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彼女の国のサンタクロースは、トナカイではなくカンガルーに引かれてやってくるらしい。


呼び名も違って、ファーザー・クリスマス。

その由来までは彼女も知らないようで、それを聞いた時男は、サンタクロースが実在せずその正体が多くは父親であることをばらしているようなものではないかと内心思った。



半袖短パンの波乗りサンタのイラストを見せられた時には驚愕したが、季節を思えばなるほど納得せざるを得ない。


自身の中にあるクリスマスの概念と真夏のビーチのバーベキューがどうにも頭の中で結びつかず、どうしようもない文化のずれを痛感せずにはいられないが、例年の自国のクリスマスについて楽しそうに語る彼女を見ているのは悪い気分ではなかった。



友達や恋人とではなく、家族で祝うのが習わしだと言う。

クリスマスの朝、家の中に飾られた大きなツリーの下には家族全員分のプレゼントが届いている。

それは全員が揃うまで、決して開けてはいけない。



「だから、帰らないわけにはいかないの」



頑なにそう言い続けていた少女は土壇場まで家族を説得し続けていたらしく、ぎりぎりで帰国の便を遅らせることに成功した。


とは言えそれは12月24日の夕方の便で、イブの夜に一緒にイルミネーションを楽しんだり、という男の希望に完全に沿うものではなかった。



24日が2人の学校の終業式だった。

午前中で学校は終わり、それを以て留学期間が終わる彼女は母国へ戻っていく。

夕方の便に乗るためには、別れを惜しんで2人でゆっくり過ごす時間もほとんどないだろう。



その日が恐らくは、最後の2人の逢瀬になる。

だからこそ長い夜を共に過ごし、そこで彼女を――という思惑も男の中には少なからずあった。


手の届かない存在と思っていた少女と気持ちが通じ合った、二次性徴を終えたばかりの男としてはそれも当然の欲求だったと言えるかもしれない。



けれど男は、彼女の母国の習わしと、彼女と彼女の家族を尊重して納得した――或いはその振りをした。

必死で自分に言い聞かせ、別れの時への心の準備を、漸く始めた。



もう二度と会えなくなるだろう恋人を、自分の欲や最後だからという理由で抱いてしまえば、待っているのは後悔だけかもしれない。

後にそれは彼女に傷となって残るかもしれない。

綺麗な思い出のまま残しておく方が、互いにとってきっと幸せなことだ。



愛、と語るには男は若すぎた。

けれどその想いが本物である自信はあった。

だからこそ冷静になれた。



将来を約束するにはあまりにも無力。

それならば、今この気持ちを押し付けて、国へ帰ってしまう彼女の未来を拘束し続ける権利などない。



「最後の日は、少しでも一緒にいれる?」


「うん、勿論。私もそうしたい」


「帰国を伸ばしてくれて嬉しいよ」



帰らないで欲しい、などと言えるわけがなかった。

例え彼女の瞳の中に、帰りたくないという想いが滲んでいても。

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