコップだね〜」

「スコップは学校の用具入れから借りてくれば大丈夫よ」

「すごいすごい〜!優華、今回は完璧だね〜!」

「そんな褒めることじゃ…えっ?今回は⁈」


含みのある言い方に優華は慌てて聞くが直子は教室から出るところであった。


「優華ちゃんが考えてくれたから私が五大先生にアポイントメントをお願いしてくるね〜!」


直子が教室を出ていくのと同時に四限終了の予鈴が鳴り始める。


「直子もやる気満々だから大丈夫よね…」


外で複数の鳩が飛んでいく姿を窓から眺めながら優華はこの先に何か、具体的にはわからないが自分の身近でとんでもないことが起こるのではないかと根拠のない胸騒ぎに包まれていく。


「何を心配しているのかしら…?みんなでタイムカプセルを埋めるだけじゃない…」


このまま黙っていると不安で埋め尽くされるような気がして優華は小さく言葉を漏らす…と、次の瞬間それは起こった。


―――ザザッザザザザザザ――――――


優華の視界は砂嵐状態のようで、何が起きているか視認するのは難しい。言葉で表すならノイズに近い、耳障りな音もなんだか不快である。


(な、何よこれ⁈)


必死に目を凝らし、辺りを見渡すが、先程までの平凡な教室やクラスメイトはどこにも見当たらない。


(とにかく助けを呼ぶのが先決ね…あれ⁉︎声が上手く出せない⁉︎それどころか身体も石みたいに動かせない⁉︎)


―――ガチャガチャ、ピー….――――


すると、ノイズに混じって何かを起動するような電子音が鳴り、同時に優華の視界に何かが見える。


(誰かがいる…)


目を凝らして砂嵐を見ると、遠くの方に二人の人影が確認できる。

一人はベッドで横たわり、もう一人はベッドの方に寄り添っているように見える。確認できるのは僅かな視界のみで、耳には相変わらず不快な電子音が鳴り響く。


(よくわからないけど、あの人たちは私と無関係ではないような気がする…)


―――――キ、ケ―――――


(…っ⁉︎誰かいるの⁉︎)


優華は声のする方へ振り向くと、そこには先の二人とは雰囲気が大きく異なる存在であること以外、砂嵐で確認できない。


―――――ケッ、シテ―――――


(決して?決して何よ⁉︎)


そこでノイズや砂嵐は消滅する。何もなかったかのように時は流れ出す。ガヤガヤとクラスメイトたちが昼食を済ませるために動き出す。


「…はっ⁉︎ここは、教室…⁈」


ようやく奇妙な現象から解放された優華は全身汗でびしょびしょになっていた。


「もう…一体なんなのよ…?」


ハンカチだけでは拭いきれない程の汗をかいているためか、何人かのクラスメイトが優華を見て不思議そうに注目されている。


(たしかにこんな姿見ればそりゃ不思議よね)


汗を拭うのも含め、気持ちを入れ替えるためにトイレに行こうとする優華。すると後ろの席からツンツンと小さなノックをされる。


「あ、あの…」

「うん?太陽さん、私に何か用?」

「う、うん…あのねあのね!…私も猫神さんと同じだから大丈夫だよ!」

「へ?」

「い、いや…猫神さんが前の席で突然蒼白な顔で何かを考えていたから、もしかしたらと思って…」

「突然?…あー、あれか」


(そうか、あの変な現象が起きてる間は時間が止まっていたわけではないのね…あれ、ちょっと待って⁈)


