今時の人
彼女は恐らく内心ではこう思ったであろう、何故私の家に見知らぬ男がいるのかと
優生は2m以上はあり、威圧感も半端ではない。状況を把握出来ずに混乱している彼女とは対照的に優生は冷静に分析を開始した。
彼は先程話していた人間の転移事件を思い出す、彼との会話から約三十分恐らく彼女は一時間前にここに転移したのだろう。
そして彼女は不幸なことに部屋ごと優生の自宅まで転移した、外へ行きその部屋のある場所まで行くと不自然に家の構造を無視した出っ張った部分があるだろう。
「あっあんた誰よ!?」
「それはこっちのセリフだ、ここ俺の家だ。」
後ろの壁を見せつけるように身体を半身の態勢にして年季の入った壁を見せつける、すると彼女は居心地が悪そうにそのまま失礼しましたすみませんとだけ枯れた声でそのまま部屋の中に戻ったがすぐにドアを開けて反論した。
「いやおかしいでしょ!?警察呼ぶわよ!!」
すると彼は携帯を取り出し彼女の手に乗せた。
「いや、こっちが呼ぶ立場だ。なんか窓あるみたいだから外見ろ外。」
優生は少し覗き込み窓の外を見ることを勧める、彼女は不本意ながら窓から顔を突き出すと見慣れた電柱や住宅街の光景ではなく目の前には港と巨大なクレーンが視界に入った。
「まぁ、色々言いたいことは分かるがそういうことだ一応110で警察は呼べるが・・・」
色々おかしい箇所はあるが今自分の置かれている状況を考えるとこっちが侵入者で相手はその被害者ということになる、まぁ外見の人相や体格差からしても犯人は相手側になるだろうが。
「まぁとりあえず聞け、警察の拘置所にぶち込まれることはないし有罪に問われることはない。今君のように急に知らない場所に突然現れる現象が起きてニュースになっている。テレビ見るか?」
実はこの転移事件は一大ニュースとなっており優生が帰る途中でも号外が配られており携帯電話のニュース欄にもそれが載っていた。
優生は今この時点では号外を配る様子や携帯のニュースしか見ていないがこれほど大きな事件が報道されないわけではないのでそれを勧めた。
家の構造としては彼女にとって珍しい昭和中期のような構造で洋風の区画は応接室しかないと優生は説明する。テレビはブラウン管テレビで液晶に慣れ親しんできた彼女にとっては古臭いイメージを感じる、そしてそこから流れた物は優生が先ほど言っていた内容だった。彼女にとって見慣れないアナウンサーが淡々と事件の内容を伝える、自衛隊が召喚されたことから一般人まで。
そして異世界の知識のおさらいを映像と音声と共に流した。最後にKHKからお送りしましたと締めくくり警察の放送に入る、ここからは異世界人との接触時における解説、ようは勝手な行動をせずに警察に通報し適切に対処せよとの内容で内容は先と同じ物だ。すると彼は彼女の同意もなしにテレビの電源を落とす。
「何のドッキリ?」
流石にここまでくると彼女は信じないようになった、彼女の頭の中は既に大がかりなドッキリであると結論をつけていた。
無理もないと優生も内心で思った、もし逆の立場ならば彼も同じ結論になるだろう。
「まぁ自分の目で確かめてみろ、特高・・・君たちで言う公安の使いっ端がこっちに向かっている。」
「どういう意味?」
「公安が君を保護しにくるんだ。」
「そもそも公安って何?」
彼は信じられないと顔をしたが彼は異世界の知識を振り絞るとある答えにたどり着くそれは日本の教育制度「ゆとり教育」と呼ばれる学力低下を狙っているとにしか思えない制度を執行されていた。その教育制度はアメリカの教育制度を参考にしたのだが、アメリカはその教育制度を導入した後深刻な学力や良識の欠如が問題になった。優生も土日を休日とし勉強の範囲を大幅に下げ中学生になって初めて正・負の数の加法・減法を教えるという暴挙に近い内容を聞いたときは思わず憤慨したものだ。
『もしかするとこの娘もその類。』
外見は中学生か高校生、小学生ではあるまいしその位の歳になれば公安と警察の違いは分からぬとも(普通なら)存在は知っているはず。優生は仕方なしに何も知らない小学生に説明するように説明することにした。
「警察の一種だ特別高等警察略して特高、そして君たちの世界では公安警察って名前だ。」
「逮捕じゃないよね。」
彼女は少し不安そうに訊ねる。
