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優華とみどりと変人と  作者: ばたじょ
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第3章 仲良くなりたい

どうも、ばたじょです!えー、今回は校内放送で担任から名指しで呼ばれてしまった二人を待ち受けていたのは!…というお話です。

私は学生時代に校内放送を通して呼ばれたことは一度もないので、もしもそんなことがあれば、当事者はどんな気持ちなのかを想像して書きました。


おっと、これは後書きでする話ですね!それでは、あなたに楽しいひとときを!いってらっしゃい!


五大の呼び出しをすっぽかした二人は、放課後そのまま職員室に直行となる。

だが、意外なことに五大は特に怒ることなく、いつもの適当にすら感じる気だるい調子で話をする。


「まぁそのーなんだ、実際の話、俺が言ったことを一字一句覚えろとか、授業が始まったら機械のように勉強のことだけに徹しろとかは求めちゃいねー」


首から上は担任の業務をこなしているが手元には途中まで剥いたみかん、足元は靴下を脱いでゴルフボールを転がし片足ずつマッサージをしている。


「学校の授業なんて、実際退屈すぎるものばかりだ。俺だってお前らの立場だったら、もしかしたら同じように関係ないこと考えたりうたた寝するのかもしれねー」


だがな、と一呼吸置いて、ようやくみかんの皮を剥く手を止める。


「これだけは覚えておけ…授業をする俺も退屈なんだ、というかもう教師やめたい」

「ぶっちゃけすぎません⁈」

「だって本当のことじゃん、俺も教科書持ってないと内容覚えてねーから仕方ないんだよ」


そう言うと、五大は目線を優華の隣の直子に移す。


「おい直子ー、悪いけどこの書類の担任の欄あるだろ?そうそう、そこに印鑑押しといて」

「ふえ?わかりました〜」

「それって本人以外が押しちゃいけないのでは…⁈」

「細けーこと気にすんなや、俺が監修してるし、それにどうせ今俺の話を聞いてたの優華だけだろ?」

「た、確かに否定できないです…」


五大のいうとおり、五大の話を聞いていたのは優華だけで、直子の視線は五大の卓上のみかんだの、茶菓子だのに夢中だった。というか途中から勝手に食ってた。


「話を続けるぞー、あー…どこまで話した?」

「実際問題、学校の授業を退屈に思うのは私たち生徒だけではない、というところまでです」

「あーそれそれ、そんで国はそんな退屈を義務付けて、全国の子どもたちのみならず大人たちをも苦しめている…そこで俺はある考えに至った」

「うーん…こればかりはどうしようもないのでは?」

「フッ、そう思うだろ?まぁ最後まで聞いておけ」


心なしか今話している瞬間だけ、優華は五大の目が"普段見せることのない少年のような輝いた目"をしてるように見えた。


「こんな話がある、お前は学校に進学するまではどこに通っていた?」

「どこって言われると…中学校や小学校?」

「そうだ、これまで義務教育に従いコツコツと勉強してきたはずだ、ではもう一つ聞く、お前が初めて勉強したのはいつだ?」

「えっ、初めて勉強した時⁈しょ、小学一年…ですか?」

「それだ!!」

「はい⁈」


五大にしては珍しい大声に、ビクッと反射的に身体が動いてしまう優華。五大は気にせず話を続ける。


「何故小学一年を思い浮かべたか…おそらく今後の勉強には欠かせない、初歩的な文字の読み書きを学ぶ時期が、小学一年生だと考えたのだろう?だが思い出せ優華、小学校に入学した時点で少なくとも自分の名前くらいは書ける子はいたはずだ」