慌てて優華は体ごと後ろ向きにして、太陽に向き直る。


「あなた、私と同じと言ったわよね⁉︎もしかしてさっきのことも知ってるの⁉︎」

「ええ⁉︎知ってたというかさっき初めて見たから優華ちゃんがまさか私と同じ悩みを抱えてるのかなと…」

「本当⁉︎なら詳しく教えて頂けない⁉︎私ついさっき経験してもう何が何だか…」

「突然だったの?わ、私は生まれつきだから、物心ついた時には、私は周りとは少し違うんだなぁて気づいたよ?」

「生まれつきとかあるの⁈…ちょっと待って、太陽さん一つ聞いてもいいかしら?」

「な、何かな?」

「今私たちってさ、なんの話してるの?」

「えっ、それは…私たちが他のお友達とは違ってこと?」

「もっと具体的に!」

「えええ⁈は、恥ずかしいから遠回しに言ってたんだけど…」


光はモジモジと恥ずかしそうに周りの目を気にしながら小声で話す。


「汗っかき…なんだよね⁉︎だから真剣に悩んでて…でもだよ!私も生まれつき汗っかきの体質だから一緒に悩みを克服しよう….ってあれ?猫神さん?」


最初の一言で全てを察した優華は拍子抜けの脱力感に襲われる。


「太陽さん、汗っかきなんだね…」

「そうだけど…?はっ、もしかして優華ちゃんは⁉︎」

「ごめんね、話が途中から噛み合わないからなんの話かと思って…私は汗っかきではないわ」

「だ、だだ大丈夫だよ⁉︎ただ、あんなにたくさん汗をかく人って自分以外で見たことなかったからつい…」


よく見ると、こうして普通に会話をしている間も、光の額から汗が滝のように流れている。


「とりあえず、お互い汗を拭きましょうか…」

「そ、そうだね…これ予備の汗拭きシートあげるね」


その後、二人は何事もなかったかのようにお弁当箱を開き、昼食を済ませたそうな。

それから10分程経過した頃、廊下から小走りで直子が戻ってくる。


「ごめん〜待たせた〜⁉︎お、優華ちゃんが他のお友達とお昼食べてる….はう!私とは遊びだったのね〜⁉︎」

「意味のわからないことを言ってないで早く座りなさい」

「えへへ〜、たしかあなたのお名前は…」

「あ、はい!ええと私は太陽光て言います!呼び方は苗字と名前どちらでも大丈夫です!」

「じゃあ光ちゃんだね、直子だよ!よろしく〜!」

「あんなにお話したのに自己紹介が遅れたわ…猫神優華よ、呼び方は任せるわ」

「じゃあプリティ優華ちゃんで呼ぶね〜」

「あんたは初見じゃないでしょうが!」

「仲が良いのですねー、羨ましいくらいです!」

「まぁ直子と私は同じ中学校に通っていたから付き合いが長いのよ、あと今から敬語は無しよ?もう友達なんだから」

「は、はい!…じゃなくて、うん!」

「また変わったお友達が増えたね〜」

「あんたがその筆頭だってことにいい加減気づいて欲しいわ」


こうして変わり者三人組は、仲良く昼食を済ませたのであった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お昼休みが終わり、何事もなく午後の授業を受け終えて時刻は夕方の16時である。ホームルームを終えた優華と直子は一度理科室に向かうことにした。


「それで松川先生の人見知りをどうやって克服するの〜?」

「それは理科室に着いたら話すわ」


優華たちの教室と理科室は同じフロアにあるので、階段を使うこともなくすぐに理科室の前に到着する。

早速入室するためにノックをしようとするが、その手が躊躇われる。


「入らないの〜?」

「いや…大丈夫よ」


(一時の迷いなら良いけど、松川先生大丈夫かしら…?)


