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第一話 登場! 消えぬ紅き闘志(Aパート)

「あ、あの……だ、大鉄輪大吾だいてつりんだいごさん、ですよね?」

「――ん? う~ん」


 いつものように公園の一角に生えている銀杏の木の下にゴザを敷いて昼寝をしていた大鉄輪大吾は、自分を呼ぶ声を聞いてけだるそうに声がした方に寝返りを打った。顔を上向けて重い瞼を開くと、中学生くらいの男の子が立っていた。


「どうした少年、俺に何か用か?」

「ほ、本物の、大鉄輪さんなんですよね、レッドセンシャーの!」


 それを聞いて、大吾がむくりと身体を起こした。寝ていたゴザの上に胡坐をかく。


「大鉄輪大吾ではあるが、レッドセンシャーではないな、俺は」


 ぼりぼりと尻をかきながら面倒くさそうに答える。


「え!? どうして!? レッドセンシャーの正体は大鉄輪大吾さんだってこの国の人間全員が知ってますよ!」

「だから『元』だ、レッドセンシャーだったのは」


 大きな欠伸をしながら元レッドセンシャー、大鉄輪大吾は答えた。


 この国に突如現れた悪の侵略組織である鉄車帝国デスクロウラーを、こちらも突如として現れた戦車戦隊ダイセンシャーが打ち倒してから半年ほどの時間が経過していた。




 鉄車帝国デスクロウラーがこの国へ侵攻してきたのは突然だった。


 その日、あらゆる映像媒体と動画媒体をジャックした鉄車帝国は、その総帥と思しき仮面(もしかしたら素顔かも知れないが)の人物による声明文の発表を行った。


『我ら鉄車帝国デスクロウラーは世界へ宣戦布告を行うものである。まずはその足がかりとして、この履帯式建設車両が多く存在するこの国を征服させてもらう。全ての無限軌道は戦車怪人となり我が尖兵となるのだ!』


 それを聴いていた者たちは殆どが「???」であったに違いない。


「何を言っているんだこの人は?」と誰もが思っただろう。「世界を相手に戦い?」「その足がかりにこの国を征服?」ほぼ全ての人が気が狂った人たちが妄想を呟いているのだろうと思った。


 しかし一部の人々は気づいていた。この鉄車帝国なる組織はほぼ世界中の映像や動画発信機関をジャックして見せたのだ。その技術力たるや、現行の科学レベルを二、三歩進んでいる。その超技術が戦闘兵器の開発にも生かされているのなら……。


 そしてそれは程なくして証明されることになった。


 この国の首都東京。その町中の建設用地の一つに覆面に全身タイツと言う、怪しさ以外には何も無い集団が現れた。


「クロウラー! クロウラー!」と奇声を発しながらたむろする集団の中心に、一人だけ違う格好をしている者がいる。


 豊満な胸を半分だけ覆った、手足の露出度も素晴らしく激しい戦闘スーツに身を包み、体のあちこちに棘やカッコ良さげなメカをいくつも装着したその姿は、誰もが想像するであろう悪の女幹部の姿そのものであり、実際に帝国内でその役職を担う女性なのだろう。


「ここが東京か。聞いていたよりはつまらぬ町だな」


 街並みを睥睨しながら朗々たる声で女幹部が言う。大変な美声だ。その声を聞いただけで「このヒトのためなら命を捨てられる!」と心に誓ってしまうほどの麗しき声音。「クロウラー! クロウラー!」と、既にその美声に身も心も捧げているのであろう戦闘員から合いの手が上がる。


 第一次先発隊であろう彼女らは、その初登場を果たした栄誉に酔いしれるように鬨の声を上げていたが、無論誰もいない場所でこんなことをしていた訳でもなく、何百人もの通行人がその場に立ち止まって様子を伺っていたのだが、程なくして巡回中の陸上保安庁の保安員がやってきた。


「なんだ君たちは! そこで何をしている!」


 野次馬を掻き分けて保安員がやってくる。不法侵入であり不法占拠であるのは間違いないので、まずはその罪状で拘束しようと向かって行ったのであるが、一番手前にいた戦闘員が無造作に手を上げると、そのデコピンの一撃で近づいてきた保安員をふっ飛ばした。


「!?」


 野次馬から声にならない悲鳴が上がる。


 大体あの手の珍妙な格好をしている者たちは中身はモヤシ人間だと相場は決まっているのだが、どうやら彼女たちは本当に強いらしい。あの「お莫迦な宣言」としか思われていなかった宣戦布告が「本当に本気」だったと、この場に居合わせた者たちはその力の証明を見せ付けられた。


