卒業式の第2ボタン
ふくらんだ桜のつぼみの下、学校にあるガラス製の温室で、由美は人を待っていた。
卒業式だ。由美は今、高校2年生だから、卒業はまだ遠い。
しかし、今日は由美が大好きな先輩の卒業式なのだ。
人づてに手紙を渡してほしいと頼んだけれど、ちゃんと先輩まで届いただろうか。
先輩は優しい人だ。伝わっていれば来てくれるだろうが、いまいち自信がない。
すこし、どきどきしながら待っていると、先輩が現れた。
「やあ由美さん」
部活が同じで、ちょっとしかしゃべったことのない先輩が、由美の名を呼んだ。
「柿野先輩」
そう言って、由美は顔が真っ赤になった。
来てくれた!
それだけで幸せになれたが、大切なことを告げるのはこれからだ。
「来てくれてありがとうございます」
違う、こんな言葉じゃない。言わなければならないのは。
「柿野先輩。わたし、先輩のことが好きです」
言えた!
柿野先輩は優しい目を細めて由美を見ていた。
「あの、第2ボタン、もらってもいいですか?」
「ああ。いいよ」
柿野先輩がボタンを外す。
記念だ。柿野先輩は、これから遠いところにある大学に行く。
大学まで追いかけるのはストーカーのようで、柿野先輩にとって失礼かもしれない。
ボタンをもらって、それを記念にさっぱりあきらめよう。
由美はそんなことを考えていた。
「うん。……ってるから」
柿野先輩が小さな声で言う。
「先輩……今なんて?」
「待ってるからさ。あと一年頑張れば、同じ大学に来れるかもしれないだろ?」
「えっ」
由美は驚いた。
「先輩……わたし、先輩のこと追いかけてもいいんですか?」
「もちろん」
優しい微笑みを浮かべると、柿野先輩はボタンをしっかりと由美に渡した。
「ありがとうございます。わたし、絶対、絶対に追いつきます!」
由美は涙が出てきた。喜びの涙だ。
温室は、由美と柿野先輩が部活で育ててきた花が美しく咲いていた。
それはまるで、これからの二人を応援しているようだった。