絶望少年
その少年は、見る限りは、普通の少年だった。
ただ、いくつかの点を除いて…。
女性のように少し長い青い髪に、緑の目。
身長は、10歳にしては高い、体格は細身。
日本人にしては珍しい色をしている。
おそらく、純日本人という訳ではなさそうだ。
というのも、明確な情報を得られなかったのだ。
"本来あるべき情報が存在しない"
と言うべきか?
彼が、どこで生まれ、どこで育ったのか?
何一つとして情報が存在しないのだ。
あるのは、"彼という存在"と"彼が異常だという疑惑"だけ。
なぜだ…?こんなケース初めてだ…。
ふぅ。と深呼吸する。
「こんにちは。初めまして。私は、この病院の委員長、迫間田。今日から、君の担当の一人さ。よろしくね。」
軽く挨拶をする。
相手が、どんな人間かが全くわからない。
まずは、情報を聞き出すために信頼させるところから始めるとしよう。
「…」
少年は、何も言わずに、首を前へコクリと動かした。
「はじめに…君の名前は?」
「芙蓉千景」
「誕生日は?」
「9月10日」
「うん。大丈夫なようだね」
少年は、自分を知らない訳ではないようだ。
言葉も冷静でハッキリしている。
常に頭に血が上って前が見えなくなるタイプではないようだ。
「それでは…千景くん。君は、話によると、10人ほどの人を殺めたと聞く。それは、本当かな?本当なら、どうやって殺したんだい?」
クスクスと笑う。
こんな状態で患者が笑うのは、よくある事だ。
信じ難いが、彼が人を殺めたのは可能性としてはありそうだ。
さぁ、君はどうやって殺した?
私は、息を呑みながら、その答えを待った。
「クスクス…違うよ、先生。僕が彼らを殺したんじゃないよ。彼らが自らを殺したんだよ?」
少年の答えは、10歳とは思えぬ残酷な答えだった。