「言われてみれば…私も漢字でフルネーム書けてました!」

「そいつはすげえなー、でだ」

「軽く流された⁈」

「…でだ、初めて勉強した時期は"小学生の頃ではない"ことが判明したわけだ」

「ということは…幼稚園ですか?」

「まぁ文字の読み書きにおいてはそうだな、ちなみに優華は幼稚園の先生に自分の名前を何回も書かされたりした記憶はあるか?」

「いや、流石に幼児期でそんなスパルタ教育みたいな真似はされませんでしたよ」

「当然だな、大問題になる」


五大はぐいっと缶コーヒーを口に含む。


「ほえ〜、先生はブラック派ですか〜」

「直子はガムシロ派か?」

「コーヒーと同じ割合で牛乳を混ぜてます〜」

「つまりコーヒー牛乳ね」


ちょっと待ってな、と言い応接室から二つのマグカップと牛乳パックを持ってくる。目の前で牛乳とコーヒーが同じ割合で注がれる。


「話が長くてすまんな、まぁ飲め」

「わーい!ありがとうございます〜!」

「なんで私までコーヒー牛乳…?」

「で、話を戻すが….そもそも俺たちがペンを扱うようになったきっかけは何だ?」

「ペンを扱うようになったきっかけ…?えーっと、ペンというか、初めはクレヨンとかで落書きとかしていて…そこから文字に発展した…?」

「その通りだ。そしてそれがこの話の結論に近い」

「どういうことですか?」

「つまりだな、きっかけはなんであれ、知識のない人間はまず遊ぶ、遊びを通じて徐々に知識をつけていき、そして試行錯誤をする、要するに自分で考える力だな」

「ほう……」

「人は幼稚園で沢山遊ぶ、遊びを通じて学んでいくんだ、そしてその学びを手助けするのが俺たち大人の役割だ」

「おお!なんだか五大先生がいつもより熱い〜!」


どうやら五大に頼まれた作業を終えたらしい直子は、優華と一緒に話を聞くことにしたようだ。


「遊びといっても、毎日同じ玩具で同じことを繰り返すようじゃダメだ。それはもう遊び尽くしたが、特にすることがないために起こりえる遊びの停滞となりあまり好ましくねえ…」


そこでだ、と五大は組む足を変えて話を続ける。


「大人は子どもに新しい遊びを提供するわけだ!何も新しい玩具を与えるだけが遊びの発展とは限らねー、歌・手遊び・ダンスなど、あらゆる分野で子どもの好奇心を促すわけだ」

「まぁ、そうなのですかね」

「ここで間違えてはいけないことは、子どもだけでなくその場にいる大人も一緒に楽しめないと遊びは成立しないということだ」


五大は手に持っている缶コーヒーを机に置くと、より真剣な目つきになる。


「そう、俺たち大人が楽しいと思えねえものをお前ら生徒に押し付けたところで、お互いに損しかしないとは思わないか?」

「まぁそれはそうかもしれませんが…」


優華は言葉を濁す。五大の理論に対して、納得できる点もあるため何も言い返せない。


「そーこーで!!この理論を推奨すべく、今回はお前たちに協力してもらおうと思ったわけだ!」

「えー要するに」


優華はまた面倒なことになったなぁ、と内心でぼやきながら言葉を続ける。


「言い方悪くなりますが、五大先生が退屈な授業を提供したために、私たちは授業に集中出来なかった。ならば、その退屈に感じる点を述べよ!とかですか?」

「途中までは正解だが、惜しいな」


五大は、わざとらしく申し訳なさそうな素振りをして見せる。


「つまりこうだ!退屈な授業を提供してしまった点は謝ろう、すまん!そして、この問題を改善する為に退屈代表者のお前らには、明後日にある俺の授業一コマを使って生徒と教師両方が退屈せずに楽しめる授業をしてもらいたい!」

優華「なるほど〜…ってなるか!」


放課後で他の職員の姿も見られないため、優華も全力ではツッコミをする。


「いいじゃない優華ちゃん、だって面白そうだよ〜?」

「面白そうってまた呑気な…ちなみにその日先生は生徒側になるのですか?」


優華&直子が教師側になるとすれば、当然五大は余り、その場合生徒側として授業を受けるのか疑問である。

優華の問いかけに対して、五大は3秒ほど間を置いて応える。


「俺、その時間は学校にいねーから」

「えっ⁈いやいや!先生のおっしゃることがわかりません!」

「いや、その日のその時間だけどうしても席を外さないといけないんだよ、すまんすまん」

「だからなんでですか⁈ちゃんと説明してくださいよ!」


五大は頭をボリボリ掻きしばらく唸った後、重くその口を開いた。


「その日は観たい映画があるんだ、お前らに授業をするか昨日上映開始された映画・バタフライエンジェルyukiを視聴するか…正直迷ったが、僅差で俺は映画を観に行くことにしたよ。すまんな」

「いや仕事してくださいよ!先生それサボりたいだけですよね⁈」


そもそも、優華はそんな映画が上映された話すら初耳である。


(大体なんだバタフライエンジェルyukiって、間抜けなネーミングセンスね…!)


