知性ある将軍
「増え鬼・・・だと?」
怒りでワナワナと身体を震わせ、目を見開き、今にも跳びかかろうとするように楠城が訊き返す。見れば拳は、固く固く握られている。ぞっとするぐらいの殺気がその目には込められていた。
「うん、そうだよ。増え鬼。鬼は減らしても減らしてもまた増やすことができるんだ。新たに殺すことによってね」
「本当に外道ね。あなたそこから降りてきなさい」
使い捨てのように鬼や人を扱い、弄ぶその天の声に竹永も怒りの色を強めている。声こそは張り上げていないが、静かな闘志がそこには満ちていた。
「聖人ぶったことを言うなよ。君たちも、君のお仲間も同罪じゃないか」
「どういうことよ」
意味ありげにその姿を現わさぬ声の主が放った言葉に竹永は喰らい付く。その次の言葉は、楓には予想できた。おそらく、自分に関することだと。
「だってそこの男の子はさっき自分から鬼を滅却したんだよ。むごいよね~何も分からない動く屍に二回目の死を与えるなんて」
「黙りなさい」
意外にも、その言葉に反論をしたのは冷河だった。合った時のもの言いからすると、あっちの言うことに便乗してこっちに攻撃してきそうだったが、なぜか自分を援護してきた。これには、向こうもかなり意外に思ったようだ。案の定そこを追及してくる。
「君はそこの子を恨んでいるんじゃ無かったのかな?」
「確かにそうね。でもこれに至ってはやろうと思ってしたことではないわ。私が怒っているのは真相を知ったら人が傷つくようなことを分かりながらしたからよ」
「ふーん複雑なんだね」
「ん?あなたの理解力が足らないだけじゃなくって?」
冷河もこのげえむの残忍さに怒りを浮かべているのか天の声に毒づいている。ただ、唯一理不尽な点を上げると、さっき楓に向けていた怒りまでもまとめてあいつに向けているところだ。
「まあいいや、話を聞いているのは君たちだけじゃないんだ。ルール説明の続きにいくよ。そろそろ鬼にも知力を付けたいと思うんだ」
「知力・・・だって?」
不味いな、そう秀也は直感した。今のところ鬼から逃げ切ったり、自滅を誘うことができたのは全て、鬼に知性というものが存在せず、勝手に建物のルールにほいほい引っかかってくれたからだ。
それをなくすための統率者が現れたとしよう。すると、一気に生存率は下がるだろう。ちゃんとした集団戦術だって入れてくるかもしれないし、それぞれが連絡を取り合ったりしたら厄介すぎる。
「そろそろみんな分かってるかもだけど、実は鬼は動くものを追いかけて撃つ、または爆撃するという性能しかなくてね、都合のいい建物におびき寄せると簡単に消えちゃうんだ。そこで、新たに上級追跡者、つまりはリーダー格の骸骨を出して、それの言葉に従う性能を付けさせてもらうよ。でも可哀そうだから今すぐとは言わない。十二時になったら解き放つ。そして、サービスをさらに付けちゃうよ」
後三時間の間は逃げられる、ということだ。その間に、作戦を練ったり仲間を増やしておいた方がいいだろうと考える。それよりも、今聞いておくべきことはサービスについてだ。
「今から始まる『みにげえむ』に君たちの代表が勝利したら、解放するのは午前七時にしよう。『みにげえむ』の内容は・・・」
ここに来てまたげえむかよ、と秀也はため息を吐きそうになる。ミニ、とついているぐらいだから簡単なげえむであることを祈る。
「参加する人数は五人。ルールは、始まってから説明するよ。でもって種目は、コイントスだ!!」
あまりのシンプルなげえむに呆然とする。それで勝ち負けを決めるなんてほとんど運じゃないか。
「参加する五人は君たちだよ!」
一本、二本、三本、四本といたるところに光の柱が現れる。そうして、最後の一本は・・・
「えっ・・・」
「マジ?」
「こいつが?」
最後の一本は秀也を射していた。
続きます