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優華とみどりと変人と  作者: ばたじょ
3/10

第2章 レッツグリーンライフ

プロローグから引き続き閲覧して頂けた方はこんばんは!そして第2章から読んだあなたは初めまして…流石にいるわけありませんよね⁉︎


タイトルの通り、レッツグリーンライフでございます!今回は謎多き緑頭と共に過ごす学園生活の様子を中心とした内容です。

注目して欲しいところといえば、これから話が進むにつれ、登場してくる個性の強いキャラクターたちですね!


それでは、あとがきでお会いしましょう!

いってらっしゃいませー!


XXXX年 四月十九日 金曜日お天気 晴れ

それは突然の出会いでした。知らない間に私の頭の上に乗っていたそうで、名前はみどりちゃんと言うらしいです。みどりちゃんは、色々な所に現れては楽しそうに遊んでいるようです。

出会ってから今日で五日目を経過しようとしてますが、みどりちゃんを見ていて思ったことがあります。 それはあの子は人間ではないということ。たぶんあの子は妖精さんか何かで、初めて出会ったあの日は、きっと寂しくてひょっこりと出てきたのだと思います。 だから、私はみどりちゃんを見かけたら自分から関わるようにして、もう寂しくないんだよって感じてくれるまで頑張ろうと思います。

それに、みどりちゃんと一緒にいるとなんだか胸の奥が暖かくなるような気持ちになれるのです。

記入者 温厚直子


「はあ、はあ、一体どういうことよ!!」


時刻はお昼休み。退屈な授業を受けた後、生徒たちは空腹を満たすために食堂へ向かう者もいれば、持参したお弁当を教室で食べたりと、賑やかな様子だ。周りがお昼ムードを満喫している中で1人だけ、猫神優華だけは違った。現在お昼休み、優華は教室を飛び出して屋上に向けて走っていた。本日2回目の全力疾走である。


「待ってよ!優華ちゃーん!」


走る優華に続き、自分のお弁当、というか炊飯器などを抱えて追いかける直子。平凡なお昼時に、汗を流す羽目になった訳を説明するには、彼女たちが登校した時間まで遡る必要がある。――――――――――――――――


「やっと着いた〜….」

「ひゅっ、ひゅうかちゃんっ、ひょろひょろっ、手を離してっ!」

「へ?ああ!ごめんごめん!」


慌てて手を離し直子を解放する。人外・緑頭と出くわしてから学校に着くまでの間、本能的に逃走を選択した優華は、直子の首根っこを掴み、引きずりながら通学路の難所である坂道を登りきったのであった。


「ゲホゲホ!やっと息ができるよ〜、ひっひっふー」

「大丈夫直子⁈ほんとごめん!ってあんたはいつから妊婦さんになったのよ⁉︎」

「えへへ〜、もう大丈夫だよ気にしないで〜」


こんな時でもマイペースな直子である。でもそんな直子だからこそ、一緒にいて楽しのだろうと優華は心の中で親友に感謝する。


「さて、とりあえず学校には着いたし、早いとこ日直の仕事を済ませましょうかね。」

「せっかくだから私も何か手伝うよ〜?」

「ありがとうね直子。でも、日直の仕事なんてそんな手間かかるものは無いし、時間も沢山あるから大丈夫よ。」

「ふええっ⁈優華ちゃんにフラれちゃった〜」

「なーに言ってんのよ」


いつも通りの茶番を適当に流す。時刻は8時、ホームルームが始まるのは8時45分なので、日直の仕事を済ませるには十分である。とはいえ直子とは同じクラスなので、教室まで一緒に向かうことにする。そして教室の扉に手をかけようとした瞬間、優華の全身に何か悪寒のようなものが走る。霊的なものではないが、優華にとっては正直もう出くわしたくないような…。


