Corruption angel ~ルシフェル~
「堕天使が・・・いる?」
俺は信じられずに、オウム返しに聞き返した。
「まぁ、本物じゃない。神に反逆するっていう意味で名付けられたコンピュータウィルスなんだ」
「・・・?」
「ゼウスは全部のネットワークを統括している。裏を返せば、こいつを自分のものにしちまえば、全世界のネットワークはそいつの物って訳だ」
「あぁ・・・そうだよな・・・」
どんな物でも、そいつの大本を占めちまえばおしまいだ。
「んで、ゼウスをハッキングするために作られたウィルスが、『ルシフェル』だ」
「なるほどな・・・でもよ、それと俺らと何の関係があるんだ?ゼウスほどのコンピュータだ。そんなウィルスくらい迎撃できるだろ?」
「それが、無理だったから俺らがこうしてここにいる」
「?」
全く話が理解できない。
「どんなコンピュータワクチンも、そいつを完全に消すことはできなかった」
「・・・なぜだ?」
「・・・『ルシフェル』はな、学習すんだよ」
「学習?」
「あぁ。たとえば、ある一定のコンピュータワクチンを受けた『ルシフェル』がいるとする。その個体、つまり、『ルシフェル』の一部分はそのワクチンを受けて死ぬが、その周りの『ルシフェル』がその残骸データを吸収する。んでもって、そのワクチンを分解し、そのワクチンの抗体を作る。こうして、そのワクチンが効かない『ルシフェル』ができるわけだ」
「つまり・・・その『ルシフェル』の切れ端みたいなやつがワクチンでやられても、大本には届かないし、その大本はやられた切れ端を吸ってどんどん強くなるって訳だ」
「理解が早くて助かる」
一瞬だけドヤ顔をして、話の続きを聞く。
「まぁ、その性質のおかげで、これまでのコンピュータワクチンは全部だめになった」
「・・・」
「だが、科学技術の発達で、『ルシフェル』に対して有効打を与えられるようになった」
「それが、『人間のデータ化』?」
「そういうことだ」
「でも、何で人間が『ルシフェル』に有効打を与えられるんだ?」
人間をデータ化するのと、『ルシフェル』とどんな関係があるんだ?
「あぁ、そいつはな・・・」
三鷹がそう言いかけた瞬間
「クエェェェエエエエ!!」
と、奇声が響いた。
「!!?」
驚いて天を仰ぐ。
・・・空には、鳥の『ような』生物が飛んでいた。
しかし、ここは電脳世界。鳥など飛んでいるはずがない。
それに・・・
「・・・・・・でかい・・・」
巨大過ぎるのだ。
翼を広げた姿は、周りの大木よりかなり大きい。
そんな馬鹿でかい鳥が、五羽ほどの群れを作って飛んでいるのだ。
「見えてるか?あれが、『ルシフェル』だ」
俺が声を出せないでいると、枝の上で三鷹が、呟くように言った。