「とにかく、その日の一コマはお前ら二人で授業をしろ!内容は、よほどぶっ飛んでなけりゃなんでもいい!それが今回のペナルティだ!」

「ええ…」

「なんなら、今から呼び出しをすっぽかしたことを追求しても構わんぞ?」

「うっ、あーもうわかりました!引き受けてやりますよ!」

「おーおーその意気込みだ、よし話は以上、解散ー」


五大との話を終え二人は、職員室を後にする。


「あーあ、真面目な話かと思ったらペナルティ押し付けたいだけじゃない!」

「まあまあ、授業は明後日だから、明日ゆっくり考えよう〜。それに私結構楽しみなんだよね〜」

「そんな気楽なもんかしら…?」


二人は話しながら、帰りの支度を済ませに教室へ戻る。

時刻は夕方の17時を示している。帰りは坂道を下るので行きより10〜20分くらいは早く帰れるだろうと考えていると、直子が炊飯器を取り出す。


「いけない、これ料理研究部に返しに行かなくちゃ!優華ちゃんは先に帰ってて〜」

「うんわかった、直子また明日ね」

「ばいばーい〜」


そう言うと、直子は空になった炊飯器を返しに行く。


「私は早く帰って夕飯の支度を手伝わないとね」


優華は部活動に所属しない代わりに、家事や仕事の手伝いをしている。経済面で困っていないとはいえ、猫神家は二人の娘を持つ父子家庭であるため、父の手伝いはなるべくするように努めている。

実際は物心ついた頃から、父が経営する喫茶店の仕事に興味を持ったことがきっかけである。それ以来、小中高と変わらず率先して仕事を手伝っている。

喫茶店は小規模で、人手は健介一人、もしくは優華を合わせて二人でも十分に経営可能である。そのため必然的に手が空く妹の風華はというと、放課後は演劇部とアニメ研究部を交互に勤しんでいる。

風華曰くアクションスターになるためには架空の人物を知ることも大事ということでアニメ研究部にも所属しているらしい。

現時点ではアクションスターを目指している風華だが、少なくも家の喫茶店を継ぐ可能性はゼロだそうだ。そのため優華は喫茶店の仕事をしたい気持ちや健介への恩返しも含めて喫茶店・Time of peaceを継ごうと考えている。

そんな将来に関することを妄想しながら坂道を下っていく。やがて坂道を下り終えると、そのまま車道に沿って直進していく。家まであと10分の所で唐突に足を止め、思考する。


「みどりちゃんと初めて出会ったのは夢の中…それもパパやママと一緒にいた…」


何度か経験した同じ夢、しかし今朝はその夢に出た緑頭と遭遇してしまった。つまり、みどりちゃんは実在していた。そして、みどりちゃんと遭遇するまでは、何度も同じシチュエーションで夢に見た。何をしているかまではわからないがみどりちゃんと一緒にいた父や母からは幸せそうに感じられた気がした。


「もしかすると、パパはみどりちゃんのことを知っているかも⁈」


その考えに至った優華は、真相を確かめるべく帰る足を早める。

昼まではみどりちゃんのことを毛嫌いしていた優華であったが、今は違った。あの正体不明の緑頭のことを知りたいという気持ちに変わっていた。


「みどりちゃんと通じ合うには、まずは相手のことをよく知ることよね!」


しかしこの後、優華の予想は大きく外れることになる。

途中から駆け足で下校し、予定よりも20分程早く自宅の喫茶店に到着する。

到着するや否や優華はまだ営業中であるTime of peaceの扉を勢いよく開け放つ。


「パパ!聞きたいことがあるんだけど!」

「うわっ!…なんだ優華か、そんなにハイテンションな姿を見せるのは小学生の頃にテストで100点を取った時以来だなぁ!」

「いや、中学生の頃から暗い人だったみたいに言わないで!…あと100点なんて取ったことないわよ!」

「おおそうだったそうだった!確か小学6年の時に、漢字テストで満点を取ったらでっかい猫のぬいぐるみを買ってやる約束をして、いざテストを受けたら全問正解だったが自分の名前を記入漏れしたために100点どころか0点を取ってしまった優華ちゃんじゃないか!」

