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アナザーワン  作者: T-熊さん
Chapter 1 不死鳥と巫女と半端未満野郎
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Chapter 1-8 『一旦、休息』

「…………………んあ」

 その日、条馬が起きたのは。


「知ってる、天井………」



 ***



「あ、起きた?お兄ちゃん」

 知ってる天井―――いつも厄介ごとの後には必ずお世話になってる病院の一室のベッドの傍らには妹の胡桃が座っている。


「海道、君っ!」

 そしてその横にはクラスメイトの篠誣が座っていた。その目にはうるうると涙が、出るか出まいかで悩むように溜まっていた。


「あ、俺、生きて、たのか…?」

「そう。大変だったんだよ?すごい怪我を負ったて病院から連絡が来て。全く道案内だけで何やってんだか」

「本当に、心配して……」

 呆れたようにしている胡桃とは相対的に、篠誣は今にも泣きそうにしている。

 なんとかなだめたいが、上手く言葉が出てこない。それがなんと悲しいことか、条馬はむず痒くなって右手で鼻頭を掻いた。


「怪我…」

 話題を変えようとして、改めて今回のことを思い出そうとする。

 だが、何か考えようとすると昨日の余波か、頭がズキズキと痛む。

「あ、まだ血が足りてないのかも。あんま無理しないでね」

 胡桃の言葉を聞き、少し思い出す。


 血―――ああ、そうか。腕もげて腹が真っ二つになったんだっけ。ふふ、よく生きてるよな俺。


 あれ?なんで俺、腕と腹が―――――――


「ああっ!そうだアイツ!大丈夫本城さん!?何かされなかったあの後!」

「えっ…あ、特にはなかったよ。海道君が倒れてからすぐ警備員さんが来て逃げてったし」

「(逃げた……?)」

 何かが条馬の心に引っかかる。

「(何かおかしい。だって俺にはあんなにも容赦が無かったのに。なんであの男は逃げたんだ…?)」


「ん、どうしたのお兄ちゃん。ボーっとしちゃってさ。もしかして篠誣さんに見とれちゃった?」

「え、そっ、そんなわけないだろ?何言っちゃってんだか―――!ね、本城さ、ん?」

「ぶ―――――――――――ッ!!??」

 急にぶっこんできた胡桃の言葉を聞き、心に引っかかる靄を強引に捨て払って、思考を本筋へ戻す。


「えっ、あ…私は別に構わないけれど……?」

 なんか、篠誣さんも篠誣さんでまんざらでもない様子でなんだか言葉に詰まってしまう。

「ちょっとやめてよ本城さんそんな言葉言われたら僕勘違いしちゃううううう」

 が、胡桃のふざけた声で奏でられる妄言を聞いてすぐさま感情が一定以下へと一気に冷え切った。


「………ふざけるのもそこまでにしようか」

 冷え切り過ぎて氷点下までいったのではないかと錯覚させるほどの冷たい声で胡桃をなだめる。

 いや、今のはなだめるどころか圧をかけたのと一緒だ。


 ………………。

 沈黙が部屋の中に籠る。


「…っていうかさ、お兄ちゃん腕、無くなったんじゃないの?」

 それに耐えられなくなったのか、胡桃がふと問いかけてくる。

「ん―――。いや、無くなったんじゃなくて、千切れただけ………?」

 答えつつ、条馬は『右拳を握りしめながら』、ある疑問に辿り着く。


「―――なんで、右腕が戻っている?」


「………え?」

 問いかけたはずが逆に問われた胡桃が予想外の質問に一瞬停止する。


「いや、なんで千切れた腕がこんなに綺麗に戻ってんだ?」

 しっかり確認すると、謎の攻撃(状況から考えて多分、あの閃光)を受け、ぐしゃぐしゃに破壊された肩の辺りの傷が軽く包帯で巻かれていただけになっていて、割かれた腹も縫ってはあるが、数週間で治るほどであろう。


「手術は?あったのか?」

「………」

「う、ううん。無かったよ?…他に急患はいたらしいけど」

「そうか…」

 条馬の問いかけに黙り込んで思考する胡桃に代わり、篠誣が答える。

 それを聞き、思考をさらに広げる。


 もしかしたらクォーターヴァンパイアの力なのでは、と思うかもしれないが、普段からそれを振るっている条馬なら分かる。それは、そんなことは絶対ありえない、ということを。


 昔、条馬はある事件に首を突っ込んだ時、全身に重傷を負ったことがある。そのときは完治するまで1か月以上を要した。クォーターヴァンパイアの力があるにもかかわらず、だ。


 その時の経験からも今回の傷はあの時よりもひどい可能性がある。ならば、手術も無しに一日で完治するなんて。手術ありきでもおかしい。


 ―――ならばなぜ?

 考えても答えは出てこない。


「「う―――――――――――――――――ん?」」

 唸るように考え込む海道兄妹。

 それを見て邪魔だと感じたのか居心地悪そうにし数分。

「……私ちょっと飲み物買ってくるね!」

 篠誣がまるで覚悟を決めたように慌てて病室を出る。


「あ、ごめん。ありがとう」

 条馬は篠誣の心中をあえて察しず、そのまま篠誣を見送った。


「………で」

 篠誣がいなくなって少し経ち、沈黙を突き通していた胡桃へと条馬は問いかける。

「やっぱり、『アイツ』、だよな」

「…そうとしか考えられない。『あの人』は隠しているつもりだろうけどバレバレね」

 もうすでに条馬と胡桃には分かっていた。誰が、条馬の傷を治したのかを。


「本城篠誣。アイツが俺の腕や腹を治してくれた……」


 そう、篠誣が条馬の命の恩人だ。

 裂けた腹を治すことは今の医療技術ではまず無理だし、今の今まで条馬の傷にすら気づいてなかった胡桃はありえない。そして、あの男は論外だ。治す理由すら無い。

 ならば、篠誣しか該当する人物がいない。


 ―――しかし。問題はそこではない。


「篠誣がやってくれたのはまず分かる、状況的にもな。けど、どうやったんだ?」


 方法。

人物げんいん』が分かっても、『方法やりかた』が分からないのだ。

 別に分からなくてもいい。しかし、この『方法』が分かることが出来ればあの男がなぜ篠誣に絡んできたのかがもしかすると判明するかもしれない。

 ならば、望まぬながらも首を突っ込んでしまった手前、目を背けてしまうのは条馬の性格上、難しいことだ。


「それが分かんないんだよね、私も」

「だからさっきから考えてたのか」

「うん」

 残念ながら胡桃の方も方法までは考えつかなかったらしい。

 そういう条馬も全く考えついていないのでとりあえず、篠誣が『どうやって』傷を治したのか、ということを篠誣が戻ってきたら聞いてみよう。

 そう思っていたが、


「あれ、もう本城さん出かける時間長すぎない?」

 胡桃がふとそう言った。確かに近くの自販機に行くだけでは長すぎるほどに時間が経っている。正確に言うと、通常一分ぐらいのところを十分以上もかけている。

 しかし条馬は気楽に言った。

「おん?どうせ外にでも買いに行ったんじゃないのか?俺達ちょっと寄せ付けづらい雰囲気だったし。時間かけてくれてるんじゃないのかな」

 そう言いつつ、何となしに窓の外へと視線を向けてみる。

 するとそこには。


 あの児童公園で見た男が篠誣を強引に車に押し込んで、出発させているのが見えた。


「…………………あ?」

 思考が、停止した。

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