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アナザーワン  作者: T-熊さん
Chapter 1 不死鳥と巫女と半端未満野郎
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Chapter 1-7 『死』

「っ、グア!!?」

 やっと、男が悲鳴を奏でる。


 何事もないように難なく着地する条馬。

 軽く跳んで男から離れる。まだ警戒を怠ってはいけない。

 しかしこのままならば、勝機はある。

 そう、考えていた。


「俺の五輪魔術の真髄は」


 突然、男はそんなことを呟いた。

 条馬は男が何を言っているのか分からず、

「何を……」

 攻撃することも忘れ、ただ呆然としていた。


「地水火風天の五属性をまんべんなく自在に操れるということ。これは魔術師業界では大変珍しいことだ」


 ―――次の一言で全てが決する。

 何となく、そう感じた。


 男から先程から感じる『臭い』。

 漂う、何か鉄臭い臭い。これは…

 そう。

 まるで、血の臭いのような………。


 自己の勘を信じ、前へ進む。

「(なんとか、止めないとッ!)」

 そう信じて進み続ける。

 その間も男は何か呟いており、ついに『ソレ』を完成させる。


「五輪の輪より来たれ、『水』よ、『剣』となり放たれよ!!」


 一言、

 後。


 ギュバッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!

 と、耳鳴りを起こしてしまいそうなほどに爆発音が鳴ったと思った瞬間。


 夜闇を切り裂くように血をまき散らしながら条馬の上半身が錐揉み回転していた。



 ***



 叫びすら出なかった。

 ぼちょり、とまるで生ごみが落ちるような音と共に条馬が落ちる。


 ―――結局は。

 たかが『異物ヴァンパイア』といってもこの程度。

本物バケモノ』には圧倒されてしまう。不老不死の力を少し持っていたとしても、吹っ飛んだ腕や裂けた腹は簡単に戻らない。

 クォーターヴァンパイアの不老不死の真相は、他人より腕っぷしが強く、傷を常人より早く『癒す』ことだけだ。『治す』にはやはり時間がかかる。


「い、やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっ!!!!!!」


 今まで、空間内の『圧』に押されて、一言も発すことが出来なかった篠誣が叫びだす。

「……………………………………………………………………………………………………………………」

 さっきまで条馬『だったもの』はもう、何も話さない。

 沈黙が空間を支配する。


「さ、て」

「!」

 男は改めて篠誣の方を向き、にたりと笑う。

「予想外な邪魔が入ってしまったが大丈夫、心配は要らない。このままお前を連れて行けばオールオーケーだ。ならば、早く行こうか」

 ゆっくりと、確実に篠誣へ近づいていく。

 そして男の手が篠誣へと向かい――――――――――


「…………………………………………………………………ま、て」


 何かの声が聞こえた。

 男はギョッとした顔で潰れている条馬のほうを見る。

 しかし、条馬は今の一言で全てを使い果たしたのか、今度こそもう何も話さなかった。

 それに軽く安堵し、もう一度篠誣へ手を伸ばす。


「――――――」

 篠誣はそれに対してもう何も反応しなかった。


 条馬が自分のせいで死んでしまったのもそう。

 男が自分のせいで殺人を犯してしまったのもそう。

 けれど、一番ショックだったのは。


 この世界の中に自分がいること。


 自分がいなければこの二人の間に何も起きなかったのでは?

 そう思ってままならない。


 だから、このまま流れに身を任せてしまえば…


「こんな時間になに騒いでいる!?」

 と、急に誰かが大声で児童公園の入り口に立っていた。

 それは巡回中の警備員だった。


 警備員の目からは男が女子生徒に言い寄っているだけに見える。

 だが、暗がりでは見えにくいが、男の足元に。

 ―――赤黒い粘質な液体を右肩と腹のあたりから大量に吐き出している上半身と下半身が真っ二つに割かれている少年が倒れていた。


「!!!???」

 男は舌打ちし、傍らにいる篠誣には目もくれず走り出す。

 警備員は「待て!!」と叫ぶが男が闇に消えると、すぐさま条馬の方へと近づき手当しようとする、が。


「そんなことより救急車を呼んで!手当はこっちでするから!!」

 さっきまでうつむいていた篠誣がいきなり声を張り上げ叫ぶ。

「やっぱり、私は……ッ!」

 篠誣がなにか決意したように呟く。

「は、はいぃ!」

 その横で気迫で警備員は押されてしまい流れされるまま応答する。

 そんな警備員を尻目に、


「死なないで、死なないで、死なないでっ!!」

 篠誣は―――そう懇願した。

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