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四月のすき間  作者: くさき いつき
第2章 四月一日の寂寥

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7

 ベーグルは確かに美味しい。一緒に注文したコーヒーも香りが匂い立ち、口当たりも優しい。優子の見つけたベーカリーは、カフェのみでも充分に満足できるお店だった。

 だけど、今の状況はよく分からない。

 私の右隣の席には優子、向かいの席には坂口さんが座っている。ガラス窓にうっすらと映り込む私達の姿は、先輩後輩? 友達同士? 女子会でもしているように見えるのかな。


「でも、こんな所で佐野先輩に会うとは思いませんでした」


 アールグレイの入ったカップを両手で包みこむように持ちながら、坂口さんは言葉を落とす。


「私もびっくりしたよ」


 うん、本当に。そんな私の心情に同意するかのように坂口さんは大きく頷く。


「大学構内なら会うかな? って思ったりもしましたけどね?」


「坂口さんは、市内から大学に通うの?」


 電車の交通の便はそんなに悪くないから、市内から通う人も一定数いる。この辺はやっぱり地元と違う。京都も都会なのだと感じる。


「いえいえ。今日はたまたまたですよ。引っ越し作業も一段落ついたから、ちょっとブラつこうかなって」


 散歩にふらりと出掛けるような気軽さで電車に乗ったらしい。


「もう引っ越し作業終わったの?」


「はい、卒業式終わったら、わりとすぐこっちに来たんですよね」


「去年みたいに旅行に行ったりはしなかったの?」


 ふと思い出したので聞いてみただけだった。友達と旅行と聞いただけで、誰と一緒だったかまでは聞いてなかったかもしれない、と思い至ったのは言い終えてからだ。でも、杞憂だったみたいだ。


「ああ、卒業旅行しましたよ。今年はバスケ部以外の友達も誘ったから、結構大所帯になっちゃいました」


 朗らかに笑みを浮かべる姿は、旅行が楽しかったことを感じさせる。


「へぇ、じゃあ坂口さん……瑠美ちゃんでいい?」


「ええ、優子先輩」


 ショートボブの髪を揺らしながら頷く姿は、愛嬌がある。優子も笑顔で頷いている。坂口さんと優子の距離が一気に縮まった気がする。


「瑠美ちゃんは旅行から帰ってきてすぐ引っ越した感じなんだ?」


「そうですねぇ。早く新天地に行きたくて!」


「アクティブだねぇ」


 割とギリギリまで引っ越し準備をしていた自分からすると、見習うべきかもしれない。


「卒業旅行はどこに行ったの?」


「北海道ですよ」


 さっきからこっちから質問しすぎかな、とちょっと気になったけど、坂口さんは笑顔のままだ。だからか、とても話しやすいと感じる。


「北海道行ったの? 私の地元だよ」


 優子ともすっかり打ち解けていて、旧知の仲みたいだ。会話自体は初対面の内容だけど。北海道という共通の話題を見つけて2人は盛り上がり、ますます親しげだ。私自身は北海道に行ったことがないので、聞いて初めて知る内容が多い。

 ……そうか。地元を離れて1年。その間に、きっと私の知らない色んなことを経験したんだろうな、ナツは。

 淋しい、と感じてしまうのは自分勝手かな。

 思わず溜め息をこぼしそうになった所で、ぐっとこらえる。今の楽しい雰囲気に水を差すようなことはしたくない。気分を落ち着かせるようにコーヒーに口をつけると、苦みが増したような気がした。


「あ、そうだ、お土産の白い恋人、まだあるんですけど先輩方もどうですか?」


 どうやら自分用に買った分がまだあるらしい。つい先日、優子からもらったお土産も白い恋人だった。やっぱり北海道のお土産としてメジャーなのだろう。

 ナツも買ったのだろうか、食べたのだろうか。

 白い恋人を食べるナツを想像したら、何だか楽しい気分になった。離れてはしまったけど、きっと共有できることもあるのだ。

 優子も坂口さんも話し上手な上に聞き上手で、気付けば随分とベーカリーに長居してしまった。店を出る頃には夕闇が滲み始めていた。


「佐野先輩も、綿実先輩って呼んでいいですか?」


 最寄駅に着いた別れ際、そんなふうに尋ねられ、私は頷いていた。


「うん、よろしくね、瑠美ちゃん」


 明るい笑顔で手を振る姿に、春は出会いの季節なのだ、と感じさせられた。そして、別れの季節でもある。

 ナツが最後に見せた哀しみに彩られた瞳が過る。

 あれからもうすぐ1年。ナツも朗らかに笑ってくれていたらいい、と願いながら家路へと歩き出した

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