「人の失敗談を本人よりも鮮明に記憶するな!」

「はっはっは!ツッコミを入れる元気はあるというとは、そこまで深刻な問題ではなさそうだな!」

「えっ、私を元気付けるための芝居だったの…⁈」

「んー?なんなら他のネタもあるぞ〜?そうあれは優華が小さい頃、俺と一緒に公園に行った時の話だが………」

「言わなくていいわよ!……じゃなくて!聞きたいことがあるの!」

「チッ、ここからが面白いのに…」

「な、殴りたい…!」


恐らく、本人よりも優華に関する恥ずかしい過去を詳細に覚えているであろう健介に、口では勝てないと悟り実力行使を考える優華。


「いいじゃん別にー、どれもこれも楽しくて微笑ましい思い出ばかりだぞ?」

「数ある思い出の中からチョイスする記憶がおかしいのよ!」


ひとしきり優華のことをからかい、満足した様子の健介である。やっぱり殴ろうかな、警棒とかで。


「で?聞きたいこととは?」

「そうそう聞きたいこと!実は今日の朝に変な緑頭と出会って!…何か思い当たることない⁈」

「ごめん、今の説明だけじゃパパは1ミリも理解が追い付かないよ」


優華は今朝、みどりちゃんという謎の生命体と出会ったことから特徴や、実際にあった出来事など、話せることは全て話す。その間、健介は最初は疑問を浮かべる顔をしていたが、途中から真面目な表情になり優華の話を無言で聞く。


「…….てことがあったの!パパ、何かみどりちゃんに関して知っていることはある?なんでもいい、断片的でも情報が欲しいの!」


しばらく優華の話を無言で聞いていた健介は、ようやくその口を開く。


「うん、全く知らん」

「いや話聞いてる時に知ってそうな雰囲気出してたでしょ⁈」

「だって知らないもん、というかなんだそのみどりちゃんってのは…ラノベ作家でも目指しているのか?」

「目指してない!大体人外緑頭に翻弄されるヒロインてなんなのよ⁈」

「お?自分がヒロインポジションのつもりだったのかい優華ちゃん?」

「な、なによ!うるさいわね!」


健介のイジリ攻撃と格闘しながらも、優華は疑問に思っていた。いざ聞いてみたら、健介はみどりちゃんのことを全く存じていないときた。では何故、夢の中でみどりちゃんと一緒に父と母が写っていたのだろうか。ヒントだと思っていたが、当てが外れ振り出しに戻る。

補足すると、Time of peacに来る客層は老若男女問わず常連客が多い。優華が幼少期の頃から、喫茶店が営業中でも健介と微笑ましく…というか騒がしく過ごしている光景は日常茶飯事である。そのため、常連客などは特に気にすること無く過ごしている。


