入学編I
新章突入です。
アルスは豪華な彫刻の施された大きな校門の前に立った。
校内には大きくまだ新しい校舎、扇型の講堂が見える。
中央には噴水広場があり、その奥に二体の銅像がある。そしてなぜかその中央には台座だけが置いてある。その中央の台座に立つに相応しい立派な生徒を目指せと言うことだろうか。
《これがハルベルト王立魔法学園…でっけえ。今日からここで過ごすのかぁ》
アルスは“天空龍の嵐”によって村と両親を失った後、隣村であるコーデ村の叔母の家に引き取られていた。
《今日からは寮に住んで、自分の力で稼いで生きていく。もう叔母さんに迷惑をかけなくていい。》
そう思うと、一層力が湧いてくるのだった。
「あれ、君はあの時の少年じゃないか!」
そういって声をかけてきた門番に、アルスは見覚えがあった。
「あっ、あの時の処刑人の傭兵さん!確かラースさん!この前はありがとうございました!」
「何を言ってるんだ。お礼を言うのはこちらだよ!こちらこそありがとう。そうか、君はこの学校の入学者だったのか。入学前にあれだけ強いなら今後は期待ができるなあ」
「い、いえ、あれはたまたま悪魔の弱点に当たっただけで、マグレですよ、、、あっ、そういえばラースさんもここで働くんですか?」
なんとか誤魔化そうと別の話を振る。
「悪魔、なんのことだい?戦ったのは下級魔物じゃないか。そうだ、しばらくはここの学校で警護をすることになったのさ。これから宜しくな。」
「はい、宜しくお願いします。そういえば自己紹介まだでしたね、アルス・シュナイダーと言います。」
「俺はラース・バルマーだ。そうそう、天空龍のことだか、自然消滅したってな。よっぽど弱ってたのか。あっ!そろそろ行かないと遅刻するぞ!」
「あっそうでした。ではまた会いましょう!」
そう言って思ったよりも早い再会を喜びながら駆け出す。
《お前、ずっとぐちぐち心の中で言ってたろ。》
心の中の龍に声をかける。
《それはそうだ。奴め我を殺そうとしたのだからな》
《お前だって俺の村破壊したろ。許してやれよ》
《む、それを言われてはしかたあるまい。それと、お主も気付いておろうが、我のことを決して他人に言うのではないぞ。回復しなければまた、今度はお前ごと処刑されかねんからな。》
《わかってるって。怖いこと言うなよ。幸いラースさんも気付かなかったみたしだし世間でも自然消滅したってことになってるみたいだしな。それにしてもなぜか悪魔と戦ったことを下級魔物と勘違いしているみたいだったな。》
そんなことを話しながらアルスは入学式のある講堂に向かった。
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講堂は扇型で、座席が野球場のように配置されていた。
アルスはその右後ろあたりに座っていた。
「ええ、で、この学校について、ですが、この学校は連合国で最初の学校にして、まだ二つしかない学校の内の一つであります。この学校に入学できるのは思想や身分や種族や年齢に関係なく試験に合格したもの全てであり、合格したものは四年間の学生生活の中で対等なものと扱います。」
ぶすっとした顔の男性教師が長々とした説明をする。
アルス当然入学試験を受けて合格した。試験内容は筆記と下級魔物との実戦であった。あとでわかることだが、アルスは筆記試験は合格点ギリギリだったようだ。合格できたのは伯父と伯母の教育の賜物だろう。
「では、次に主席合格したエメリア・ベルギウスさんに新入生代表の挨拶をしてもらいます。」
司会進行役の男性教師が呼ぶと、ステージに、紫色の美しい髪の少女が現れた。
その歩き方や振る舞いから、育ちの良いお嬢様のように思われた。
「皆様、こんにちは。私達は今日から、この学び舎で共に過ごす仲間として切磋琢磨し、この学校が生み出した 最高のギルドとして銅像が建てられた、あの二人組ギルド『ダイヤモンドダスト』のような優秀な人材になれるよう、力を尽くすことを誓います。」
《あの銅像はそう言うことだったのか…》
暫くするとアルスは長々しい式典に少し苛立ってきた。
《その程度で心を乱していてはまだまだであるぞ!》
心の中で龍がからかってきた。
《んなことわかってるよ》
《まったく先が思いやられるわい…》
だが、誰にもばれずにこいつと会話してれば良い暇つぶしになると気づいた。
と、ここで、
「それでは最後に本校校長フェルナンド・リブロスが閉会を宣言致します。」
司会進行役がそう言うと、壇上には白髪で厳格な白髭を垂らした老人が現れた。
「以上をもちまして、入学式を終わります。」
《なんだよ、折角暇つぶしを見つけたのに》
《お主、我を暇つぶしの道具と考えとったのか》
そんなことを言いながら、次のホームルームがある教室へ向かった。