「うわーっ!?」「きゃーっ!?」


 悲鳴が上がり蜘蛛の子を散らすように野次馬が逃げていく。定型文をそのまま書いているだけと思われるが、人間全力で逃げるとなったら本当にこうなってしまうので仕方ない。


「ふふふふ、逃げろ逃げろ! 今は逃げおおせてつかの間の平和を享受するがいい。いつかは我らの手に下るのだからな、この世界の人間全てが!」

「そこまでだ!」


 女幹部の美声を邪魔するように声が上がった。


「なにやつ!?」


 せっかく格好良い台詞でキメたのに空気の読めないのは誰だ、と言わんばかりの表情で声のした方へ振り向く。


 そこには堆く積み上げられた建設資材の上に立ち並ぶ五人の若者の姿が。


「誰だきさまらは!」

「悪に名乗る名など無い!」


 女幹部の誰何に、真ん中に立つ赤色系統でまとめた私服の青年が答えた。


「行くぞ! とう!」


 青年が掛け声と共に飛び出していく。両脇の残り四人もそれに続く。


 着地と共にカッコ良い構えのポーズに入る五人。そして「変身だ!」という赤い青年の声を合図に、全員ポケットから秘密道具らしき小型の機械を出すと、再び様々なポーズを決め始めた。それに連れて五人の体が光に包まれる。


 その光の中で着ていた服が消えたり、各々の色のバトルスーツが着装されたり頭にはヘルメットが被ったりとなんやかんや行われた後に光が消えると、そこには変身を遂げた五人の戦士が立っていた。


「燃える闘志の赤き車輪、レッドセンシャー!」

 変身を終え、まずは真ん中にいた赤い私服の青年がそのまんま赤い戦士に変身して名乗りを上げる。


「空を切り裂く青き砲弾、ブルーセンシャー」

 青き戦士に変身した青年が続いて告げる。彼の名乗りはセンシャーの後にエクスクラメーションマークが付かない厳かなものである。


「弱きを守る黄色き装甲、イエローセンシャー!」

 黄色の戦士に変身した女性が正に黄色い系の声を張り上げる。セクシーさとカッコよさが同居した男勝りな女戦士系のポーズも添えて。


「魂動かす緑のエンジン、グリーンセンシャー!」

 緑の戦士に変身した青年が力強く言う。常に誰かのサポートや相談役に回っているような、底深い力を感じさせるポーズと声。


「絆を繋ぐ桃色のボルト、ピンクセンシャー!」

 桃色の戦士に変身した女性が叫ぶ。清純そうな声と無理やりやらされているようなコケティッシュなポーズのギャップが非常に可愛い。


 そして五人が改めて並んで、揃いの名乗りを最後に決める。


「悪を履帯でひき潰せ! 戦車戦隊ダイセンシャー!」


 その揃った声と共に五色の爆煙が五人の後ろで勇壮に爆ぜた。発破用のダイナマイトだろうか。こんな町中の工事現場で発破作業があるのも変な話だが。


 その前にそんな疑問をすっ飛ばして、お前ら名乗ってるじゃないか! という突っ込みもあるだろうが「本名を名乗らない」とかそう言う意味だったのかもしれない。


「戦車戦隊だとぅ?」


 ここにいたるまで1、2分ほどの時間が消費されているが、彼らが資材上からジャンプするのも、一人ずつ変身していくのも、最後の全員の名乗りの背後でどかーんと爆煙が上がるのも静かに見守っていた女幹部が訊いた。もちろん幹部が何もしないので戦闘員の皆さんも静かに見守り続けている。


「悪の鉄車帝国デスクロウラーの悪事は、我ら戦車戦隊ダイセンシャーが許さない!」

「ほほう、我らに立ち向かうと言うのか?」


 悪と悪が二つ重なってたり、悪事と言っても今のところ保安員をデコピンでふっ飛ばしただけなので、むしろ町中で五つも爆発を起こしているあんたらの方が悪いことしてるんじゃないのかとか色々言いたいところはあるのだろうが、そこは全部受け流す態で女幹部が嘲笑する。でっかい器だなぁ。


「面白い。兵士達よ、やっておしまい!」

「クロウラー!」


 そのお約束な言葉が聞きたかったー! という嬉しさも込めて戦闘員たちが雄叫びを上げながら戦車戦隊へと向かっていく。


「行くぞみんな!」

「おう!」


 そしてそれに立ち向かうようにダイセンシャーも飛び出した。

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