「流石にいるわけ….ないよね…?」

「どうしたの?教室に入らないの?」

「ううん、なんでもない」


ここで立ち往生しているわけにもいかない優華は、意を決して教室の扉を開ける。


ガラガラガラ――――――


「…………………………………」

「??????」


教室に入り、まずはじめに周りを見渡す。特に異変はなく、優華の知っている教室の風景である。

安堵した優華は、手始めに花瓶の水を変えることにする。


「….…ふう、考えすぎだったか――――」


見つけた。見つけてしまった。花瓶は平常通りである。だが、そこに生けてあるそれはただの花には見えない。というか、顔周りにひまわりのような黄色い花びらをつけた、みどりちゃんである。

再び非現実と対面してしまい、言葉も出ず硬直する優華。


「あ〜!みどりちゃんだ〜!」


直子は想像通りのリアクションである。

みどりちゃんは、顔周りの花びらをくるくると回転させながらも、表情は先程と同じ無表情のまま、単色塗りの目でまっすぐにこちらを見ている。


「こちとらあの坂道を走って来たのに…なんで先にいるのよ⁉︎」


みどりちゃんが教室の中に存在すること自体おかしな話なのだが、100歩譲ってみどりちゃんがいるにせよ、優華たちよりも先に学校に着いたことが既に、"怪奇現象"である。

当の本人は優華の問いにこたえるわけでもなく、優華のことを見つめながら花びらを回転させている。


「答える気はゼロ…のようね」


ちなみに直子はというと、「ほえー」と言いながら、みどりちゃんの回転する花びらに夢中のようだ。


「えーっと…みどりちゃんだっけ?学校は学生が勉強するために通う学び舎よ。あんたがここにいても面白い物は無いと思うわよ?」

「….……くるくるくるくる…」

「とにかく!居続けたいのなら、他の人に見つからないようにね!それと私の学生生活の邪魔はするんじゃないわよ⁉︎」


ここまでノーリアクションだと、本当にこちらの言葉が通じているのか怪しくなるが、まぁ悩んでいても仕方ないので、とりあえず花瓶は放置で他の作業に入る。

意外にもその間みどりちゃんは、特に何をしてくるわけでもなく、花びらをくるくると回転させているだけであった。


「別に期待していたわけじゃないけど…私の言いつけが通じたのかしら….?」


何事も無く時間通りに日直の仕事を終えた時には、先程まで異彩を放っていた緑頭は居なくなっており、そこにはポツンと黄色い花が生けてある花瓶だけが残っていた。


「ちょっとキツく言い過ぎたかしら…?」


その後ホームルームを終え、午前の授業が始まったが、その間もあの緑頭は一度も姿を見せることはなかった。

突然始まった非現実は突然終わり、いつもの学生生活が流れていく。今日も早起きをして規則正しく過ごしていたが、その日は珍しく、優華は授業に集中することができなかった。講師の口から飛んでくる内容は耳に入ってこず、頭の中は今朝出会った緑頭のことでいっぱいであった。隣の席を見ると、親友が机に突っ伏して爆睡している。


「むにゃむにゃ…みどりちゃ〜ん…」


眠っていてもやはり、緑頭のことを心配しているのだろうか。


「….やっぱり探した方が良いかな….」と直子の寝顔を眺めてぼやいているとあることに気がつく。

直子の頭につけてあげたヘアピン。今朝見たときは緑色だったはず。だが今見ると、ヘアピンは黄色に変わっていた。


「これは一体何を表しているの?….ってそういえば、確か直子が今朝ヘアピンを手でこすっていたよね⁈」


ヘアピンの色も気になるが、それよりも確実な方法を思い出した優華は、思わず口に出して、瞬時にハッと我に帰る。急な大声に、周りのクラスメイトたちはぽかんとして優華に目線を向ける。もちろん進行していた授業は一時中断して、担任の教諭が気だるげに問いかける。