「大丈夫だ、逮捕じゃなく保護だ背広姿の間者のような輩が来るわけじゃない。」
「か、かんじゃ?」
「いや、気にするな。ちょっと待ってろ。」
彼は電話を取り出し警察に電話を掛ける、その際必ず警察官の服を着るように強調した。日本の警官とは服の構造は違うがこの際背広を着た男が来るよりしっかりと制服を着た者が迎えに来る方が安心感はあるだろう。
「転移者の特徴を。」
「中学生か高校生だ、犯罪者じゃない。」
彼の頭の中にある程度今回におけるケースをどのように対処するかを警察の立場に立ったつもりで考えた。もし転移者の中に犯罪者も混じっている可能性もある為予め犯罪者に見えるかの質問をしているだろう。もし犯罪者ならば警察関係の者がいきなりやって来ると何かと問題がある。
「分かりました、しかし到着に時間がかかるかもしれません。今回線がパンクするほどの状態で車両どころか人員も足りない状態です、最悪背広を着た特高か事務係の者が来るかもしれません。」
「それは止めてくれ。」
「緊急事態なので今回は特別扱いはできません、ただでさえ非番の警官を呼び寄せている状態です。」
電話側の悲痛な叫びを聞き数秒の間を置くとそれを了承した。
「ロクな対策を取らない元世界と違って最悪の場合に備えてもこの様か。」
人差し指と親指で眉間をグイグイと押し避けようのない運任せに身を任せた。
「さて、お前の名前は?」
くるりと反転し優生は目の前の異世界人に自己紹介を促す。彼女は彼女で慣れてきたのか先程と比べ焦りが薄れていた。
「あんたから言いなさいよ。」
何と気の強いお嬢ちゃんだ、早く特高に迎えに来てほしいなと声に出さずに呟き自己紹介を済ませる。
「俺は白場優生だ、ここの工場を経営している。」
「こうば・・・ってことは何か作っているの?」
「何でも作れるものなら基盤から自動車まで、特注品の物を主に扱っている。ただ普段は修理ばかりしている。」
「それじゃあ、私の部屋に電気流してスマフォ充電したい。」
「この部屋回収されるから多分意味ないぞ。」
「警察に?」
「それもあるがまた別の所に・・・と言うよりお前適応能力早くてすごいな、ある意味憧れるよ。」
淡々と会話をしている間に彼は彼女の適応能力の速さに驚いていた、またそれを表すかのようにタブレット型の携帯をいじり始めた。
「ところでお前の名前は?」
「私の名前は有坂 尊。」
「有坂、携帯の充電は大丈夫なのか?」
すると彼女は白いスティックのような棒を見せた。
「モバイル充電器があるから。」
「充電式の電池を充電式で充電するのか。無駄に思えるが実用性があるし量産によるコストカットもできるな。水素で発電する型はやはり水は出るし爆発の可能性もあるから結局採用されなかったか。」
「ゴメン何言っているのか分からない。」
有坂は優生の分析をそう切り捨てた。するとバタタタとヘリコプターの爆音がどこからか鳴り響き家上空を通過した。その後に有坂にとって聞きなれない不思議な爆音が聞こえた。
不意に窓の方に目を向けるとそこには白い機体に青い線とANAの文字が貼りつけられたヘリコプターが別の白い機体に追いかけられていた。その機体はヘリコプターのように大きなブレードを背中につけており申し分のない翼を備えて後ろには推進用らしきのプロペラが装備されていた。一言で言い表すのならばヘリコプターと飛行機を無理やり合体させた、そんなヘンテコな機体であった。
「ヘリコプターだ、形からしてお前らの世界の物だな。」
「本当に異世界なんだ・・・」
全く見たことのないあのヘンテコなヘリコプターを見て改めて実感した、今でも半信半疑だがあのヘリコプターモドキを見れば真実味を感じる。
ここの世界の人はヘリコプターの作れないのだろうかと思った矢先にANAのヘリコプターとよく似た形でしかも青色の迷彩色に塗装されたヘリコプターがヘリコプターモドキと交代し、ANAのヘリコプターをどこかへ誘導し始めた。
「ここにもヘリコプターあるじゃない。」
「ん?ああ今のは軍隊のヘリだ。さっきまで追っかけまわしていたのは警察のオートジャイロだよ。主に空中から違反者を追いかけたりするのに使っている。最近じゃあラジコンを使って追いかけるようになってきているが田舎だと、羽族にカメラ背負わせて解決している。」
「オートジャイロ?何それ?それにうぞくって?」