悩んでいても仕方ないと判断した優華は思い切って扉にノックをする。


「失礼します、一年A組の猫神と温厚です。」

「ゆりちゃーん、来たよ〜!」


扉を開けると、理科室には誰もいないようだった。しかし、優華の言葉は伝わっていたようで、隣の準備室からガタガタと慌てる様子が伺える。

数秒の沈黙、そして準備室から理科担当・松川由香里が汗だくの顔で姿を現わす。


「待たせてすまない!今新たな開発に打ち込んでいて反応が遅れてしまった!」

「これはまた、お忙しそうにしてますね、お邪魔だったかしら?じゃ直子、行きましょう」

「それもそうだね〜。ゆりちゃん、ばいば〜い」

「待て待て!おい待てって!何故帰る⁈私はここにいるぞ猫神!」

「もう…わかりましたよ」

「あつあつだね〜」

「その冗談はキツイわ直子」

「あ、あつあつだなんてそんな…本人の前で言うものではないぞ!」

「松川先生は本気に捉えない!」

「ゆりちゃんと呼ぶ約束だろう⁉︎」

「ぐっ!ゆ、ゆりちゃん…!」

「ほえ〜、進展が早いこと〜」

「ストップ!こんなんじゃ話すものも話せないわよ!」


同じやり取りが延々と続く気配が見えたため、本題に切り替える。


「松川…ゆりちゃんが人と接することが苦手という話がありましたよね?」

「なんならタメ口でも構わないぞ?」

「はあ、面倒だからお言葉に甘えるわ」


一つため息をついて、優華は本題を切り出す。


「ズバリ、ゆりちゃんの人見知りはすぐには克服できないわ!」

「そ、そんな馬鹿な⁉︎なにか巧みな話術とかを伝授してくれるとかではないのか⁉︎」

「そんな詐欺師めいたテクニックは知らないし、こういうのは小さな積み重ねが大切なのよ」

「しかし、猫神君や温厚君と練習するわけにもいかないだろう?慣れてるわけだし」

「そこで、今回は協力者を連れて来たわ!ゆりちゃんにはその協力者と毎回コミュニケーションを取って

信頼関係…つまり仲良くなればオッケーよ」

「協力者だと⁉︎待てそんなことは聞いていないぞ!」

「教えたら練習にならないでしょう?それにゆりちゃんの場合は徐々にハードルを上げていく方法があっているかと思うの…だっていきなり何人かクラスメイトを連れて来たら、それこそまたクールビューティーになっちゃうでしょう?」

「そのクールビューティーはよせ!そもそも徐々にハードルを上げると言っていたがな、一対一とはいえいきなり本番だろ⁉︎…心の準備がだな…」


自分の指と指を突きながら松川は顔を赤らめ自信なさげに言う。


「大丈夫よ、第一回ゆりちゃん人見知り克服研究会!最初の協力者はこちらですどうぞ!」


そう言い、優華は理科室の扉を開く。

その場にいる松川とついでに温厚も緊張した面持ちで入室する協力者を見守る。

協力者はテクテクと短い足で松川の方へ歩いていく。


「こ、こいつは⁉︎」

「みどりちゃんだ〜!」


みどりちゃんは松川の足元まで来ると、いつも通りの無表情で顔を見つめてくる。


「これは一体なんの冗談だ猫神君?」

「冗談でもおふざけでもないわ。それと、みどりちゃんをあまり侮らない方がいいわよ?」

「だよだよ〜!みどりちゃんはね、お話もできるんだよ〜!」

「そんな小さな妖精とコミュニケーションが取れないようでは、どんな人間とも緊張せずに会話なんてできるわけないわ!」

「な、なるほどな…。確かに言われてみればそうかもしれない」


松川が納得しかけた時、背後の準備室の扉が自動で開放され、中から自律型コーヒーメーカー、サイフォンが顔を見せる。

サイフォンはロボットらしかぬ悲しみの表情を浮かべ、心配そうに松川の肩に手を添える。


「ゴ安心ヲ。マスターデアル"ゆりちゃん"ガ、小サナ妖精ト会話ヲ交ワスコトスラ出来ナイ臆病者ダトシテモ、私ハ最後マデ付イテイキマス!」

「余計なお世話だ!コーヒーメーカーの分際で私を哀れむな!」

「コーヒーメーカーの分際で〜?」

「というのは冗談!サイフォン、心配は不要だ。私は見事にこの妖精と意思疎通をし、いずれは誰に対しても平常でいられるよう努力しようではないか!」

「決まったようね。とにかく、当分の間はそのみどりちゃんと仲良くなることを目標に頑張ってちょうだい!さあ行くわよ直子」

「うん!それじゃばいばい〜、ゆりちゃん〜!」

「そうか、それなら仕方ないな…って待て待ておいおい!何故帰ろうとする⁉︎」

「いや、この後授業代行に必要なものを揃えないといけないので今日は普通にお暇しますね」

「授業代行?なんだそれは⁉︎…あ、待てって!」


そそくさと優華たちは去っていく。コーヒーメーカーのサイフォンはというと、どうやらバッテリーが不足しているらしく、強制的にスリープ状態に移行している。そのため理科室には松川とみどりちゃんの実質二人きりである。

