Chapter 1-13 『五輪VS新聖』
「(……こいつ)」
アルフレッドとメビウスが戦い始めて早数分。
そこでメビウスが簡単な真実に辿り着く。
「(この俺に、手加減してやがる……!?)」
メビウスが数分経って、いや数分『も』経って気づいたこと。それは二人の戦いを傍観してみればすぐ分かること。
メビウスは爆発的な閃光や、見えない矢、土塊に高圧射出水、その他にも輝く腕や地面から這い出てくる槍などの多彩な魔術を用いてアルフレッドに攻撃を仕掛け続けている。
対してアルフレッドが行っているのはメビウスの攻撃を切り払い、打ち払い、払い落とすのみ。明確な攻撃姿勢はとっていない。
つまりは、
「…ッチ、遊ばれてる……だけってことかよッ!!」
メビウスが怒りそのままに叫ぶと空間に歪みが走る。陽炎のような目に見える明確な歪みだった。それは渦のようにぐるぐる回っていく。しかしある一定のところでピタッと止まる。
それを見てアルフレッドが軽く眉を寄せると、
ギュゴッッッッ!!!と、歪みが爆発的にさっきとは逆方向にねじ回り、その反動によるエネルギーが四方八方へ飛び散る。
エネルギーは礫のような形を持ち、アルフレッドの四肢を切り裂こうと360度まるごと埋め尽くして襲い掛かってきた。
―――が、被害者のアルフレッドは加害者であるメビウスより落ち着いていた。
「……………はぁぁぁ……」
息を口から吸いこむ。
そして、
「は、ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」
吐く。と同時に一気に質量を持った礫を一つずつ丁寧に丁寧に剣身を利用してどんどんはたき落としていく。
音もなく落ちていく礫。メビウスにとって最大火力レベルの魔術はアルフレッドにとっては夏場の蚊のような扱いになってしまう。
「くっくっくっく」
しかしメビウスはそんな光景を見てなお、笑っていた。
「いいねぇ、それでこそ『新聖』ってもんだァ!あんな小石程度の攻撃をモロに喰らうようじゃあ俺の敵としては残念クオリティだもんな!」
杖を軽く虚空へ放り投げる。くるくると回る杖は地に落ちることなく、風と同化、一体化し消えていく。儚く過ぎ去っていく砂塵のように。
そして次にメビウスが用意したのはどこにでもあるような拳銃だった。
「M1911、か。魔術では対抗できないと知って、次は兵器か?」
「へぇ~。この銃、M1911っつーのか。弾が撃てりゃあ何でも良かったもんだから通販でエアガンを適当に買ったんだよ。…まぁ、形が好きだから良いけどさ」
少し、挑発するようなニュアンスの入ったアルフレッドの言葉、だがメビウスの返答は今まで知らなかったことを教えてもらった素人のような反応だった。
面食らったような表情のアルフレッド目掛け、拳銃の銃口を向け、引き金を引く。
パンッ!と、乾いた音が校庭に鳴り響き、アルフレッドは怯むことなく弾丸を打ち落とす。
「(…ただの見掛け倒しか……だけど、この局面で拳銃?しかもエアガンを…。意味がないというのはあちらの方が分かっているはずだ。そして、エアガンに弾丸を装填していないという疑問点もある…どういう、ことか……?)」
アルフレッドが思考して出てきた疑問、その答えはすぐにやってくる。
払われた弾丸が埋め込まれた地面がいきなり圧縮、爆発する。
「!?!?!?!!??」
爆発の衝撃に押され、アルフレッドの体が宙を舞う。内臓が圧迫されるような感覚を味わいながらも、剣を構え直そうとする。
そこで。
「油断したなぁ、『新聖』!こんな低級魔術、アンタなら簡単に気づくと思ったんだけどなっ!」
銃弾が三発、爆発するように放たれアルフレッドの背中に吸い込まれる。
「ッッッツ!!」
剣を構える暇もなく、振り向く勢いをそのまま利用し、横からはたき潰そうとする。なんとか二発はたくことができたが、剣筋を避けた一発だけ脇腹を貫いた。
「…が、ァッ!?」
まともな言葉として出力することすらできなかった。
『新聖』として、できうる限りのエリートコースを突き進んだアルフレッド・ペンデュラムにとって、銃弾が体を貫く痛みはほぼ初めての体験だった。
空中から墜落し、そのまま横回転しながら校庭の隅へと転がっていく。
「………く、初めて…銃弾、というものを受けたが……ふっ。なかなかやるじゃあないか」
銃弾を受け、初めての痛みを知り、人生というものの奥深さを噛み締めているアルフレッドの耳に、
「…まだ、これだけじゃあないけどな……」
という、メビウスの小さな呟きが、確かに聞こえた。
直後のことだった。
ドッッッッッッッッッ!!と、何の前触れもなく、アルフレッドの体内が爆発した。
―――いや。爆発した、というのは正確ではない。
だが、爆発したと錯覚させるほどの痛みがアルフレッドを襲った。
沸騰したかのように熱く熱く燃え滾る血液、じりじりと太陽光で直炙りしたかのような熱い肌。
何が起きたのか、考える時間も暇もなかった。
分かることはただ一つ。
メビウスがあのエアガンを打った時感じた違和感。
―――なぜ、この場面でエアガンなどという玩具が出てきたのか。
―――なぜ、弾丸を装填しなかったのか。
―――なぜ、エアガンという玩具から『銃弾』が撃ち出されたのか。
それは、ある一点に収束させて考えてみれば簡単なこと。魔術を知っているものなら、いや一般人でも分かるような単純なことだった。
「お前が撃っているのは、その弾丸の正体は……!」
「―――そう。俺が撃っているのは『呪い』、だ」