エピローグ
どうも、ばたじょです!
さあ、ゴールテープはすぐそこです。私は後書きという名の会場であなたの完走をお待ちしております。
ということで、お先にワゴン車でゴールに向かいます!冗談です。
それでは本編スタート!最後のいってらっしゃいませです!
「はっはっは!これにて万事解決ということか!」
正門近くに根付く大木、一本桜の枝に足を乗せて器用に立つ者がいる。
艶やかな緑色の髪の毛をたなびかせ、短パンのポケットに手を入れるその姿は男性か女性か判断しづらい中性的な少年。
一本桜には鶯が歌うように鳴き、少年を仲間だと受け入れるようにその周りを飛んでいる。
少年は校舎のある一室を眺め、愉快に笑う。
「いやなに、我とて伊達に数百年…む?数千年?まぁ良いか。とにかく人間という者は面白い!」
人ならざるオーラを漂わせる少年は大層愉快に笑うが、他の人が見ればその笑みは喜怒哀楽では判別できないような雰囲気さえ感じられる。
「彼女はたしかに数年前に死んだはず。だがその意思は数年越しに末裔へと託された!なるほど、人間とは時に強度な意思によって、本来なら不可能であることを成し得てしまう。美しくもあるが醜くもあるな…」
1秒にも満たない一瞬、少年を纏う雰囲気が殺意へと変わる。それまで楽しそうに飛んでいた鶯はその殺意を感じ取ったのか、慌てて一本桜を飛び立ち、少年から遠ざかるように何処かへ飛んで行ってしまう。
「くっくっ、驚かせてしまったか。殺意を感知されるようでは我もまだまだ未熟よな」
「おーい!さっきからそこでなにしてんのさ〜?」
「⁉︎」
一本桜から二メートルほど離れた位置から少年に声を掛ける者がいた。
「聞こえてる〜?そんなとこに乗ってたら危ないよ〜!」
「心配するでない!猿も木から落ちるとは聞くが、我はそこまで落ちぶれてはいない!」
少年は大声で応えると、一本桜から飛び降り、ポケットに手を入れたまま堂々と胸を張って対峙する。
「それはそうと、一つ聞かせるが良い。何故、我を認識できた?」
少年は口元では笑いながら、鋭い目つきで対峙者を牽制する。
「認識?どうして見つけられたかってことかな〜?」
「そうだ、本来なら人間ごときに見つかるはずはなかったのだがな?」
「うーむ、さっきまで校舎にいたんだけど、校庭の方からなんだか嫌なモノを感じたんだよね〜。それで気になって見に来たら、ビンゴ!ってことだね〜」
名探偵が犯人を見つけた時のように、少年を指差す。
「ビンゴ…?それは我のことか?」
「うんうん!そういうこと〜!」
対峙者は背後から虫取り網を取り出し、槍使いのように器用に振り回すと、そのまま戦闘の姿勢を取る。
「あなたが何者かはわからないけど、一度でも優華ちゃんに殺意を向けた時点で警戒対象として扱うべきだよね〜?」
「ふむ…?まさかお主は我と一戦交える気でいるのか?」
「当然」
先程までの穏やかな様子から一変、獲物を捉えようとする狩人のような眼差しになる。
「くはっ、くっはっはっは!良い!良いぞ!実を言うとだな、あれは猫神優華個人に向けたものではなかったのだが、気が変わった!」
少年はさぞかし嬉しそうに大口を開けて笑うと、それまでポケットに入れていた手を出して自由にする。
「本来、この怒りはお主個人に対して向けるものではない。だが丁度いい。おい、貴殿の名前を聞かせるが良い」
「温厚直子」
「温厚…?また懐かしい名前が出てきたな。もしや末裔か?」
「何の話しかな?」
「いや、気にするでない。温厚直子よ、人間代表として存分にその力を発揮するがいい!人間程度になにができるのか見せーー」
―――バサッ―――
少年が言い終わる前に直子は動いていた。そして持ち前の瞬足で少年との間合いを詰めた直子は虫取り網で少年の頭を被せる。
「捕まえた〜!」
「ほう…!」
だが少年は動じることなく次の瞬間、緑色の光を放ち身体が弾ける。