「夢でも見ていたのか?」

「あー…まぁなんというか、ちょっと考え事をですねー…」

「まぁそのーなんだ、とりあえず優華と爆睡決め込んでる直子は昼休みに職員室なー」

「なっ⁉︎….はい、すみませんでした…」

「よーし授業再開するぞー…ってあれどこまで話したっけ?あーめんどくせー、まぁ予鈴まであと15分だし大人しくしてろよー」

そう言い残すと担任は教材諸々を片付けてそそくさと教室を出て行く。


「き、起立!礼!着席!」


優華のクラスの担任を務める五大庄真ごだいしょうまは、他の教職員とはどこか雰囲気が違うことを、入学式の対面時に生徒たちは察している。全体的に覇気が無く、中途半端に生えた髭や白髪、ネクタイを着用せず第二ボタンまで開けたシワシワのワイシャツ姿が、より一層やる気を感じさせられない。極めつけは、優華たちに掛けた言葉が「気張るな、何事も程々にな」である。一時会場は軽くどよめきを見せたが、他の教職員は特に気にすることなく過ごしていた。

そんな五大だが、他の教職員との違いは見た目だけでは無い。彼は基本的に気まぐれ思考のため、先程のように途中で授業が中断されたり、唐突に煙草を吸いたくなったりと、色々要因を付けて自習にするとんでもスタイルである。

そのため、五大の言う「大人しくしてろ」は大体授業を切り上げて自習の合図である。入学して二週間立つがこればかりは優香もまだ慣れない。


「私、五大先生に…というか先生に呼び出しくらうの初めてだな….」


授業終了の号令にも反応することなく、爆睡を決め込む親友を眺めながらぼやく。


「………ちょっとだけなら大丈夫かな?」


大口を開いて眠る直子の頭に付いたヘアピン。学生生活初の呼び出しを受けた今の優華に、恐れるものなどない…と謎の自信を持って、優華は直子の頭に手を伸ばして軽くヘアピンをこする。


キュッキュッキュッ……


もしかすると今、自分はいけないことをしているのではないかという考えてしまう。そのせいか手にはじっとりと手汗が滲む。


「………………………あれ?」


しかし優華の期待していた現象は起こらない。今朝のように、花瓶などに紛れているかもしれないと考えるが、そんなこともなく自習の空間には、何ら異常も見受けられなかった。


「あれ⁉︎思い過ごし…?はっ、私の犠牲も報われなかったわけか!」


やけになり言葉が荒くなる優華。と、そこでようやく夢の世界から帰還する直子。


「おはこんにちは〜、そろそろお昼ご飯…ってあれ、優華ちゃん?」

「おはよう直子、どうやら私たちはお昼休みに呼び出しを食らっそうよ」

「えー!優華ちゃんが呼び出し⁈気の毒だね〜」

「いやアンタもよ!」

「ふえええっ⁈」


今日はあと何回直子にツッコミを入れるのだろうか、と平和な思考に陥りそうになるのを堪え、直子に聞いてみることにする。


「急に悪いんだけど、みどりちゃんを呼んでみてくれる?」

「ふえ?みどりちゃん?そんなことできるならもっと早く呼んでるよ〜」

「いやいや、もしかしたら直子にしかできないかもしれないわ、試しにそのヘアピンこすってみて!」

「ヘアピンをこする?えーっと、こうかなぁ…蘇れ!大魔王!デスリターン!」

「今朝とセリフ全然違うし!しかもデスリターンて、死に戻り⁉︎」


茶番を交えつつ、言われるがまま直子はヘアピンをこすってみる。しかし、優華の時同様、何も起こることなく状況は進展しない。


「んー、いけると思ったんだけどな…」

「まあまあ優華ちゃん、みどりちゃんならまたひょっこりと出て来てくれるよ。だからそんなに落ち込まないで〜」

「…うん、ありがとう直子…って待て待て!私は別に落ち込んではいないわよ⁈ただ急に姿を消したから気になって…」

「心配で気になってたんだね〜」

「なっ……………⁈」


優華は図星を突かれたために、慌てふためき言葉が出ない。直子のためと思いながらも、内心では今朝の塩対応をしてしまったこともあり、みどりちゃんのことを心配しているのであった。


