学校生活
無機質な白いコンクリートの建物に教卓に立っている男性が教え子に対して言う。
「え~新しいクラスができたが、無論学力も含めて生活のしかた加えて考え方も違う。それを理由にからかったりしないように。」
真新しい緑の黒板を目の前に尊はその他大勢の同年齢の生徒と共に席に着き教師を待っていた。
「藤崎、さっきあなたが乗ってきた・・・その。」
「アレね・・・未だになれない。」
彼のいうアレと体長10mもある鷲に乗ってきたことだ、九尾が勝手にしたことで怒られた藤崎からしてみれば溜まったものではなかった。
「でも、自動車だと六時起きだし嫌なんだな・・・」
「どんだけ遠いところに住んでいるの・・・」
「え~っと無線塔が建っていたりしている場所。」
「・・・よく分からない。」
「畑と田んぼがたくさんあるところ。」
「なんとなく理解したわ。」
そこに入ってきた白髪交じりのやせた教師が入ってきて軽く自己紹介を済ませる。堅苦しい世界ためイ文字ばかりの教科書だと思ったが意外なことにカラーイラストと丁寧にふきだしをつけていたが。
「分厚い・・・」
藤崎は顔をひきつらせて目の前の教科書を凝視していた。
「え~っと本国史って日本史のことか、何か算盤のやり方の教科書もあるけど何でだ?明らか小学生向けなんだけど・・・というかフォントからして小学生低学年向けじゃないか。」
「それに関しては説明する、算盤を習得している者としていない者を比べると習得している者の方が数学が得意だと統計がとれている。」
教師が説明すると何かの計算式を書き始めた。
「そしてこれがインド式計算、これらは日本では習ってはいませんがここでは義務教育の一環として行われています。」
「何と言う面倒な・・・」
彼は藤崎はまたげんなりした顔で算盤の教科書と算数の本をみる。そしてその算数の本には”試”とシールが貼られていた。それは加えてそこには元界人用と黒く印刷されていた。
「成る程ゆとり仕様だな。」
「言わないで藤崎、私まで・・・なんでもないわ。」
尊は成績優秀で馬鹿の同意語であるゆとりを連呼されるのはあまり気分がよくない。
「にしても、算盤はともかく何でインド式まで勉強しなきゃならないんだ。」
ここにいる生徒も藤崎と同じことを考えていたのか同じく頭を抱えている者がちらほらといた。
「さて、今日は学校の流れだけでも抑えてもらいます。あとここの学校には貴方たち以外にも元からいる生徒がいるのでそれも忘れないように。また近いうち制服を支給しますが、特に強制はしません、ただし着崩したりはしないように。」
一方
「異世界の人間ってどんな人たちだろう!」
目をキラキラ輝かせる一人のセーラ服を着た女子生徒は窓からちらほら見えるブレザーなどを着た異世界人をみて想像を膨らませていた。
「”尊”お前新学期早々に何かよからぬことを考えていないだろうな?」
学ラン服を着た同級生が半目にしながら尊という名の女子生徒に問いかけると彼女は二マリと笑った。
「でも制服が変わっているな、何かスーツみたいだ。」
「あれって確か関東の方にありそうだね。」
「でも金持ちの所だけだろ?」
生徒達が騒ぐ中一人だけ冷めた様子で生徒を見ていた、年相応に喜んでいる様子を面白くない表情で眺めている男子生徒が濁った眼で”尊”と呼ばれた女子生徒を睨むように見た。
「くっだらない。」
白髪が特徴で少し色黒の彼はだらりと廊下側の窓に視線を向ける、その窓から廊下ともう一つの窓から見える青空を見あげていた。
「何で異世界人と同じ場所でいなきゃいけないんだよ。」
異世界人を邪見している中その異世界人がにょきっと窓越しにビタと覗き込んできた、一瞬のことだったので彼は目が点になり判断が鈍る。
一度教室の天井を見上げてもう一度窓を見ると今度はガラス越しではなく直接対面を果たしていた。
「Oh! yeath!!高校生で学ランセーラ服キター!!」
いきなり意味不明なことを良い両手を挙げて喜びを身体全体で表現すると同時に”尊”がモータ仕様のロボットのようにグルンと90度曲げその声の主を確かめた。
「何々!?異世界人!?」
「藤崎・・・私の名前はハインケル・ルッドイッヒですよろしっ!?」
「すみません、失礼しました。」
後ろから容赦のない突っ込みを喰らった藤崎はそのまま意識を失いダラリと下げていると尊は頭を下げてそのまま引きずり持ち帰って行った。
そしてその様子をみて静まり返った教室は何ともいえない雰囲気に包まれた。
「まっ待ちなさい!」
行動力が人一倍高い尊が廊下に跳び出し引きずる彼女に声をかける。すると彼女は歩を止めて声の主に視線を泳がす。
「貴女の名前は?」
そして彼女答えは意外な物だった。
「貴方と同じ名前、尊よ。」
名札を見ながら”有坂尊”はそう答え、そのまま階段を下りていった。段差を下るたびに何かの喘ぎ声が聞こえたが。
「尊かぁ・・・」
”桜坂尊”は満点の笑顔で笑って呟いた。
下校時間が訪れると生徒たちは蟻のように校庭に広がり、みなそれぞれの道へと帰って行く。
夕方に影と一緒に学生が帰る姿は今でも昔でも、そして異世界でも変わらなかった。
「藤崎はどうするの?」
「特急に乗って、ある程度迷惑のかからない場所へ行ってからアレに乗る。」
