第2話 訪れ
明らかに命を落としたはず_だった。
しかしどういうことか、考える事が出来た。つまり、まだ意思があることになる。
これが俗に言う魂だけの存在、ということだろうか。
俺は今、暗闇の中にたたずんでいる。
このまま、魂だけの状態が続くのだろうか。もしそうだとしたら退屈すぎる。
いったいどれだけの時間が経ったのか、それすらも分からないし、感じない_。
「どうなるんだよ、俺……」
「おい」
不安に駆られているなか、突如声が聞こえてきた。
「!?」
しかしもちろんこの場には自分以外誰もいない。
なんということだ。ついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのか。
「おい、目を覚ませ!」
突如体に振動を感じ、俺は意識を呼び戻される。
「う……」
「お、起きたか!体、痛いところはないか?」
目を開けてまず目に入ったのは、体格のいい男……確か、飛行船で見かけたやつだ。
そこまで考えて、俺は朦朧としていた意識を切り替える。
「大丈夫だ。ところで他のみんなはどこだ?それに、ここは一体なんなんだ……?」
「俺以外には三人の無事を確認した。他のみんなを探すため、手分けして捜索している」
どうやら、四人が無事なようだ。俺を加えて五人。乗客はたしか、八人いた。
「うぉぉぉおいガートン!!残りの三人見つかったよーーーー!!」
「怪我はないみたいです!三人とも意識もはっきりとしています!」
ハイアと、もう一人小柄な少女が報告をしにきた。
どうやらこの男の名前はガートンらしい。
「お疲れさん、ハイア、メイラ」
「いやーびっくりしたよー!空がヴワァン!!て開いて、ドサ!っておちてっむぐっ!」
早口でまくし立てるメイラという少女の口をハイアが塞ぎ、言い換える。
「えっと……空に時空の切れ目みたいなものが出来てですね、そのなかから落ちてきたんですよ、三人とも」
そこまでいったところでメイラを解放する。
「ぶはっ!いきなりなにするのさ!」
メイラは涙目になりつつ怒りの声を上げる。
「あなたが説明すると、分かりにくいから。ごめんね」
「時空の切れ目か……となると、ここは元いた世界とは別の世界って可能性があるよな?」
時空に関する書物を父の書斎で読んだ事がある。
百年ほど前に発生したラグナロクは「魔物の大量発生」で、そのときも時空切断が発生したという記録が載っていた。その切れ目は魔界につながっていたという。
魔界とは限らないが、ここが別世界なのは間違いないだろう。
「そのとおりだ。ずいぶんと頭が切れるやつもいるものだな」
「「「!」」」
声の主は、聞き覚えのない声だった。
振り返ると、そびえ立つ奇妙なオブジェ……その上に、一人の少女が座っていた。
(いったいいつからそこに?……さっき見たときは誰もいなかったはず)
紫色の長い髪は蝶の髪留めでまとめられ、腰のあたりまで届いている。
「本当なのか?いきなり出てきて異世界だとか言われたところで、そんな簡単に信じられんぞ」
ガートンの言う事はもっともだ。だれだって「ここは異世界ですよ」などといわれても「そうですか」とはならないだろう。
……身をもって、経験しない限りは。
「それもそうか。そうだな……ではこうしようか」
そういって彼女は指を構え、高らかに指笛を吹き鳴らした。
どこまでも響いてゆきそうな甲高い音色。
「貴様、なにを……っ!」
彼女の指笛が木霊したあと、俺は周囲でうごめくただならぬ気配を感じていた。
(なんだこの……なにかとんでもないものが近づいているような感覚は?)
「何?この気配……」
どうやら、ハイアもこの気配を感じ取ったようだ。しかしガートンは気づいていないらしくあっけに取られている。
「さぁ、おでましだ」
「なんだと……」
俺は初めて目の当たりにする光景にただ驚愕した。
彼女の体は糸に引かれるような動きで、ゆっくりと……空中に浮かびあがった。