直子「今私たちがやることは、もうすぐ予鈴が鳴るから、ひとまずお昼ご飯を食べて、職員室に行って五大先生にごめんなさいをする、そしてお昼休みが終わるまでの時間で、みどりちゃんを探すことだね〜」

「そうね…ありがとう直子」

「うん、大丈夫だよ〜、みどりちゃん見つかるといいね〜」

「………うん」


直子は見かけによらず、とてもしっかりしてしている。普段はマイペースで何を考えているかわからないが、ちゃんと周りを見て、友人が困っている時はいつも助けてくれる。


(やっぱり私より直子の方が大人だなぁ…)


たまに見せる直子の大人な部分。自分には、まだそんな振る舞いはできないからまだまだ子どもだと、静かに敗北感を味わう優華であった。

親友と自分を比較してへこんでいると、唐突に直子が「あっ、そうそう〜」と言う。


「五大先生の呼び出し、何もなければいいね〜」

「あっ………そうだったわね…」


みどりちゃんの件で呼び出しのことを忘れていたが、へこんでいても仕方ないと無理矢理元気づける。


「それじゃ決まったことだし、ちゃっちゃとお昼ご飯食べて五大先生のところに行ってやりますかね!」

「うんうん、その意気だよ〜」


ひとまず、やるべきことを順に処理していくことにした二人は、学生鞄からお弁当を取り出し机に用意する。

優華のお弁当はいつも父親・健介が毎朝作っている。はじめのうちはキャラ弁だの重箱だのと、色々迷走していたが、今では大分落ち着き、普通の女子高生が食べる適切な量と見た目のお弁当になっている。

そんな優華とは正反対に、直子のお弁当は毎度のこと驚かされる。というか直子の普通のお弁当を見たことが、優華には一度もない。前の週末には酢飯の入ったタッパーと色々な種類のネタを持ってきてその場で寿司を握っていた。どうやら彼女は、弁当の意味を外食ならなんでもありと認知しているかもしれない。

そう思いながらも、本日の直子特製弁当の内容に興味があるのは優華だけではなかったらしい。周りのクラスメイトたちは、友達と話したり自分の昼食を食べながらも、視線は直子の手元に集中している。


「むふふ…気になる優華ちゃん?」

「そりゃ毎回、ぶっ飛んだ弁当ですからねー」

「よしよし、ではお披露目しようかな〜…刮目せよ!」


高らかに叫ぶと同時に、直子は弁当箱の蓋を開ける。


「こ、これは…⁈….おかずだけ?」


弁当箱の中身は明太子・梅干し・ごぼうの佃煮・焼き鮭・筋子…とおかずのオンパレードである。


「チッチッチ、これだけではお弁当とは言えないよ優華ちゃん〜」

「だろうね、直子ならこれで終わるわけがないわ」


(ふふ…きっとこの後にご飯の入ったタッパーとかを出して、おかずパーティ…いやこれぞ和風の満漢全席や!とかいうに決まってるわ…!)