こちらが何か働きかけない限り、みどりちゃんは何もアクションを起こさないと判断した松川は、思い切って無表情の妖精に話しかけてみる。


「…………よ、よう!元気してるか⁉︎」

「…………………」


数秒の沈黙の後、みどりちゃんは口を開く。


「…ドンマイ」

「子どもに慰められた⁉︎」

―――――――――――――――


理科室を後にし、優華たちは過去のタイムカプセルたちを回収するため、優華と直子は手分けして小学校を周るとにした。手分けといっても町に3校しかないので、お互い1校ずつ行った後、三校目で落ち合うことにした。


「あらあら久しぶりね、優華ちゃん〜!大きくなったわね〜、こんな時間にどうしたの?」

「お久しぶりです温厚先生、要件はお昼頃に電話でお伝えした通りです。」

「電話?でんわでんわ…あ〜さっきの電話ね!あのやる気のないような声の方、もしかして優華ちゃんの先生?」

「紛れもなく私の担任です…」

「声だけではなんとも言えないけど、やる気というか芯がないというか…でも担任を務めている方なら大丈夫よね!人は見かけによらないと言うし?」


(やる気がない点は正解なんだよなぁ)


「まぁ立ち話もなんだから中に入る〜?」

「お気遣いありがとうございます。ですが、今回は友だちを待たせてしまうので遠慮させて頂きます」

「その友だちって、もしかして直子のこと?」

「はい、その直子ちゃんです」

「あらあら〜、いつもうちの娘と仲良くしてくれてありがとうね〜!あの子、私以上に惚けてる子だから…気をつけてないとそのうちふらっと知らない人の家に帰ったりしちゃうのよ〜」

「いくら直子でもそこまで常識はずれなことはしないかと」

「実はね、昨日の出来事なのよ…」

「いや、実話ですか⁉︎」

「ええ、だからこそ、直子と仲良くしてくれる優華ちゃんが頼りなのよ…あ!タイムカプセルだったわね?今持ってくるわ〜」


そう言って温厚穏子おんこう しずねは職員室へと走っていく。

温厚先生は優華の通っていた小学校の担任で、名前の通り優華の親友・直子の実の母親である。幼少期の直子は両親に過度に甘え過ぎる気質があったため、穏子の意向で自分が務める所とは別の小学校に直子を預けることにしたらしい。

数分後に職員室から穏子がタイムカプセルの入った缶のケースを持って走ってくる。


「これでいいかしら〜?」

「はい、確かに受け取りました!わざわざありがとうございます!」

「うむうむ、もっと褒めるがよい!我は褒められて育つ身でな〜!」


(この独特な言い回し、やっぱり親子だなぁ)


