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本当の世界  作者: ロンパン
全ての始まり
1/9

召喚されし人々

 無機質な壁にくすんだクリーム色の床、無機質な灰色の机と乱雑のように見えて整頓されている書類の山が築かれていた。


 事務机の椅子で眠りこけている者は電子アラーム音と共に起き上がる。


 「行くか・・・。」


 彼は立ち上がりオリーブドラブの分厚いジャンバーを着る、最近は冬も過ぎて少し春が近づきつつあるが彼はある理由からして夏でも厚着している。ただ流石に夏には生地を薄い物にしていた。


 彼の身長は2mぐらいあり普段工場こうばで力仕事を行っているおかげでもやしのように細長くは見えなかった。

 目つきは少し鋭く髪の毛は少し茶髪じみている、分厚くはないが大きな丸眼鏡を掛けており四角い眼鏡や薄いフレームが流行りはじめている今では前時代の人間にも見えた。


 彼の名前は白場しらば 優生ゆうせい普段は工場こうばで修理工または特注品の部品製作を主な仕事としている。最近は演算装置(コンピュータ)のプログラムの組み込みも行っておりソフト開発もつい三十年ほど前に着手した。


 工場の周りは広くてそこそこ区画整備はされているがどこか統一感が無い。隣にはボロボロの木造建築とは対照的にその隣にはビルが建っている。


 そこに都心部へつながる高架橋があり電車を待つ、客は背広から和服を着た者まで様々な服を着た人たちが電車に乗っていた。中には獣の耳や尻尾をつけている者もいる。


 彼らは妖怪の一種だがカテゴリーには有機生命体として分類されており、都心部に暮らしている(例外もある)者は多少霊力や身体能力が高いだけでやっていることは人間と変わりはない。


 その時優生はたまたま視線に入った新聞のタイトルに目を凝らした。


 ”情報庁は必要か?”


 警察(旧名奉行所)組織と対立している諜報組織の情報庁。


 主に地下犯罪組織の撲滅の為に設立されたが特別高等警察と仕事がかぶることがあり創立の必要性に疑問視されていた。


 だが彼らの情報庁は何か別の物を調査しているように感じたそれは優生の勤め先でもある情報省だ。


 正確に言えば彼らとパイプがあるだけで情報省の人間ではないが関係ないことはない。


 情報省と情報庁は名前こそは似ているが全く違う目的で創立された。


 情報省は元の世界へ戻るために設立された転移に関する研究機関に近い組織である。当初は全く研究成果はなかったが年を重ねるごとに情報は溜まり帰れる希望は大きくなる。だがその穴は針の穴から少し大きな針の穴になったに過ぎず帰るにはまだ数世代必要と推測された。無論今の世代に元の世界に帰る事を考えている者などいないだろう、どちらかと言えば科学的な究明に近くなっている。


 だが最近情報庁が設立してから遠まわしな妨害が始まった。


 国会議員を使い転移研究の必要性を迫られるようになってきた、それは情報庁の関わりがあるのではないのかと特高は今捜査を行っているが尻尾を出しておらず。


 また他の研究と比べ高い費用を使う情報省の転移研究に関して一部から敬遠されており、一部の民衆にも別の研究に力を入れるべきだと声がある。


 別にその研究を諦めても良いのではと思うのだがそれと並行して科学省と呼ばれ、同じく研究を行っている組織がある。


 もし転移の研究を捨てることになると完全に科学省に飲み込まれることを意味した。


 科学省は本来情報省の一部機関の科学部として創設されていたが知らぬ間に省まで上り詰め情報省は飲み込まれようとしている。


 優生としては科学省なしでは自前の技術もない(そもそも情報省の技術なのだが)それ以前に科学省なしでは成り立たないのだから、飲み込まれても構わないと思っている。しかし転移の為の情報収集やその管理に口出しされ、それによる混乱を恐れているらしい。