「眩しいっ…ってあれ⁉︎もしかして死んじゃった⁉︎どうしよう!」
「阿保め、人間の尺度で捉えるな」
瞬時に背後へと出現した少年は片手で手刀を構える。
「見事だ。あとはゆっくり眠るがいい」
少年もこの時は決着がつくと思い込んでいたのであろう。されど直子直子は振り返ることなく、虫取り網の柄を背後にいる少年に向けて押し出す。
「馬鹿な⁉︎」
少年は虫取り網を避けることなく、片手で受け止め、二人の動きは停止する。
「この人間離れした反射神経…やはりな」
「あれれ〜?怖気付いたの〜?」
「ふん、たわけ。だがその様子だとどうやら自覚は無いようだな」
少年は柄から手を離すと、一飛びで一本桜の枝に着地する。
「余興はここまでだ。存分に楽しませて貰った」
「おやおや、まだ手の内を晒していないように見えるけど?」
「ふん、その必要が無くなっただけのこと。我は人間との戯れを望んでいたのだが、これではいかん。このまま続行すれば、確実に我はお主を殺めてしまう」
「随分と余裕なんだね〜?」
「無論だ。人ならざる存在に手を抜く道理などあるはずは無かろう?それにお主とならいずれまた今宵とは違った立場で矛を交えるであろう…。そう遠くない未来にな」
「それはどういう意味――」
直子が疑問を投げかけようとした時には少年の姿は何処にも見当たらなかった。
「むぅ〜、よくわからないけど危機は去ったのかな?」
そして気づく。直子が持っている虫取り網の柄。先に少年が片手で触れた部分からは何故か、朝顔の花が一輪咲き、その花を中心にツルが幅のように巻き付いていた。しかし問題はそこではなくーー
「めり込んでる…」
柄の部分を巻きつく朝顔のツルは、明らかにめり込んでいて、持ち手のところまでヒビが広がっていた。
「ほえ〜、一体どんな手品を使えばこんなことができるのかね〜?ま、それは思い出した時にゆりちゃんにでも聞いてみようっと!さあさあ!お昼ご飯を食べる時間〜!」
約数分の出来事、そして後に温厚直子を巡って大事件が起こるのだがそれはまた先の物語である。――――――――――――――――――――――――
無事に模擬授業を終え、時刻は放課後である。五大からの無茶振りと個人的な目的を果たせたという達成感から、優華は高揚した気持ちであった。
「長いようで短い数日間だったわね。でもこれで明日からはまた普通の学生生活が始まると思うと少し憂鬱になりそう」
「ん〜?優華ちゃんは常に何かを追い求めないと退屈を感じてしまうヤンチャさんだったんだ〜」
「なんかとても嫌な言い回しね…でもそれは最終的に解決できたからそう言えるのよね。直子、改めて手伝ってくれてありがとう」
「そんなのいいよ〜、私は優華ちゃんが困っていたから助けただけだし、それに」
直子は頭に付いているヘアピンを指差す。
「こんな素敵な出会いがあったから〜!それに優華ちゃんが望まなくても、しばらくは退屈しないと思うよ〜?」
「ああ…忘れてたわ」
(今回の件が解決しようと、みどりちゃんは関係ないものね…)
「……いる」
「そう、ここにいるもんね…っていたぁぁ⁉︎」
「優華ちゃんが忘れようとするから心配して出てきたんだよ〜」
「そうなの⁉︎」
「………」
みどりちゃんは片目から一滴の涙を流すと、頭から煙突を生やし、足の裏から車輪が出現する。そしてそのまま優華に向き直ると、白いハンカチをヒラヒラとさせながらバック走を始める。
「……サヨナラ」
「ちょっ、待ちなさいよ!私が悪かったって!」
「早く捕まえないと嫌われちゃうかも〜?」
「あーもう!直子、行くわよ!」
「うん〜!」
そのまま二人はみどりちゃんを追いかけていく。走る途中、"廊下を走るな"と教員に注意をされた気がするが、優華は走る足を止めることはなかった。
(全てはこいつとの出会いから始まったのよね。いいわ、こうなったらとことん付き合ってやろうじゃない!)