その後、三校目で落ち合った二人は無事に三つ目のタイムカプセルを回収し終え一度学校にタイムカプセルを置きに行く。


「おー、わざわざご苦労なこった」

「だーれのせいだと思っているんですか、誰の⁉︎」

「そーだそーだ〜!」

「悪かったよ、おかげで俺も安心してyukiちゃんの勇姿を見届けられるよ」

「映画なんて休日にでも見に行けばいいじゃないですか」

「それがさ、そういうわけにもいかねえんだよ」


やる気の感じられない無表情で五大は職員室の窓を開放して、胸ポケットから煙草とライターを取り出す。


「一応生徒の前であることを忘れないでくださいね?」

「えっ、駄目なの?」

「まったく…そもそも校舎内は喫煙禁止ですし、他の先生に怒られても知りませんからね!」

「あのなぁ、この学校で喫煙者は俺だけじゃないんだぞ!それくらい許せ」

「へえ〜、他には誰がいるのですか〜?」

「そうだな…意外な所で言うと理科オタクの松川とか」

「ゆりちゃん⁉︎吸うんだ〜」

「あの松川先生が煙草とは…確かに意外ね」

「ゆりちゃん?あいつのことそう呼んでるのか?」

「他の生徒がいない時に限りますけどね、なんというか言わされてると言いますか」

「???まあいい、しかしそうか…あの松川がゆりちゃんね…」

「五大先生はゆりちゃんのこととか興味ないの〜?あんな美人さんは放っておいたら誰かに取られちゃうよ〜?」

「ばーか冗談はよせ、お前らあいつのことよく知らねえからそういうこと言えるんだよ」

「ほう、ならば聞かせてもらおうか?そいつのことを」

「しょうがねえ、あんまりバラすとネチネチ言われっから少しだけだぞ…ってうお⁈」


気配がなさすぎていつのまにか松川が入室していたことに優華や直子も気がつかなかった。

松川は腕を組んだまま鋭い目つきで淡々と言う。


「どうした五大?早く言ってみろ」

「チッ、また面倒なのが来やがったか…そんじゃ俺帰るわ」

「あっ!おいこら待て!…くそ、逃したか」

「ゆりちゃんは五大先生となら緊張しないんだね〜」

「はっ、あんな腑抜けに緊張などしていられるか!」

「散々な言いようですね」


五大が去った後腰に手をつき大きくため息をつく松川。


「で、ゆりちゃんはなにをしに来たの〜?」

「何をって私はここの教員だぞ、何も準備室を寝床にしているわけではない」

「松川先生の場合、寝床にしていても違和感が無いんですが…」


こうして二人はタイムカプセルを職員室に置いて、そのまま下校することにした。

空はすっかり夕暮れ時、長い坂道には一定間隔設置された街頭が点灯している。


「タイムカプセル、上手くいくといいね〜」

「そうね、童心に帰るっていうわけじゃないけど皆んなに楽しんでもらえたらいいわね」

「童心かぁ…ちっちゃい頃の優華ちゃんてどんな子だったの〜?」

「小さい頃の私?恥ずかしいからあまり人に話したことはないのよ」


(だって小学校高学年まで泣き虫だったなんて言えるわけないじゃない!)


「ほう、恥ずかしいとな?それはあれかな?いつもキリッとしてる優華ちゃんが実は泣き虫だったとか〜?」

「あんたはエスパーか⁉︎」

「もしかして当たってる?やっぱり〜!」


(やはりこの子の勘は侮れないわ…!)


ほぼ正確に自分の過去を見破られ、思わず優華は赤面する。

そして直子はそのまま何気ない質問をしてくる。


「ではでは〜、優華ちゃんのママはどんな人だったの〜?」

「えっ….あ、ああ!パパのことね!」


一瞬頭の中が真っ白になった優華はすぐに頭を切り替えて笑顔で答える。


「私のパパはいつもふざけてばかりでおちゃらけたイメージだけど、頼りになるのよ―――」

「ん〜?違う違う、優華ちゃんのパパには何度かご挨拶してるから大体わかるよ〜?そうじゃなくて優華ちゃんのママはどんな人だったの〜?」

「私の…ママ…?」

「そうそう、たしかこの前優華ちゃんのことを生んでから亡くなったって聞いたけど…優華ちゃんのパパからはママのお話とか聞いたことないの?」

「ママの話…パパからは聞いたこと…」


――――ガチャガチャ、ピピッ――――


その時、またしても優華の視界は砂嵐に包まれる。


(これは、お昼の時に見た現象…⁈)


先程まで隣で歩いていた直子の姿は見られず、夕暮れ時の風景は一瞬で砂嵐に切り替わる。

そして優華の視界に映ったものは―――


「なっ…⁉︎」


ノイズ音や砂嵐混じりの映像だが、目を凝らせばそこに映る人の表情が確認できた。

情景からどこかのスーパーの中らしき場所で、一人の子どもを遠くから二人の大人が見守っていることが読み取れる。


「これって…私⁉︎」


映像では青い髪の毛を肩まで伸ばした女の子が買い物かごを肩に抱えて涙目で辺りを見回している。そして女の子の頭からは見覚えのある猫耳が生えている。

そして幼い優華を遠くから見守る大人二人は男性と女性であり、男性の方は優華のよく知る人物であった。


「パパと、この女の人って…まさか⁉︎」


いつも明るく、しかし黙っていればそれなりに強面な優華の父・猫神健介そのものである。ただし、白髪の生えていない頭やシワの少ない顔から優華の知る健介よりも十年くらい若い頃だと推測できる。

問題は健介の隣で同じように心配そうな表情で優華を見つめる女性。青い髪を背中まで伸ばし猫耳の生えた頭に作業所で見られるセーフティゴーグルをかけて、つなぎを着用している。

自分と同じ髪の色に同じ猫耳。


「私のママなの…?なわけないよね…」


(パパと一緒にいるし、少なくとも私の親戚かなにかよ)


