表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

卒業式の第2ボタン

作者: すー

 ふくらんだ桜のつぼみの下、学校にあるガラス製の温室で、由美ゆみは人を待っていた。

 卒業式だ。由美は今、高校2年生だから、卒業はまだ遠い。

 しかし、今日は由美が大好きな先輩の卒業式なのだ。

 人づてに手紙を渡してほしいと頼んだけれど、ちゃんと先輩まで届いただろうか。

 先輩は優しい人だ。伝わっていれば来てくれるだろうが、いまいち自信がない。

 すこし、どきどきしながら待っていると、先輩が現れた。

「やあ由美さん」

 部活が同じで、ちょっとしかしゃべったことのない先輩が、由美の名を呼んだ。

柿野かきの先輩」

 そう言って、由美は顔が真っ赤になった。

 来てくれた!

 それだけで幸せになれたが、大切なことを告げるのはこれからだ。

「来てくれてありがとうございます」

 違う、こんな言葉じゃない。言わなければならないのは。

「柿野先輩。わたし、先輩のことが好きです」

 言えた!

 柿野先輩は優しい目を細めて由美を見ていた。

「あの、第2ボタン、もらってもいいですか?」

「ああ。いいよ」

 柿野先輩がボタンを外す。

 記念だ。柿野先輩は、これから遠いところにある大学に行く。

 大学まで追いかけるのはストーカーのようで、柿野先輩にとって失礼かもしれない。

 ボタンをもらって、それを記念にさっぱりあきらめよう。

 由美はそんなことを考えていた。

「うん。……ってるから」

 柿野先輩が小さな声で言う。

「先輩……今なんて?」

「待ってるからさ。あと一年頑張れば、同じ大学に来れるかもしれないだろ?」

「えっ」

 由美は驚いた。

「先輩……わたし、先輩のこと追いかけてもいいんですか?」

「もちろん」

 優しい微笑みを浮かべると、柿野先輩はボタンをしっかりと由美に渡した。

「ありがとうございます。わたし、絶対、絶対に追いつきます!」

 由美は涙が出てきた。喜びの涙だ。

 温室は、由美と柿野先輩が部活で育ててきた花が美しく咲いていた。

 それはまるで、これからの二人を応援しているようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 由美ちゃんのこれからが明るくなった感じがして甘酸っぱい中にもほんわかした気持ちになれました。 私もこんな高校生活送りたかった…!
[良い点] 大遅刻すみません。 青春の爽やかさが遺憾なく発揮されていますね! 年を経た現在では、「そうはいっても一年は短いようで長い」とか、「いやきっと、うまくいかなくなって別れるよ」だとか下種なこと…
[一言]  はじめまして、葵枝燕と申します。  「卒業式の第2ボタン」、読ませていただきました。  柿野先輩、かっこいいなと思いました。そして、自分の想いを素直に告げる由美も、かっこいいなと思いました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