 また技術向上を行わなくとも元世界の漂流物を基に技術向上を行えるのでそこまで必要ないと一部の科学省を敵視している知識人はいるが、実際問題模倣するにしてもある程度の基礎技術がない限り模倣すらできない為やはり統合化は必要であると議会は判断している、加えて科学省の能率化を含めても統合は自然の流れらしい。


 目的の駅に着くと通勤ラッシュで沢山の人が行き来きしている、元世界の東京と違いアメリカや外国から物資や機材の大量輸入に頼れないこの世界ではすべて自分たちで用意するしかない。


 となれば必然的にソフト面を最大限に活用する、結果元世界の新宿駅や品川駅以上の巨大な駅ターミナルを建設し通勤ラッシュでも東京のようにギュウギュウに詰合せることはない。


 しかし人が多いことには変わりなくスケジュールは元世界と同じく過密している。東京圏の三千万都市程ではないがそこらの鉄道会社より負担があり、そこに勤めている駅員は忙しさでは遅れをとらないと自負している。


 そのターミナル駅の皇都駅から乗り換えで時代遅れに見える路面電車にのる。


 その路面電車の外見はまるで屋台のおでんのような路面電車をしているが、それであって少し京都の店舗のような上品な雰囲気を纏っていた。


 四十年前には洋風の路面電車と今の和風の路面電車が走っているが最近になってから曲線とガラスが目立つ近未来的な路面電車が生産されてきている。

挿絵(By みてみん)

 電車に乗ると景色が動き出す、無機質なビルとアスファルトの道を通り抜けていると途中から住宅地の間を抜けるように線路が配置されていた。


 ガタンゴトンと車体を揺らしながら商店街に侵入すると商店街内に遮断機が降り電車が通り抜ける。窓の外で人で混雑している様子を見ていると彼は車内とこの空間がまるで別世界にいるような錯覚を感じる。


 また景色が変わると今度は川が見え、遠くに皇都のビル群がぼんやりと見えた。

そしてそのビル群とは対照的に近くに見える物は集合住宅や一軒家が目立つ家々が立ち並んででいた。しばらくもしないうちに目的地に着き降りる準備をする。


 そこの駅は最近改装されたばかりで綺麗なコンクリートの床と壁があった、足を踏み地面を汚したくない気持ちを持ちながら駅へ降りる。


 路面電車の駅なので小さく改札口もない、あるものは公衆電話とICカードを利用した電子マネーのチャージャー機のみで少し寂しさを感じる。


 路面電車には中で直接小銭で支払いもできるが電子マネーで支払いもできる、しかし落した時が恐いと言う人もいるので更新が必要な定期券用のデータが別に作られもし落としても悪用されてもなるべく被害が被らないようにされている。ただ大抵の場合落とした後すぐにカード会社に連絡して使えないようにする場合が殆どであった。


 川辺の近くもあり騒がしかった都心部と違いのんびりと川沿いを歩いて行く。その川沿いには桜の木々が規則正しく並べられており春になるとこの辺りは桃色に染まるように計算されていた。その木々から生えている芽を見ながら歩いていると白いライトバンの中でタバコを吸って待機しているスーツ姿の男性がいた。


 彼はこちら側に目を向けると煙草を消して外に出た。


 「こんにちは。」


 「ああ、こんにちは今日の仕事は?最近またOSのシェア戦争が始まったそうだな。全くブラウザの解析だけでも大変だというのに・・・」


 「ええ、ただそこから得られるコードは重要ですよ。」


 彼は封筒を渡すと遠くで番車ばんしゃ(パトカー)がサイレンを鳴らしながらどこかへ走っていく姿を見て何か事件かとぼやく。


 すると彼は良くわかりましたねと言いタブレット型の情報端末を彼に見せた。


 「情報省もこんな高級な玩具を使うようになったか。」


 数年前元世界ではスマートフォンと呼称されている新しいカテゴリーの情報端末が開発されていた、現段階では元世界程普及はしていないが、そのうち普及すると考えられている。