すると新たに大小様々な画面で複数の映像が映される。雲一つない青空の下で春の桜を見に行く映像。夏の暑さも気にせずに広い公園で走り回る映像。秋の紅葉を背景に絵を描く映像。冬の寒さを紛らわすために三人で寄り添う映像。どの映像にも優華と健介、そして青い髪の女性が必ずいた。

そして何事もなかったように映像は砂嵐と共に消える砂嵐が完全に消える直前、何者かが優華に語りかける。


―――ケッシテ、メヲソムケルナ―――


「…この声⁉︎」


声の主に語りかけようとした時には数分前まで下校していた坂道に戻っていた。

ノイズ音も誰かもわからない声も本当に聞こえたのか疑うほどに静かな夕暮れ時。


「―――でねでね〜、その時私は咄嗟に避けたんだよ!そしたら…って優華ちゃん?もしも〜し?」


直子はそこでようやく優華の異変に気がつく。優華は虚空を見つめて呆然と立ち尽くしていた。その目からは大量の涙が流れてはまた溢れ出ている。


「…優華、ちゃん?」

「…………なんで」

「うん、どうしたの?」


優華は直子に振り向くと、直子の両肩を掴んで訴えかけるように叫ぶ。


「なんで!なんで今までこんなに大切な思い出を忘れてたの…⁉︎」

「大切な思い出…?」

「そう!大切な!私の大切なママよ!ママは私を産んで数日後に亡くなってなんかなかったのよ!」


直子には優華の叫びが、行き場のない思いをどこにぶつければ良いかわからない子どものように感じた。


「なんで、なんで―――」

―― がばっ――


感情が高ぶり冷静になれない優華のことをそっと抱きしめる。

優華の頭をゆっくり撫でながら直子は優しく語りかける。


「優華ちゃんは悪くない、悪くないよ」

「でも私…ママのことを――」

「よく考えてみて?優華ちゃんはママが優華ちゃんを産んで数日後に亡くなったという話は誰から聞いたの?」

「それは…たぶんパパだと思う」

「そこだよ優華ちゃん、なんで優華ちゃんパパは優華ちゃんに誤った事実を教えたの?それと確認するけど優華ちゃんはママと過ごしたことを覚えてるの?」

「ついさっき思い出したわ、まるで頭の中にかかった霧が晴れたみたいに」

「どんな人だった?」

「一緒に過ごした時間は数年だけど、それでも私のことを育ててくれた世界で一人だけのお母さんよ!」


優華の返事を聞いて直子はいつものニッコリ笑顔で返す。


「ならもう忘れちゃいけないね〜!」


直子の満面の笑みを見ると、優華は袖で涙を拭い先ほどまで泣いていたことなど忘れたかのように笑顔で返す。


「確証はないけど私にはママと過ごした思い出があるわ!そうと決まれば後はパパに確認するだけよ!もしも隠し事なんてしてたら久しぶりにとっちめてやるんだから!」

「うんうん!それでこそ我らの優華姫だよ〜!」

「うむ苦しゅうない…って誰が姫よ⁉︎」

「えへへ〜」


(直子、あんたがいなかったらきっと私一人で立ち直れなかったわ…)


優華は感謝の意味を込めて直子のことを抱きしめ返す。


「直子、本当にありがとう」

「やだなぁ〜、そういうことはゆりちゃんのために取っておいて〜」

「うげっ!私の前でその名前はNGワードよ!」


(とにかく早く帰って尋問ね!待ってなさいよ!)


ところが人生そう上手くいくものではなかったらしく、自宅に到着した優華はすぐに健介に母のことを問い詰めるとまさかの答えが返ってくる。


「はい?なんだそれ、知らんけど?」

「知らないのかい!」


こんばんは、ばたじょです!

ここまで読んで下さりありがとうございます!

長かったでしょう?でも、これでお話も中間あたりまで辿り着いたという証拠です!一緒に祝杯をあげましょう!→中間はまだまだ続く。


いつもなら後書きで長々と書き記す私ですが、今回は二部構成ということなので、むしろお話してしまうとネタバレになってしまうのです!

ですので、勘弁してくれー!


それでは、第5章・前編はここまで!お次は後編でお会いしましょう!ばいばーい!

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