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眠りの庭の夢幻姫  作者: みかげ
1章 邂逅
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第4話 選択

刹那、確かに感触はあった。俺はあの呪いの手に触られたはずだ。

周りの様子を見る限り、触られた時点で動けなくなる……はずだったのだ。

しかし俺に触れた手は砕け、完全に消滅していた。


「ほう……これはこれは」

呪いの手を放った少女は、なにやら感服したように手をたたく。


「最後まで攻撃をかわし続けられたものを選ぶつもりだったのだがな。変わった事もあるものだ」


「……それなら俺だけになった時点で止めてもよかったんじゃないか?」

確認した限り、俺以外は五分くらいで捕まっていた。俺以外が全員捕まった時点で決めても、結果は同じだったはずだ。


「なんて事はない。君が想像以上にいい動きをするから続けたくなっただけさ」


「俺はお前の手のひらでまんまと転がされていたってわけか。まあいい、それより」

俺は一度言葉を切り、呪いの手に掴まれている仲間たちを一瞥する。


「あの呪いの手、毒とか攻撃性とかの危険はないだろうな?」


少女はあきれたように、ため息混じりに答える。

「……、大丈夫だ。神経を掌握し、体を動かせなくしているだけなのだからな。まぁ、もっとも君にはもともと通用しなかったようだが」


そう言って彼女は腕を振り上げて、ゆっくりと水平に動かした。その動きとシンクロして呪いの手が動き、程なくして―動けなくなった全員はオブジェの台座にもたれかけさせられた。

呪いの手が俺に触れて砕けたのは、どうやら彼女にも意外なことだったようだ。

これ以上聞いても無駄そうなので、後回しにしよう。


「さて……これでこの場における勇者は君に決まった」


彼女は言葉をつむぎ続ける。


「君は元の世界に戻るため、戦うことになる。君が勝ち、生きる意志を証明できれば__仲間たちも含めて元の世界に戻る事が可能になる」


俺はそっとその顔を見つめる。その整った顔立ちには、不思議な事に感情を感じられなかった。

冷徹なようにも取れるがうちに情熱を秘めているようにも思える、不思議な威圧感があった。

少なくとも嘘を言っているような顔ではない。


他に道もないのだし、ここは彼女の言うことを信じるほかないだろう。

だが、はっきりさせておきたい事もあるので、それも合わせて確認する。


「仮にだ。俺がもしここで……死んだらどうなるんだ」


「ここは救済の地だ。魂のある限り、何度でも戻ってくる事になるだろう。ただし、魂は磨り減っていくことになる。そして、それがもしもなくなれば――」


俺は次の言葉が予想できた。出来たら、外れていて欲しい予感だった。

しかし、聞こえたのは紛れもなく予想通りで。


「君は、消滅する事になる」


消滅する―意識のみのこの世界で、消滅。それはつまり……死ぬということだ。


「それでも君は戦いに挑み、生きる意志を証明する覚悟はあるか?」


俺は逡巡した。魂が削れ切れるまでは生き返ることが出来るとはいっても、死ぬことには原始的な恐怖感が付きまとう。そんなプレッシャーを抱えて、戦い抜いていけるのか……俺は?


だが怖がっていても、どうにもならない。進むしか、ありえない。


俺は答えるより先に手を閃かせていた。

しゅいーんという小気味いい甲高い抜刀音とともに剣を抜き放ち、左右に切り払ってから彼女に向ける。


「……これが俺の答えだ。」


「いい返事だ。君ならそう答えてくれると確信していたよ」


「これは餞別だ、ありがたく受け取るがいい」

そういって彼女はにやりと笑い、こちらに手を向けて、再び詠唱を始めた。

俺は反射的に身構えたが、遠距離相手だと分が悪い。

(これが遠距離攻撃魔法ならステップ回避_束縛系なら?)

など考え、攻撃に対する策を用意して待機する。

しかし、発動したのは予想外の魔法だった。

「この場に満ち満ちた精霊よ、悲しみに濡れし血を清め、癒しを!」


そして指をはじくしぐさ。どうやら彼女はそれを魔法発動のトリガーとしているらしい。

だんだん俺の体は水色の光に包まれ……暖かい風に浮かされるような浮遊感とともに、傷口がふさがっていく。

それは、ただの治癒魔法だった。


「よし、これでいいだろう。……《一番手(ファースト)》。1分後に、彼を相手に戦闘を開始せよ!」


彼女がそう叫んだ直後、No.1と刻まれた個体……《一番手》が剣を抜き放ち、身構えた。

抜き放たれたその刀身は濡れたようにぎらついていて、それだけでも威圧感を放っていた。

(直撃は、マズそうな雰囲気だな。まずは様子を見ながら戦うか……)

やや中段に、剣先を下に向けて構えている。あれは、低空ダッシュの構えだろう。

そこまで判断したところで彼女がつぶやく。


「さぁ、ショーの始まりだ」


刹那、《一番手》は地を蹴った。





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