「ところで話は変わるが、小学生の頃に埋めたタイムカプセルはもう掘り起こしたのか?」

「タイムカプセル?うーんまだだけどどうして?」

「いやなに、当時優華は未来の自分に手紙を書くと言い出して…それはもう一生懸命書く姿は本当に可愛かったぞ」


過去の話をする健介の表情は楽しそうだがどこか寂しそうにも見えた。健介が過去の話をする時は大体優華の話だが、何か話したいことはそれだけではないように優華は感じる。


「それに手紙だけならまだしも、未来の自分に見せてやるんだって、蝉の抜け殻だの生きたアマガエルだのを次々とタイムカプセルに入れようとした時は流石にパパは引いたぞ」

「だーかーらー!私の話 はいいのよ!」


結局、みどりちゃんに関する有効な情報は得られず、夜を迎えたのであった。――――――――――――――――――――――――

そのまま時間は経過し、翌日の登校中である。

今朝も猫神優華と温厚直子、といういつも通りの組み合わせである。ちなみに、この日はまだみどりちゃんと遭遇していない。

優華は、自分の両親とみどりちゃんは関係があるのではないかと推測し、確認したものの、父曰く、全くの無関係であったことを直子に報告する。


「――というわけだったのよー…」

「ふむふむなるほど…確かにその線はありそうだね〜」

「でしょ?でもパパは全く知らないの一点張りよ」

「そうなんだ〜。となると、優華ちゃんは本当に知らないか、それとも…」


直子は手のひらを顔に当ててニヤリと一言。


「知っているけど知らないと嘘をついたかだね!」

「そ、そうね」


勝ち誇ったように顔をキリッとする直子に、苦笑いで返す。


「知っているけど知らないと嘘をつく…か」


優華の知る限り、健介という人間はおちゃらけてはいても、絶対に揺るがない芯がある印象であった。それに、今日まで健介は優華に嘘をついたことが一度もない。そんな健介のような大人を目標にしていることは、本人には秘密である。


「となると、知らなかった説が有力そうね」

「えー!これから猫神家の隠された秘密が解き明かされたりしないの〜?」

「だー!そもそも猫神家に隠された秘密なんてありゃしないわよ!……強いて言うなら、ママのことくらいよ…」

「そういえば、優華ちゃんはママに会ったことはないんだよね…?」

「いや…正確には私を出産してから数日で亡くなったらしいわ、だから指で数えるほどしかないけど、生まれたばかりの私とは対面してるはず…」

「……?優華ちゃんのママかぁ〜、とても美人さんだったと私は読むよ!」

「うん、きっと美人よ、美人だった…はず、パパは幸せ者よ」

「そうだね〜」


優華は会話の中で、ところどころ自分の発言に違和感を感じるが、些細なもの忘れだろうと思い、考えるのをやめる。

会話が次の話題になるところで、二人は学校に到着する。

優華が早起きの習慣を続ける理由の一つとして、敢えて生徒の少ない時間に登校し、静かな雰囲気を楽しむというものだ。正門を通り玄関の扉を開けると、生徒の声は聞こえず、廊下を行き来する職員も少ない。