「これが本日の直子特製弁当じゃー!」


直子は鞄の中に両手を入れそのまま勢いよく取り出し机に置く。


「こ、これは……⁈」


色とりどりなおかずたちの横に出現したのは、どこの一般家庭でも見られるような炊飯器であった。


「そうきたか!…じゃなくて!それどうやって持ってきたのよ⁈」

「炊飯器は料理研究部から借りて、お米は私が持参したの〜」

「優しいな!料理研究部!」

「さらにさらに〜…コイツも忘れちゃいけねえ!」


直子が最後に取り出したのは、始めに出したおかずの入った物よりも一回り小さなタッパーである。


「これは一体⁈」

「どんな舞台でも最高の役者たちだけでは成り立たない!そんな役者たちを支える存在がいてこそ、舞台は完成する!さあ出でよ裏方!」


………パカっ…………


裏方の正体は焼き海苔だった。優華がリアクションをする前に、直子は無言で焼き海苔を一枚手に取る。そのままもう片方の手で炊飯器を開けて、しゃもじでご飯を適量の半分程盛り付ける。そしておかずの入ったタッパーから明太子を選択してご飯に投入、その上からまたご飯を盛る。そして炊飯器の蓋を閉めてた後、海苔と一緒にご飯を程よい力加減で握っていくとそれは完成した。


「これぞ直子劇団の結晶!めんたいおにぎりじゃー!」

「初めから完成品を持って来なさい!!」


一連のやりとり観覧していたクラスメイトたちは、そんな二人が微笑ましく思えたのか、笑っている者が多く一時その教室は平和な空間となっていた。

直子の愉快なお弁当劇場でひとしきり笑った者たちは、自分の昼食を済ませるために各々散らばっていく。


「さあ次は優華ちゃんの番だよ!」

「やらないわよ⁉︎」


先にも説明した通り、優華のお弁当は運動会や誕生日など特別な日を除いては、ごく普通の内容である。


「それに、こういうのは普通が一番なのよ」

「そうなの〜?」

「そうなのー」


そう言うと、普通派の優華はお弁当の蓋に手を掛ける。


「なるほど…でも優華ちゃん、今回は何かサプライズとかあるかもしれないよ〜?」

「特別な日とかではない限りそんなことあるわけないでしょ―――」

そして弁当箱の蓋を開けた次の瞬間、優華の手が止まる。


「ムムムッ⁈これはもしや⁈」


普通派弁当の中身を見て優華は口をパクパクさせている。

優華が驚くのも無理はない、弁当箱の中身は、人外緑頭・みどりちゃんであった。だが、弁当箱に収まるその姿は今朝とは一変している。弁当箱の構造は二分割されていて、片方全面がご飯で、もう片方を更に分割して何種類かのおかずがある…はずだったのだろう。

しかし丁寧に分けられた各枠には大小様々なみどりちゃん、正確にはみどりちゃんの生首たちが占拠していた。


「なんで⁈よりによってお弁当に⁈というかキモい!」

「これは嬉しいサプライズだね〜!みどりちゃんこんにちは〜!」

「なんで平然としていられるのよ!!」


優華は同時に考えてしまう。まさかコイツ一限からずっと、自分の弁当箱に侵入していたのか。

想像した瞬間、優華の全身に寒気やら何やらが走り、居ても立っても居られなくなる。


「わ、私は……」

「優華ちゃん?」

「私は普通派じゃぁぁぁぁ!!」


雄叫びと共に、優華はみどりちゃんが入った弁当箱に蓋をすると、そのまま片手でしっかりと掴む。そして教室の窓を開放し、そのまま遠くへと弁当箱をぶん投げる。


「ふええええ⁈ゆゆ、ゆゆゆゆゆ優華ちゃん⁈」

「ふぅ…よし!直子、悪いんだけど私今日お昼持ってくるの忘れちゃったから、おにぎり握ってくれる?」

「おにぎりならいくらでも作れるからいいけど…みどりちゃんは……?」

「ミドリチャン?アタシヨクワカラナイ」

「優華ちゃん⁈気を確かに持って!」


だが優華の悲劇はまだ終わらない。直子におにぎりを握って貰っている途中、ツンツンと優華の背中を突いてくる者がいた。何事かと思い振り向くと同じクラスメイトの太陽光だった。太陽は"たいよう"で光は"ひかり"と呼ぶ。決して"たいようこう"ではないことを記しておく。

