Chapter 1-5 『女のような』
条馬と胡桃、二人がショッピングから帰り、家のすぐそばまで着くと誰かがウロウロしていた。
「(怪しいな…コソ泥か…?)」
そう思ったが違うらしい。その人の手には地図があり、その地図を色々な角度から見ていた。きっと道に迷ってしまったのだろう。
この近くは結構道が複雑に入り組んでいて、引越してきたばかりの人達からは難易度の高い土地だとよく言われる。
「あの―――?すいません大丈夫ですか?」
気になり放っておくこともできずに条馬は近づいて話しかける。
「!…あ」
ビクン!と肩を震わせながらこちらを見るその人は――――――金髪の美少年だった。
光と同化してしまうぐらい透き通ってしまう、綺麗な金髪。それが外にハネていて、頭頂部には天に突き上げるほどのアホ毛が。
体は少し鍛えているのか筋肉が着ている黒のインナーシャツと白のコートから自己を主張するように出てきているがやはり見た目の印象は綺麗、だ。
綺麗さと可愛さを両方兼ね備えている、なんで男に生まれてきたの?と問いかけたくなるほどの絶妙なバランスの顔つきと体をしている少年。
思い出してみるとさっきの肩を震わす仕草もまるで子ウサギのような動作だった。
まるで練習したかのように洗練された動きだった。
「すいません、なんでしょうか……?」
うるうるとまるで物をねだる小動物のような視線。
それに一瞬たじろぐが、条馬はしっかりと要件を伝える。
「いや、何か困ってそうだったから…大丈夫?」
「あ…いや。仕事でここまで来たんですけど、道がわかんなくて……」
やっぱり道に迷っていたらしい。
(しかし仕事か…もしや年上か?わかんないトコだったらどうしよう)
条馬はそう思案していたが、
「で?どこに行きたいんだ?」
「えっと、天学園っていうんですけど…」
目的地が知っている場所だった。
「天か。それなら俺が通ってるところだから道を教えるよ」
それを聞いた金髪少年はぱあっと顔を輝かせ、
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
こちらに背を向けながら飛び上がるように喜んだ。
が、喜ぶのもつかの間後ろを振り返る。
「………あの、心配なのでついてきてもらっても…良いです、か?」
「え?」
本日二回目の登校で交通費が一日分飛んだ。
***
学校までのバス車内はいつもより凄く長く感じた。
社内では。
「あのs」
「ひゃ、ひゃい!?なんですかっ!」
「い、いや。やっぱいいや」
「あっ、そうですか……」
という謎の人見知りループが続いていた。
だが、そんな無意味な会話の中でわかったこともある。
少年の名前はアルフレッド・ペンデュラム、というらしい。
ペンデュラム、というと振り子が想像されるがアルフレッドが言うにはそれも間違っていないらしい。
アルフレッドの実家は出身地、イギリスの方では名のある貴族で上院議員の親戚もいるとのこと。
さらに、ペンデュラム家は昔から一回決まれば一気に世論が変わってしまうような決断へ知恵を貸して良い方向へと事を進める、というアドバイザーの進化形みたいな仕事をしているようだ。
世の良し悪しの均衡を作り出す振り子のような存在、それが家名の由来なのだという。
「まぁ、僕はそういうのには関係なくて。教員関係の仕事に就いてるから日本の教育事情の調査の為に国内トップレベルの設備を持っている天学園へイギリスからはるばる来たんだ」
と、謙遜するようにアルフレッドは言っていたが。
実際のところ、教員、と言ってもイギリスの中のエリートを育成するようなところで仕事をしているのだろう。
よく見ると着ているコートにはところどころ金色の意匠が埋め込まれている。
純白のその生地もシルクのような煌びやかさだった。
……お値段は聞かないでおこう。
そんなこんなで軽く薄い話を延々としているとバスが学園へと到着する。
(やっとか……長かった)
そう思いつつ、
「もう大丈夫だろ?俺はこのままループで帰るから」
と、アルフレッドと別れようとする。
「あの…職員室の方まで……良いですか?」
「……………」
***
「ありがとうございました――――――っ!!」
アルフレッドの声を受け、手を小さく振る。
ようやくの解放。
結構アルフレッドは見た目通り人見知りだったらしい。
「(―――学園から、帰れるだろうか??)」
と思ったが、まぁ先生達もいるし大丈夫だろう。
少し歩きバス停の方へと向かう。
しかし、もうバスはさっき乗ってきたものの次に乗るには10分ほど待たないといけない。
けれどもう少しだけ歩けば地下鉄の駅がある。そっちを使った方がバスを待つよりかは時間の短縮になるかもしれない。
そう考え、バス停から駅の方へと足を運んだ。