そして二人は追いかけて行くと校庭に出た。みどりちゃんは一本桜の前で停止しており、煙突からは白い煙がモクモクと漂う。
「……燃料切れ」
「終わり方があっけないわよ」
優華はそっとみどりちゃんを抱き上げる。
「せっかく会えたんだから、これからも退屈させないでよね」
ニヤリと優華は悪そうに笑ってみせる。
みどりちゃんは数秒、優華を見つめると一言。
「……優華もな」
「えっ私の名前⁉︎」
「……じゃあな」
それっきり話す気は無いようで、みどりちゃんは頭から大きなひまわりの花を咲かせると、ひまわりを回転させながらどこかへ浮遊していく。
「相変わらず理解できない仕組みだな」
そこへ、校舎から松島が白衣のポケットに手を入れて歩いてくる。
「わざわざみどりちゃんを見にここまで来たんですか?」
「理科室から校庭の距離だぞ?私を引きこもりみたいに言うな」
「それで、私たちに何か用があるんでしょ〜?」
「そうだ、君たちが引き取りに来ないから私の方から出向いてやったのだぞ」
松島が指を鳴らすと、それまで背後に隠れていたのであろう人物が、自信なさげに顔だけを覗かせる。
「ど、どうも…」
「光ちゃん〜!」
「光ちゃん⁉︎今までどこにいたのよ⁉︎」
(と言いつつも、存在を忘れていたなんて言えないわよ)
「理科室に決まっているだろう?言った筈だ、私に任せろと」
「いや、そう仰っていましたけど。それで一体光ちゃんにどんな変化が?」
「それは実際に見せた方が早いだろう。では温厚、試しに太陽が恥ずかしがるようなワードを一つ頼む」
「ほえ?難しいなぁ…。光ちゃん、実はね」
「う、うん?」
「さっき汗で透けて見えた水玉のブラジャー、とっても似合ってると思うよ〜!」
「な、なな⁉︎」
「いや絶対難しいとか思ってなかったでしょ⁉︎」
この後に起こる出来事は大体予想出来たので、優華は学生鞄からハンカチを取り出すが、光はそれを手で静止する。
「ううん、大丈夫だよ」
「嘘⁉︎光ちゃんが汗をかいていない⁉︎」
「驚いたか?これが私による処置、その名もディレイだ!」
松島は自慢げにポケットから紫と白のカプセル錠剤を取り出す。
「これで今の太陽光は恥ずかしがることはあっても以前のような汗は流れることは無い」
「へえ、松島先生もたまには役に立つ発明をされるのですね」
「ゆりちゃんはどうした?」
「くっ、見直しましたよ、ゆりちゃん…」
「はあ〜、その一言が私の今後の活力になるよ!」
「うげえ…」
「おっと、本当ならこの喜びに浸っていたいのだが…もうそろそろだな」
「はい?何かご予定ですか?」
「はーい!優華ちゃん、ここでイングリッシュタイムだよ〜!」
そこで、何故か白衣を着た直子が両手にバスタオルを大量に抱えて登場する。
「何よ、その特殊なコスプレは?」
「話は後!まずはこのバスタオルを構えて〜!」
「こ、こうかしら?」
「うん!ばっちり〜!ではここで問題です!チャラン!」
「セルフ音声⁉︎」
「ディレイの日本語訳はなーんだ?」
「えーっと、遅延だったかしら?」
「ピンポーン!大正解!さあ後は構えるだけだよ〜!」
「はい⁉︎構えるって…あれ、遅延って…まさか⁉︎」
「あと10秒だ」
「早く構えて〜!」
松島がカウントダウンを終えたと同時に、長針が12を指し、校舎の時計からは16時を知らせる予鈴が鳴り響く。
――キーンコーンカーンコーン――
次の瞬間、太陽光の全身から汗が水流のように吹き出す。まるでドラマで雨のシーンを撮影しているのか錯覚してしまいそうなほどの降水量である。
汗が流れ切った時には、光を中心に校庭には水たまりが広がっていた。
バスタオルを構えていた二人と、時計を確認していた松島は汗の水流をもろに受け、全身はびしょ濡れになる。
一同、前髪やら何やら雫が溜まっている中松島がポツリと一言。
「ディレイは服用者の発汗を急激に抑えらことができる。15時59分まで」
「汗を排出した後のことは考えてなかったのですね…」
優華は思った。みどりちゃんならまだ許せる。だがこんな非日常は勘弁して欲しい、と。
こんばんは!そしてプロローグからエピローグまで読んで下さった方はもう私と絆で結ばれています!ええ、たぶん!
イラストと小説は根本的に違いますが、共通点と言えばやり遂げた時の達成感や、また一つ成長できたような気待ちになれることですかね。成長してるかは知ったことではありません!楽しければいいのです!
たしかに、何事においても上手くやることは必要ですが、そこに捉われすぎて楽しむことを忘れてしまうのは勿体ないですよね。
私もこれから時間がある時にコツコツと小説の続編を書いたり、描きたいイラストを仕上げたりとあくまでマイペースに活動していくと思います。
それではエピローグはここまで!優華とみどりと変人とは一旦終了でございます!
また、次の作品でお会いできる日を楽しみにしています!
最後までお付き合い頂きありがとうございました!ばいばーい!