「これが早起きの特権ね!」

「優華ちゃんは人混みとか騒がしいの苦手だもんね〜」

「そりゃそうよ、私からすればああいうのは雑音にしか聞こえないの、皆が自分の思い思いに言いたいことを話して…なんだか耳が受け付けないのよ」

直子「確かに一理あるね〜、ずーっとワイワイしてる空間は疲れちゃうもんね〜」

他愛もない会話をしながら、優華は下駄箱に靴を入れ、上履きを取り出そうとする…と――――――


「……………あんた何やってんのよ…」


下駄箱の中には、ツヤのある緑色の髪の毛で埋め尽くされていた。足から下駄箱に入ったため、最後に頭を入れる羽目になり、こんなカオスな状況に陥ったのだろう。


「まったく…よいしょっ!」


優華は問答無用で緑頭を鷲掴みにすると、そのまま勢いで引っ張る。


―――スポッ――――


鷲掴みにされた緑頭は、綺麗に引っこ抜かれる。当然だが緑頭の正体はみどりちゃんであった。今回も"何を考えているか読み取れない無表情"である。


「ま、丁度いいわね みどりちゃん、また聞きたいことがあるんだけどいい?」

みどりちゃん「…………プイッ」

「うんありがと…ってまさかの拒否⁈」


これまで自分の感情を表に出さなかったみどりちゃんが、初めて嫌がる素振りを見せたので、予想外の反応に優華は驚きを隠せない。

すると、やり取りを見ていた直子が口を開く。


「違うよ、優華ちゃん」

「えっ、今のやり取りの中で私、何か間違いとかしてた⁈」


困惑する優華の問いに、直子は深刻な表情で答える。


「うん…というよりも、今ではなくこれまでにおいて、かな?」

「そ、そんな前から⁈」

「いい?優華ちゃんはね、初対面の時からみどりちゃんに対して何をしてきたの?」

「何をって…ツッコミ?」

「他には?」

「他⁈……えーっと…質問?」

「あとは⁈」

「ええ…、あとは……強いて言うなら避けてたこと?」

「その通りぃぃぃぃ!!」

「ひっ、どひゃぁぁ⁈」


またまたいきなり大声を出す直子に、優華は驚きのあまり派手に腰を抜かす。


「な、直子!それびっくりするから!」

「えへへ、ごめんごめん〜」


涙目で訴える優華に、照れながら謝る直子。優華は、床に座ったまま抗議をしようと直子を見上げた時、あることに気づく。


「…あれ?ヘアピンの色って赤だった…?」


直子の頭に付いたヘアピンの色。昨日見た時は緑色や黄色であったが、今は赤色を示している。

そんな優華の発見に気づくこともない直子は、大袈裟に手振りをしながら語る。


「コホン、話を戻すとね〜優華ちゃんはみどりちゃんとのコミュニケーションを殆ど一方的に避けている!」

「そこまで拒絶してたかしら…?」

「してたよ!そして、みどりちゃんはとうとう我慢できなくなったというわけ!」

「つまり……私はどうすれば?」

「まーだわからないのかね?つまり、みどりちゃんは優華ちゃんに構って欲しいのだよ!」


何を言い出すかと思えば、また信憑性の薄い推測である。普段無感情な雰囲気のみどりちゃんが、こちらに何かを求めるなど優華には考えられない。


「要するに…私が、みどりちゃんのことを避けている態度が気に入らない…合ってる?」

「そうだね〜、気に入らないというよりも…みどりちゃんの場合はもっと単純な話かもしれないね〜」

「単純…?」

「昨日、屋上で話したこと覚えてる?みどりちゃんからのメッセージかもしれないって話」

「う、うん」

「ここからは私の予想だけどね〜」


直子は一度言葉を切り目を閉じる。その後、まるで自分自信の思いを訴えているような、穏やかでありながらも真剣な眼差しで話す。


「みどりちゃんは寂しがり屋さんなんだと思うかな…」

「寂しがり屋さん…?」

「うん、優華ちゃんはみどりちゃんに対してあまり良い印象を持ってないよね?でも、みどりちゃんは正反対に、優華ちゃんに関心があるんじゃないかな〜?」

「この緑頭が私に関心を⁈」

「前にも話したけど、みどりちゃんは初対面の時から今日まで、私や他の人がいる中で常に優華ちゃんの前に姿を現していたよね〜、それに危害は加えてこなかったもんね」

「お弁当の件を除いたらね…」

「それはそれ、これはこれ!」

「私の被害は後回し⁉︎」

「とーにーかーく!」


直子は優華の両肩を掴み、真っ直ぐこちらを見る。


「今みどりちゃんは退屈してるの!私も協力するから仲良くしてあげて!…それに――」


内緒話をするように小声で優香に耳打ちする。


「親密度を上げておけば、みどりちゃんは優香ちゃんが知りたいこととか教えてくれるかもしれないよ〜?」

「ハッ、なるほど…!」


みどりちゃんの気持ちを汲み取りつつも、目的を忘れていない直子である。意外と直子は頭が回る方なのかもしれない、と優華が感心していると、先程まで足元に佇んでいたみどりちゃんは二人を置いて廊下へと歩き出していた。


「仕方ないわね、とりあえずホームルームが始まるまでは暇だし…それまでみどりちゃんと学校探索でもしますか!」

「うんうん!私も賛成だよ〜!」


優華としては、別段みどりちゃんのことを嫌っているわけではない。ただ非現実的な存在であったり、突然出現したりするので少し苦手であっただけなのである。それに仲良くできるならそれに越したことはない。

優華はよちよちと二足歩行をする緑頭の目の前に立つ。そして同じ目線になるようにしゃがみこみ優華なりに思いを伝える。


「みどりちゃん、少しだけ私の話を聞いてくれる…?」

「……………………?」


みどりちゃんは単色の瞳を優華の方に向ける。


「まず始めに…ごめんなさい!私、無意識にあなたのことを視界に入れないよにと避けていたわ」


優華は、先程までみどりちゃんに対して思っていた心情を偽りなく話す。


「そして、避けていた理由を話すには、私の秘密も明かさなければいけないわ」


父と直子だけが知っている他の人には絶対に話せない優華の秘密。だがこの時、みどりちゃんには話してもいいと思った。

優華は自分の胸に手を当てて深呼吸をする。そして自分の頭から普段は見つからないように、引っ込めている猫耳と尻尾を出現させる。


「…いつもは隠しているんだけど、私は他の人と違って猫耳と尻尾があるの」


中学生の頃直子に話したのが最後だったなぁ、と思いながら話し続ける。


「小さい頃はね、自分意思で出したり隠したりすることができなくて…おかげで当時住んでいた町の人からは奇妙がられたわ。今は自分の意思で隠すことができるようになったけど…泣いたり怒ったりと感情が高ぶると、隠しきれずに出てきちゃうわ」