「ヘリコプターに似た乗り物だよ、もう君たちの世界だと廃れただろうが。あと羽族は・・・そのうち分かる。」
するとジリリとベルがなり彼らの会話を遮った。警察かと言って玄関の方へ怠そうにドンドンと体重に比例して重く鈍い足音が廊下から響いた。
ガチャリとドアが開く音がすると複数の足音が有坂の所に向かって大きくなってくるそして自分の部屋とは違い赤茶色の分厚いドアが開いた。
「警察の者だ、君を保護しにきた君の生命と安全そして住居と食料の提供をする。」
元世界の警察と違い敬語を使わないところから警察に対し有坂は眉を少し顰めるが警官が来たことに関して少しばかり安堵を覚えた。
軽く優生は手を振り部屋はちゃんと置いておくとだけ言い残して警察たちよりも早く外に出た。複数の警官と外に出ると階段とエレベーターがあり警官は階段を伝って降りて行った。その階段は所々塗装が剥げており頼りないようにみえたがガッシリとした踏み場がその懸念を拭った。
下にはアイドリング中のバスが停車して中には有坂と同じように召喚されたであろう人物が乗せられていた。
自然に空いていた席に座ると不意に窓側に座っていた人物に声を掛けられびくっと反応し振り向いた。
「やぁ君は学生さんかな?」
椅子に座っていた人物はスーツを着た老人だった。彼は茶色のフレームのついた眼鏡を眼鏡拭きで拭き取り掛け直したが目は線のように細かった。
「あ、はい高校生です。」
「そうか、私の孫ぐらいだね。」
「はい・・・・。」
「ここの警察は少し乱暴だがマジメでいい人たちだよ。何よりも使命感にあふれている。」
そう聞いてふと有坂はバスで見張っている警官を見たが木製の警棒と分厚いベルトを着けており何か威圧的な物を兼ね備えているように見え老人の言ういい人には見えなかった。
すると別の席では舌打ちしてブツブツ文句だけ言っている金髪の青年が急に立ち上がり警官に文句を怒鳴り散らした。今からどこへ連れて行く、今から家に帰せと何も彼だけではなくここにいる全員が思っていることを代弁するようだった。
だが警官は腰に携えている警棒を素早く振り彼の顔面に寸止めをした。
「暴れるようだったら容赦なく犯罪者と同じ収容所にぶち込むぞ。」
警官から見える眼光からには優しさの微塵も感じられなかった。すると彼は弱々しく警察がそんなことをしても良いのかよと反論するがそれに対して警官は言うことを聞かないバカに答える義務はないと突き放すように言った。
すると彼は背中を丸めてそのまま席に着く。
車内の空気が鉛のように重くなりエンジンの音にしか聞こえなくなったところ彼女は外の光景に目を移した。外には和服から洋服まで様々な服を着た人々が歩き回り不思議な建物がまるで林か森の樹木のように立ち並んでいた。
テーマパークに行った時のような作り物の町に対する違和感はなくむしろ本当に国外へ旅行した時のような雰囲気に包まれた。だがその光景もだんだん薄れてきて気づけば田んぼと畑だけになり広い空地にぽつんと白い何かの建物が寂しく建っていた。
「着いたぞ。」
そこには門番が映画に出てくるような銃と陣笠のようなヘルメットを被っていた。そのヘルメットには自分たちの知る警察のマークが記されていたが木製の柄が目立つ銃を持っている点を考えると異質さを感じざえなかった。
バスから降ろされ案内された場所はどこかの公民館の講堂のような何もない場所で、そこにパイプいすが綺麗に並べられていた。
バスに乗った時のように自然に席に着き全員が座り終えると講堂からスーツを着た男性が表れるとマイクを軽く叩き電源の確認をだけをすると説明に移る。
「まずここで君たちがどんな状況に陥っているのか説明する、君たちは神隠しのような現象によってここに転移した。つまり別の世界に迷い込んだことになる。」
すると先程警官に席に着席を強要された金髪の青年が立ち上がり質問をする。
「これはドッキリとかじゃなく本当に起きたことですよね?」
バスの中での発言とは対照的に丁寧にそして敬語で質問をした彼に対して意外だと有坂は思った。
「ええ、信じられないでしょうが本当です現に君たちはこの世界の警官にこうしてこの施設に集められました。」
「私たち以外にもその転移ですか?その現象に巻き込まれた人はいるのですか?」
今度は若い20代のサラリーマンが質問を繰り出した、それに対してはいと即答に近い形で返答をした。
