入学編V
学園生活2日目。
よく晴れた朝だった。
今日から授業が始まる。
《今日中に武術大会の申請しないとな》
生物の授業。アルスは生物教師の話を何となく聞く。
「…ええ、この地球には、人類と魔物がいますね。人類には我々純人種と、ドワーフやエルフのような亜人種、巨人種がいることはご存知でしょう。では、魔物にはどんな種類がありますか?」
教師は生徒に問いかける。
すると真っ先に手を挙げたのは、アルスが助けた少女、クレア・ローゼンベルグだった。
「では、ローゼンベルグさん。」
「はい。魔物の種類には
魔獣種
植物種
魔蟲種
元素種
不死種
魔人種
幻獣種
龍帝種
魔王種
の九つがあると言われています。」
「素晴らしい、ローゼンベルグさん。よく予習ができていますね。」
《すげえ、何だあいつあんなに頭いいのか。やっぱりクレアを武術大会で同じチームに引き入れたかったな。》
ぼーっとしながら授業を聞いていると、いつの間にか終わってしまった。
「これで授業を終わります。生徒の皆さんは、武術大会の申請を忘れずにしましょう。」
「はーい」
「それでは解散。」
皆が一斉に事務室に走り出す。混雑するとわかっているのだろう。
「おいっ!アルス!俺たちも行こうぜ」
アレックスが誘ってきた。
「ちょっと待ってくれよ。」
急いで荷物を詰めて駆け出す。
事務室に着くと、事務室の前の廊下には既に長蛇の列ができていた。
「うわー。すまん俺がもたもたしてたから。ってあれ、申込書教室にわすれちまった!」
「何やってんだよ。まあ、いい。並んでてやるから取ってこいよ。」
「すまん、恩にきる!」
アルスは急いで駆け戻った。
教室に入ると、そこには一人座っているクレアの姿があった。
「なんだ?クレアは申請に行かないのか?」
「いいの。私は出ないから。」
「え?どうしてだよ。」
「私ね、入学試験では筆記が学年2位だったんだって。でもね、実戦が全くできないの。筆記が良かったから実技試験の成績を免除されて入学できたの。だから、私がチームにいると迷惑をかけるだけ。魔法も剣術もできない私は武術大会になんて参加できないわ。」
「何言ってるんだよ!誰がお前を迷惑だと思うんだよ!俺も思わないし、アレックスも絶対にそんな奴じゃない。なぁ、一緒にやろうぜ!」
「…少し、考えさせて。本当はね、参加したくないのには他にも理由があるんだ。私ね、幼い頃の記憶がないんだ。だから人と関わるのが少し怖い。もしかしたら幼い頃の親友が話しかけてきているのに、私は気づいていなくて、『初めまして』なんてことを言ってるんじゃないか。もしかしたら私の知らないところで誰かに恨まれたり、約束をしたりしていることがあるんじゃないかって。だからさ、やっぱり私、」
「…ほらさっさと申込書書いて出しに行くぞ。」
「アルス君?」
「お前は過去のことを気にしすぎだ。俺だって辛い過去はあったさ。でもその過去を造った加害者にも理由があったって分かって、今ではそいつと腹を割って話せる仲にもなった。過去のことは忘れては駄目だ。でもな、過去の重荷を全部抱えたままじゃ、未来へとゆっくりにしか進めない。もちろんその重荷はすぐには減らないかもしれない。だからさ、俺にもその半分を背負わせてくれよ。」
「アルス君…」
クレアの瞳から大粒の涙が溢れる。
「ほら、締め切りになる前に急ぐぞ!」
「うん、私、やってみる!」
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締め切り10分前。
アレックスは流石に苛立ちを隠せない。
「あいつなぁ。何やってんだ。トイレしてたってこんなに遅くはならんだろ。」
「おーい、アレックスー!」
聞き覚えのある声にアレックスの怒りは爆発する
「こぉらぁぁぁ!なにやってたんだぁ!」
「すまんすまん。」
「あれ、この子は?」
クレアに気づいたアレックスが聞いてきた。
「ああ、この子を誘ってて遅れたんだ。」
「同じクラスのクレア・ローゼンベルグって言います。ごめんなさい私のせいで待たせちゃって。」
「いいんだよ、悪いのは全部アルスだから」
さらっとアレックスは全てをアルスの所為にしてしまった。いや確かにそうだが。
「まあ、親友のアルスが選んだんだ。いい奴であることは間違いないだろう。」
そしてさらっといいことを言ってくれる。
親友認定の早さに驚きを隠せないアルス。
「よーし、じゃあこの3人で武術大会優勝するぞー!」
「「おー」」
アルスの掛け声に二人が答える。
ここから3人の冒険は始まる。
入学編完結です!