Chapter 1-14 『新聖、その実力は』
「お前が撃っているのは、その弾丸の正体は……!」
アルフレッドはそんな簡単なことで…というような信じられないものを見ている顔をする。しかし、それはだんだんと真実に近づいていく。
そして、メビウスの口から今もなおアルフレッドの体を蝕む弾丸の正体が―――
「―――そう。俺が撃っているのは呪い、だ。っつっても、俺の体の一部…例えばそうだな、爪とか髪とか血、とか?とにかくそういうのを空の銃に込めて、トリガーを引けば魔術が発動してくれる。それが着弾さえすれば後は相手様が勝手に体内で拒絶反応起こして自爆してくれるんだ。な、簡単だろう?」
―――呪い。
古くから藁人形などの形で日本内でも大きく知られ、現代では『おまじない』としても社会に浸透している。
実際、呪だけ独立させて行うためには呪詛などの正式な手段を踏まなければならない。
が、メビウスは魔術師である。
元々発動するために手段を踏んで、呪うだけという大して凄い効果が生まれるわけではないものをわざわざ発動させる必要性が感じられない。ならばどうするか。答えは簡単。
藁人形のような効果は薄いが手段が単純なものを魔術で強化、拡張してしまえばいいだけだ。
そうすれば髪の毛一本で『新聖』の身動きを封じることが出来る。
「結局は、大きいことを成すためにはただ単純に大きな力は要らないって訳だ。小さい力だとしても、大きい力と影響力は変わらないときだってある。お前は、それを理解できてなかったんだよ」
メビウスは笑い、三発。
ゆらゆらと揺れながらもいまだ立っているアルフレッドへ、撃ち込んだ。
***
倒れ、薄い呼吸を続けるアルフレッドを足で軽く小突き、少しの間だが、激戦を繰り広げた校庭からメビウスは離れていった。
校庭から少し離れたところに置いてあるメビウスの車に着く。ここから先はもう予定通りにいけば良い。再び車に乗って予め昼間に用意していた儀式場へ行き、『巫女』を使って術式を発動させてしまえば…
「これで、俺が世界を救ってみせる……!」
そう言った瞬間だった。
―――メビウスの視界が白い光一色に染め上げられた。
***
光がメビウスを呑み込んだ少し後。
校庭付近は凄まじいほどの量の砂埃が覆いつくしていた。
校庭の中央でボロボロになっていたアルフレッドが立ち上がる。しかし、その立ち上がる様はボロボロの怪我人のそれではなく、まるでドッキリで血糊塗れの姿になりながらも、驚いた相手に向かって笑って立ち上がるような。
「……ッハァ…やっと、隙を見せてくれたな…」
にやりと子供のような笑みを見せる。その表情には勝ったという余裕と、しかして気を緩めてはならないという緊張感が張り付いていた。
アルフレッドが行ったことは単純。ただ全力で剣を振ったのみ。
そして、その振ったことによる莫大な運動エネルギーによってアルフレッドが持っていた剣は粉微塵となって夜風と同化していった。
さらに、メビウスと共に剣の一振りの射線上にあった車はおろか、車の近くといっても数十メートル離れている校舎の一つが綺麗に半分吹き飛んでいた。
剣を全力で振っただけでこの威力。ならば、この剣筋に魔力という光が宿ってしまえば一体どうなってしまうのか。アルフレッドに対する興味は全く尽きない。
ふと、アルフレッドは軽く思考することに集中力を散らす。
「(………あいつの言っていたこと。『巫女』については分かっている、が)」
一旦。一瞬だけ思考を止め、そして再起動させる。それは意味のない行為ではあるが、思考を深く深く潜らせるためには必要不可欠な行為―――だとアルフレッドは思っている。
「(…『四分の一』とは、一体何なんだ………?)」
そう思考していた時だった。
「…アッ、がァ……!?…あ、ルフレッドォォォォォォォォォォォ………!」
叫び声と共に、砂埃がバン!と一気に晴れていく。
砂埃が晴れたことで、先程までメビウスの車が止めてあった場所。そこに、
―――アルフレッドとは違い、本当の意味でボロボロになっているメビウスがいた。
「……ふ。もうこれは決着が着いたかな?」
「アルフレッド…その決着とやらの前に、少し…いや、一つだけ質問させろ………」
余裕を持って接しているアルフレッドとは相対的に話しかけることすら精一杯のメビウスが呻くように呟く。
「ん?何だ?」
アルフレッドは余裕の表情を崩さず、メビウスの言葉に耳を傾ける。
メビウスはボロボロになってなお、その鋭い眼光を抑えることはしなかった。
「お前、何故あの車を破壊した…?」
「は?」
「意味が分かっていないのか…?」
まるで信じられないものを見るかのようにアルフレッドを睨みつけるメビウス。そしてその口から――――――
「お前は、俺ごと、『巫女』を殺したんだぞ!?分かっているのかァ!!??」
「え?」
吠えるメビウス。
そしてその口から発せられた言葉を聞き、アルフレッドは。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
叫んだ。
***
「いや、な―――んちゃって。ってね?」
アルフレッドが叫んだと思った瞬間。急にふざけた声を上げた。
「お前、そんな狂言言って面白いとでも思ってるのか?ふざけるな。私は『新聖』だ。一般人の微弱な魔力ぐらい感知できなくてどうするんだ。多分『巫女』とやらも他の場所へ移動させてあるのだろう?」
「…………ッチ」
図星だったのか露骨に嫌な表情を表へ出すメビウス。だが、その表情には少しだけ余裕の笑みが灯っていた。
「フゥゥゥゥゥ…………」
勢いよく息を吐きだし、呼吸を整えて心を落ち着かせる。
「アルフレッドォ!!君は!いやお前はァ!!まだ五輪魔術の何もわかっちゃいねぇ!!だがぁ!それは仕方のないことだ。俺とて受けたくても受けることが出来なかった者の無教養さを馬鹿にすることはしなぁい。な・ら・ばァ?ここで!見せてやるよ、五輪魔術の!真髄ってやつをよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」
メビウスが校庭の土を軽く蹴ると、地面に魔法陣が浮かび上がる。さらにその魔法陣に手をかざす。
すると魔法陣の陣が何層も何層も重なり合い、複雑に絡み合う。
そして、魔術の仕上げとして最後に詠唱を紡ぐ。
「五輪の輪、その中心。それは即ち世界の中心と同義。その名は『無』」
「(!あれは世に解き放ったら…ダメなものだ………!)」
アルフレッドは直感でそう感じ、メビウスの術式を止めようと走る。だが―――遅い。
「『無』よ、『剣』となり、顕現せよ―――――――――――――!!!!」