そんな紛らわしい名前の光はというと、何やらおどおどしている様子である。


「光ちゃん?私に何か用?」

「あのねあのね、優華ちゃんのロッカーがね、大変なの!」

「私のロッカー?」

「とりあえず、見たほうが早いと思うよ!」


この学校では、教室を出てすぐ壁沿いに個々のロッカーが並んでいる。もちろん一人1つの枠が設けられている。

光の慌てようにやや疑問を抱きつつ、ロッカーを見に行くことにする。教室を出ると、すぐ横に10人くらいの生徒たちが優華の使用しているロッカーの前に集まっていた。


「ちょっと失礼、そこ私のロッカーだから――」


人混みをなんとか搔きわけ、ようやく自分のロッカーの前まで辿り着く。そしてようやく異変に気付く。


「な、なな、なななな…」


優華は目にしてしまう。本来あり得ない光景を。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


そこにあるのは確かにロッカーである。だが隣接する他生徒のロッカーと違う点と言えば、優華のロッカーには緑が生い茂っていた。何故か取っ手部分の面には、グリーンカーテンが出現している。ツルの先には、見たことのない黄緑色に発光する花がいくつか咲いていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「わぁ…この花、見たことないけど綺麗…じゃなくて!」


素直に感想を述べてしまい、自分でツッコミを入れてしまう。

優華は恐る恐る取っ手に手を掛け、ロッカーを開ける。


「……………………」


ロッカーの中には、大小様々なみどりちゃんが沢山敷き詰まっていた。単体なら可愛げに見えなくもないが、数とシチュエーションによって、時にはキモく感じる。

優華は何も言わずロッカーを閉める。そして数秒の沈黙が生まれる。そこへ器用に首から炊飯器をぶら下げ、両手に具材を抱えた直子が駆けつける。


「優華ちゃん〜ロッカーは大丈夫だった〜?それよりおにぎりの具を聞きそびれ――」

「うがあああぁぁぁぁぁぁ!」


理不尽な非現実に振り回され続けた結果、優華は壊れた。


「あーっはっは!みどり?みどり!弁当箱にみどりちゃん!ロッカー開けたらみどりちゃん!」

直子「優華ちゃんが壊れたー⁈」


ひとしきり笑うと、優華は階段のある方向に向かって走り出す。

「私は普通の学生生活を送りたいだけなのにー!」

「優華ちゃん!待ってー!」ーーー――――――――――――――――――――――――


以上が、昼休み前に起こった出来事である。そして時間軸は現在へと戻る。

猫神優華と温厚直子は、昼休みの中ランニングタイムへと洒落込んでいたのである。

廊下を走りきり、階段を登って二人は屋上に辿り着いた。

平常な思考をする余裕がない優華は屋上に出たと思えば、そのままフェンスに向かって走り出そうとする。


「どうにかして優華ちゃんを正気に戻さないと….!」


そこへ直子が渾身の脚力を発揮し、優華より先にフェンス側へ先回りしようとする。直子の身体能力は見かけによらずステータスが高い。中学生時のスポーツテストでは、三年連続で学年一位というとんでも能力である。のほほんとした優しい性格に、驚異の身体能力というギャップにより、校内では男女問わず人気があるらしい。

走り始めの段階で、直子は首からぶら下げた炊飯器の蓋を開け、流れる手つきでしゃもじを操る。優華を通り過ぎた頃には、炊飯器の蓋を閉め、タッパーに入った明太子を適量取り出し、ご飯に投入している。そして先回りし、直子がフェンス側に着いた頃には、握り終わったおにぎりが手に乗せられていた。この間、約5秒である。

そして、直子は現在気が動転しすぎて、一周回って謎の高ぶりに襲われている友人、優華の顔面に向かって手製のめんたいおにぎりをお見舞いする。


「優華ちゃん!静まりたまえぇぇ!!」


パァン!という銃声に近い音と共に、めんたいおにぎりは優華の顔面にクリーンヒットし、そのまま衝撃で爆発四散する。実質、優華の口に入ったおにぎりは少量程だったが….