「そう。」
「有坂は?」
「私は電車に乗って路面電車に乗り帰る。」
「路面電車かぁ、現役なんだね。」
「まぁ、この世界の道が広いからかな?」
他愛のない話をしていると次は芸能界やファッションの話になるが、ここのファッションは特殊で省ごと(州みたいなもの)でファッションに隔たりがありここは色んなものが混じっている特殊な場所らしい。
「東だと今の日本より少し近未来風らしいよ。」
「変なの。」
尊はこの世界に来てから藤崎と話すきっかけができた、特に意識はしていないが元の世界でしかも同じ学校だったというのが大きいだろう。
彼女からすればいくら元世界の住民同士のクラスだと言われてもやはりこの世界の人間同様他人だろう。とはいえ常識や考え方はやはり同じ世界の人間の方が合う。そのうちクラスと会話もするだろうし、最後にはこの世界のクラスの人間とも交流を持つようになるだろう。
駅でわかれるとそれぞれの駅へむけて電車が発車する、尊は途中で乗り換え路面電車に乗車した。路面電車からこの世界の人々の生活をうかがうことができる、和服を日常的に着こなしている人が多数いることから自分も着てみようかと思った。何よりも女子高生の表現をするとカワイイと感じるような気がしたのだ。
自分の家である工場につくとなにやら叱咤と喧嘩の音が聞こえる、だがこれはその場にいても気分を害さない喧嘩で、ただの意見の食い違いからくる喧嘩だった。
「最低でも三十回は練習しろと言っただろ!!」
「三十回したに決まっているだろ!」
「三十回しても駄目なら出来るようになるまでやれ!材料はいくらでもあるんだ!!」
「最初っから言えばいいだろ!!」
「飯食わしてもらっている人間の態度か!?」
よくも毎日こんな喧嘩を続けられるものだなと尊は内心感心する。
ただいまだけを伝え、部屋に戻るとこの世界の予習を始める。数学や国語は難易度に差はあっても同じ内容のはずなので後回しにして地理や歴史の勉強を始める。
「広さは600万k㎡・・・日本の面積が37万km²ぐらいだから結構広いわね、面積の割には山が多くて人が住める平野が少なく日本と地理の状況は似ているわ。あとは・・・外洋開拓部隊?」
そこには日本っぽい大陸から少し離れた場所にバツ印を付けている、それは東北の方向で島々がいくつかあること南の方の大きな島にもいくつかあった。
外洋開拓団の主な仕事はそこの生命体の調査と元界に存在しない資源の調査だという、その資源とは術を展開すると電気のような何かが発生し、それを応用することによって様々な応用が期待されている。ただし電気と似た何かなので電気で動く機械には併用できない。
「・・・SFみたい。」
中には爆発するタイプから浮遊するタイプもある。
「・・・まるでニュースの記事をみているみたい。発見したのは・・・三年前に発表?発見じゃなく発表ってなっている。」
少し違和感を感じた、発表と発見は違う。何か隠しているような感じだった不思議な感覚に包まれた尊は優生が作ったパソコンを開きネットを開き検索を開始する。するとその件に関しては検閲をかけられており手に入る物はオカルト系のHPからだけだった。
政府はエイリアンの施設を発見してそこで転移の方法を発見!
そこには謎の古代文明が!?
船員のSさんは見た!謎の宇宙船が飛ぶ・・・
彼女はタイトルだけ見ると閉じてそのまま電源を落とした。
「この世界の人たちも胡散臭いけど、それ以上にこのHPは胡散臭い。」
でも何故だろうか、こんなしょうがない物をみて下らない物をみるとこう思う。日常が戻ったのだなと。
意味のない談笑、面白くないテレビ、暇つぶしのHPめぐり。
「日本にいたころと対して変わらないわね。」
外から聞こえる工場の作業音を聞きながら彼女はそう呟いた。
「いや~やはり駄目じゃったのう。」
九尾はケラケラと笑いながら帰ってきた藤崎に謝る。
「まぁ仕方のないことですね。」
「人界は規則規則とうるさいからの。」
彼女は酒を飲みそういう、だが藤崎からみれば彼女が自由すぎるのではないのかと思った。
「ふっじさきく~ん」
がばっと後ろから飛びついてきたのは一本だたらという妖怪で一目の女の子だ、ただ人外なだけに力はけた違いに強く本気を出せば自転車の車体を曲げることもできる。
「だたらっち、算盤できる?何か算盤が必修科目になっていた。」
「ん?みんなできるよ。」
「何じゃ元界人はそれすらできないのか?」
「計算機ばかりだし、意味がないって。」
「何で意味がないのじゃ、意味しかないぞ。」
九尾は呆れた顔をする、この世界の常識は知らないがあの九尾でさえ呆れると言うことはよほどなんだろうと尊のように内心で失礼なことを考えた。
「計算機を必要じゃないとは言わないが、何故必要ないと考えたのじゃ?暗算の時便利じゃろ?」
「自分が聞きたいぐらいです。」
すると九尾は算盤を取出し彼に渡す、そして九尾も算盤を出しにんまりと笑った。
「我は人界のことは知らぬが、算盤ならできるぞ。」
その時藤崎はパソコンを知らないおばあちゃんが自分の得意分野が出たとたんに得意げになるあのパターンを連想した。
「楽しそうじゃな学校。」
九尾は尻尾を振りながら大量印刷された教科書ではなく和書を取り出して問題を繰り出した。