 「でも便利なことには変わりありません。」


 「同感。」


 彼はニコリと笑いある画像を見せる、そこには軍隊の姿が写っており完全武装の状態で道路封鎖を行っていた。腰をかがめてその画像を確認すると彼の目つきが細くなる。


挿絵(By みてみん)


 「これはいつ撮った?」


 「三十分前です。」


 すると普段は細い目を大きく開き普段表情のない彼から驚きの表情が湧き出た。


 「ついさっきじゃないか。何があった?」


 「漂流物です。」


 「漂流物が原因で事故が起きたことはあるが軍隊が出動する事態にはならなかったぞ。」


 「・・・ええいつもの漂流物ならばそうでしたが、今回は異常事態でした。」


 「勿体ぶらずに具体的に言うと?」


 「今回は人間が漂流物として転移してきました。」


 「それは驚きだ・・・。」


 今まで機械や食べ物といったものは流れ着いたことはあるが生き物、ましては人間が漂流したことは100年前の転移第一世代を除き起きたことはなかった。


 「加えて武装していました。」


 「穏やかじゃないな。」


 「所属は陸上自衛隊と米海兵隊の一部の部隊です、しかも今回は戦車という今まで回収されたことのない車種が回収できましたので大本営だいほんえいの制服組の皆さんは大喜びになるかと。」


 「仕事が増えそうだな。」


 優生はタブレットに映っている戦車を含めた車両を見つめる。


 「これは90式戦車か?」


 彼も資料を見たことがある、元世界つまり先祖たちの出身国でもあり故郷「日本」の正規軍の戦闘車両。


 問題は彼らは正規軍ではなく正規軍に匹敵する戦闘能力を有する特殊公務員「自衛隊」《じえいたい》。


 今頃日本は大騒ぎだろう、資料によればナイフ一本なくしただけで上から下まで大騒ぎするそんな組織で完全武装の人員が消えたのだから。優生は日本の幕僚や与党の代表ことを思うと気の毒に思う。


 「ええ、本当でしたら10式が欲しかったのですが。」


 「それより、人間の転移はこれだけか?しかも日本人以外で転移だなんて。」


 「いえ、他にも一般人から犯罪者まで幅広く。」


 「警察も忙しくなりそうだ。」


 彼の携帯に電話が鳴ると彼は手慣れた手つきで電話に出て何かの連絡をする、軽く別れの挨拶だけ済ませ一人だけ川辺に残された。


 彼も彼の仕事がある、期限も大抵は余裕のあるものだが仕事は早めに終わらせることが彼のやり方だ。

一見雑な性格で面倒くさがりだがやるべきことはしっかりとしている。肺が膨張したと感じるほど鼻で空気を送り込みその場を後にした。


 先程と同じルートで工場へ帰り商店街都心部そして自分の工場へ足を進めた。少し塗料のはがれたトタンが特徴の工場に視線を向けると近いうちに塗り替えようと頭のスケジュールに書き記し階段を上る。

 屋上へ上がり貨物を下すスペースに掘っ立て小屋のように屋上家屋が作られていた、本来自分の家なのだが実質事務室に隣接している部屋が自分の寝床になっている。


 「二週間ぶりの家か・・・」


 仕事につくまえにまず簡単な掃除をしてからすることにする、実際これぐらいの汚れそのものは気にならないが一応しないとそこから総崩れに堕落してしまいそうな為無理してでも些細なことは行うことにしている。


 「さて、掃除でもするか。」


 掃除機を取り出そうとして廊下を歩いていると質感のない薄い色の木製のドアに目が行く、そのドアだけ目新しく周りの古びた色と違い明らかに浮いていた。


 「・・・こんな部屋あったか?」


 身構えてドアを開けようとすると逆に向こうから自動扉のように開くそして。


 「ちょっと母さん!携帯充電できないんだけど!」


 それが彼女と初めての接触だった。

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