「優華ちゃん…頑張れ…!」


直子は少し距離を置いて優華のことを見守る。かつて中学生の頃に優華が直子に話した時は、今と違って父以外に秘密を知っている人がいなかった。そのため、何かに怯えるように顔が強張って泣き出しそうだった。そんな優華の一面を知っているからこそ、直子は勇気を出して秘密を明かすことにした親友を見守る。


「だから、私は小さい頃から他の子と同じように、普通に生活していきたいと思うようになったの、ある時はこんな耳さえなければ…なんて思ったこともあったわ」


それでもね、と優華は何か憑き物が取れたようなスッキリした顔で話す。


「私にとってこの体質は、私を生んでくれたママとの繋がりであり、とっても優しくて、一緒にいると楽しい親友と引き合わせてくれたきっかけでもあるわ」

「………………」

「そして、親友の次には新しい出会いを引き寄せてくれた…それがみどりちゃんなんだと思う」


そう言うと、優華はみどりちゃんを自分の胸に抱き寄せる。


「普通の生活も良いけど、非現実な生活も、やり方によれば楽しいもんよ!…それにさ、お互い非現実同士みたいなものじゃない?これから仲良くやっていけると思うわ」

「……………………コクン」

「よし!…そうと決まれば早速探索開始よ!」

「うんうん!ようやく優華ちゃんらしくなってきたね〜!」

「私らしくって…あ、また色が変わってる」

「むむ?色?」


先程まで赤色だった直子のヘアピンは、黄色に変わっていた。


「どうやらこのヘアピン、みどりちゃんと関係はあると思ってはいたけど…何を示しているのかしら?」

「あ〜ヘアピンの色ね〜」


ようやく話の内容を理解できた直子は、頭に付いたヘアピンを取って見せる。


「ヘアピンの色は、みどりちゃんの感情を示していたりしてね〜」

「感情…確かに、さっき不機嫌だった時は赤色だった!直子って意外と頭冴えてるわよね」

「そんなことないよう〜。でも、そしたら今ヘアピンは黄色だけど、これは何を表してるんだろうね〜?」

「……ワクワクしてる…とか?」

「…………プッ」

「ちょ、なんで笑うのよ!」

「あはは、ごめんね〜、優華ちゃんからワクワクというワードが出るとは思わなかったから…プッ」

「うぅ〜…!」

「でも、ワクワクはあながち間違えではないかもしれないね〜、今はみどりちゃんも楽しそうだし〜」

「それじゃ学校探索は正解だったようね」


探索に向けて足を進める優華に、直子は嬉しそうににっこり笑顔で囁く。


「仲良くなれて良かったね、優華ちゃん」

「べ、別に….和解しただけだもん!」


笑顔の直子に対して、照れ臭そうに顔を背けて返す優華。

そんなこんなで二人と一体の緑頭は学校探索を始めるのであった。

こんばんは!ばたじょです!

いかがでしたか?前書きで記していたことを訂正すると、校内放送で呼ばれた側ではなく、呼ぶ側の気持ちを想像して書きました!


という話は隅に置いておき、今回は第3章に登場した五大先生についてお話しましょう。

実は、物語の中でこのキャラクターに関しては、ビジュアルだったり設定だったりを考えることが一番難しかったです。

私の場合は、絵を描くのが好きなので描く前提でイメージしたり、後は思い切ってイラストにしてしまうなどでキャラクターを作成しています。しかし、ここで問題が。私・ばたじょは基本的に女の子しか描かないのです!だって可愛い絵の方がモチベーションが…はいすみません。


そのため五大先生はラフ絵すら描くことが出来ず、今のところ保留のままです。気が向いたら描きたいですねー。何年後かに。


それでは第3章はここまで!お次は第4章ではお会いしましょう!ばいばーい!


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