「皆さんはこれからこの施設で生活をしてもらいこの皇国で自立した生活を営んでもらいます。その為のプログラムがあります。」
「プログラムとは具体的に言うと?」
「極端な言い方をすれば紙幣価値や日用品の購入の仕方、また自動車の運転の仕方、戸籍登録他にもここで自立した生活を過ごしてもらうために様々なことをここで学んでもらいます。」
「その言い方ですと帰る方法はないのですか?」
一番恐れて尚且つ聞きたいそして場合によっては聞きたくない内容をそのサラリーマンが質問した。
すると彼は台本を読むように答える。
「ええ、帰れません。私たちの先祖は幕末の明治維新の中に紛れてここにたどり着きました。それ以降私たちは百年以上研究をしましたが結局理論や仮説だけが乱立され転移の再現どころか原理すら確立されておりません。」
それを聞くと三種類の人間に分かれた一つは泣く者一つは呆然とする者一つは無表情でそれを受け止める者。
有坂尊は無表情の部類に入っていた、以外にも家族のことよりこの後の生活を気にしていた。学校の友人に分かれる前に連絡ぐらいしておけばよかった等その程度しか考えていなかった。ただ心の頃と言えば何故家族に対してそこまで考えられないのかということだった。
もしかして余りにも大きな問題に直面し逆に吹っ切れたのか、人間はそのように極端に度が過ぎたことを体験すると何も感じないようになると有坂はテレビで聞いたことがあった。
「以上で説明を終わります、二十分後に部屋を案内する者が来ます。敷地内でしたら外の出歩きも許されますのでバスや車の邪魔にならない程度に歩いてください。」
それを合図に皆席を立ちあがり外に出る者席に座りっぱなしの者、そして壁や物に当たり警官に咎められる者と様々だった。
「あ、有坂さん?」
不意に声を掛けられ声のした方へ目をむけるとそこにはブレザーを着た男子生徒が真後ろに座っていた。
「私服だったから気付かなかったよ。君もその転移だっけ?それに巻き込まれたんだね。」
そこには同じクラスの藤崎 昭がいた、彼は漫画部に所属しておりあまり話しかけたこともなくいわゆるオタクなので知っている程度であった。
「藤崎君も?」
「うん、自転車で漫画を買いに行っている途中気付いたら・・・」
「自転車は没収されたの?」
「いや、後でこっちに送るって言っていた。あとスマフォとか余り珍しい機械とか見せない方が良いよ。ipodシリーズはもう回収しきったから回収されないらしいけどアンドロイドは回収の対象にされるみたい。」
「何で?」
「機械を解析するんだって、その代わりにガラケーのような携帯とバイクぐらいの物を渡してくれるみたい。」
「ガラケーはあれだけど・・・バイクはうれしいかも。」
「でも一番安いのかもしれないよ。」
「まぁいいや、どっちにしろ暮らせるのでしょ?」
「意外に冷静なんだね自分はちょっと家が心配・・・」
「まぁそれが普通じゃない?」
「そうかな?有坂はどんな感じで転移したの?」
「私は部屋ごとここに転移したわ。私物とかも結構あるし白場さんて人に部屋丸ごとは無理でもタンスとか運んでもらおう。」
「それ結構重労働だと思うよ。」
「その人本人がやる訳じゃないわよ、どっかの業者に頼むでしょ第一これぐらい国がお金を払ってくれるでしょ。」
「そうかな?これほど混乱しているからなるべくお金を節約しようと思うし、僕らの為のプログラムや食糧費その他の生活費だけでも結構な額になると思うよ。」
「ある程度対策は練っているだろうしそれぐらいはできるでしょ?」
「そうかなぁ・・・自分がここに送られたときも本当にこんなことが起きるなんてとか言っていたよ。」
「でも私たちのいた日本よりまともな対策は練っているんじゃないのあのお粗末なJアラートに比べて。」
「有坂さんもJアラートとか知っているんだ。」
「ニュースで言っていたでしょ。」
「あ~そうか。」
オタクは変な所で知識があるんだからと思いながら周りを見渡すと全員がこの講堂に集合するようにアナウンスが流れた。そして家族を除き男女別に部屋を振り分けられそれぞれの区画に入ることを言われた。その為にまず年齢職業等のデータを登録するところから始まった。そしてこの世界における彼らの住家が決まったのである。
サブタイトル変更しました。