「お、美味しい…!」


優華の口に入ったご飯と明太子の分量バランスが絶妙で、それはそれは大変美味しかったそうな。何はともあれ正気に戻った優華は、これまでの行動を思い起こし、後悔する。また直子に迷惑を掛けてしまった。


「また助けてもらっちゃった、ありがとう」

「ううん、気にしない気にしない!それに、気が動転してる優華ちゃんも面白かったよ〜」

「ぐぬぬ…」


立て続けに起きたみどりなハプニングにより、昼休みは残りわずか。優華のお弁当がおじゃんになったこともあり、屋上で直子のおにぎりをご馳走になることにする。

直子の手製おにぎりを口に運びながら、ふと本音を漏らす。


「午後も…いや明日もその先もあの緑頭に振り回され続けるのかな…」

「優華ちゃん…」

「いや、みどりちゃんは嫌いとかそういう話じゃないんだけどね…さっきのように、いきなり現れたら私はまた拒絶しちゃうのかな…って」

「優華ちゃんの反応はおかしくないよ」

「えっ?」

「たぶんそれが普通の人の反応だと思う、ほら!私って鈍感で頭良くないからあまり驚かなかったけど」


4個目のおにぎりを握り終え、直子は答える。


「でも私思うんだ、みどりちゃんはたまにイタズラとかして困らせてくるけど…人を悲しませようとかは絶対に無いって」

「…主に私を集中攻撃してるけどね」

「確かにそうだね、でももしかするとそれはみどりちゃんなりのコミュニケーションなんじゃないかな?」

「コミュニケーション?」

「うんうん、それにみどりちゃんと初めて出会った時、あの場にいたのは優華ちゃんと私でしょ?だったら一度くらいは私の方にイタズラしてもおかしくないはず」

「そういえば、直子には一度もイタズラしてないわね…」

「たぶんそこがポイントだよね、何故優華ちゃんだけに集中するのか、実は何かのメッセージかも?」

「メッセージ…」


これまでの自分の発言や行動を思い返すと、初めの時から勝手な偏見でみどりちゃんに対して良い印象を持っていなかった。普通じゃない、関わったら良くないと思い過ごしていた。考えてみれば初対面は夢の中である。もしかすると、あの夢やヘアピンは、何かのメッセージなのかもしれない。物は言いようとは言ったものだが、今回は直子の意見を尊重しようと優華は思った。


「そうね、次会ったら聞いてみようかしらね…」


………キーンコーンカーンコーン………


直子が10個目のおにぎりを握り始めようとした所で、昼休み終了の予鈴が鳴った。


「お昼も済ませたし、戻りましょうかー」

「そうだね〜美味しかった〜」


支度をして二人は屋上を後にする、と階段を降りていく最中に校内放送が流れる。


「あー、あー聞こえてるかー?一年A組・猫神優華・温厚直子・以上2名…放課後は覚悟しとけよー」

「あ………………」

「あ〜……………」


こんばんは!ばたじょです!

ここまで読んで頂きありがとうございます!

早速余談ですが、毎回の後書きの挨拶で、"読んで下さり"と"読んで頂き"を気分で使い分けている私です。特に意味はありません!


今回はみどりちゃんだけでなく、主人公・優華に楽しく絡む親友・直子ちゃんの様子が多く書かれています。ここから先も直子ちゃんには色々と活躍してもらう予定なので乞うご期待です!

私が恐れていることは、直子ちゃんの個性が強すぎて優華ちゃんの存在感が空気になってしまうという最悪の直子ストーリーです。タイトルにまで名前が載っているのに…と思われる優華推しのあなた!詳しくはtwitterのDMかこのサイトの感想欄にて意見を聞かせてもらおうじゃないの!


はい、冗談です。それでは第2章はここまで!

お次は第3章でお会いしましょう!ばいばーい!


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