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第75話 現実逃避と現実と


『それは災難だったな』

『いや、災難ってレベルじゃないだろ?』

『当人にしてみればそうかも知れんが、周りからしてみれば楽しくて仕方が無いがな』

 パソコンの画面上で向き合っている響夜と表示されたキャラクターが、快活に笑ってみせる。

 ここ最近、非現実的な現実の慌しさからか、あまりプレイすることがなかったのだが、本日は夜も更けてきたにも拘らず、七瀬優は画面にかじりついていた。

 ……否。慌しかった、というのは詭弁だろう。

 理由はどうであれ、この『無幻学園』というゲームが、今の非現実的な日常をもたらしたのには変わりは無い。いくら、栓が無い事だと言っても、気にするなという方が困難だ。

 最初は男でいられることに喜びを見出せてはいたが、女としての現実が続けば続くほど、それすら疑問を抱いてしまっていく自分自身の心理に対しての恐怖もあった。

 オンラインゲーム自体、一種の現実逃避するための行為だとしても、その逃避行為を許さず、逆に現実を見せ付けられる羽目になるのでは、滑稽を通り超えて酷刑というものだ。

 しかし、今回ばかりは優は現実逃避できている自信がある。

 なぜなら、つい数時間前、自分にとっては最大の混乱と困惑と、ついでに言えば貞操の危機すらも兼ね備えた現実での問題が発生したのだから。

『それは今後が楽しみだな』

『簡単に言ってくれるな。他人事のように』

『他人事だからな』

 ネット上の付き合いだからというのも手伝って、仲良くなれば、それこそ親友同士のような会話が出来るのがいい。

 しかし、それは現実逃避であって、逃避している限り問題が解決するわけはないのだが。

「そもそも、告白されたわけでもないからな……」

 思考がズレ始めてしまっているが、当の優は至って真面目に悶々と苦悩しつつ、打ち終えて、ため息交じりに独白する。

 現実逃避していたゲーム内でさえも、考える時間を与えられると、ついつい考え込んでしまう。元の木阿弥もいいところだ。


 三人が教室に駆け込んだ後。

 触れていた唇が離れると同時に、気づけばいつの間にか、優は翔の頬を引っ叩いていた。

 眼前に映し出された、夕日が差し込む放課後の教室でのキスシーンを目撃してしまって、困惑半分興奮半分の三人も、まるで冷や水をかけられたかのように静まり返っている。

 しかし、当の本人である優ですら、この状況に困惑していた。

 一瞬だけ触れた唇に、僅かに熱が篭る。

 抵抗すら出来ずに許してしまった口付けが、現実だったという証拠だ。

 そして、一瞬自分の心を支配した、制御不能の感情に突き動かされた結果。

 動揺に瞳を揺らしながら、振り切った右手を下ろす。そのまま、所在無さげに宙を彷徨い、制服の胸元を掴んだ。

(俺が叩いた……?どうして?)

 優が、信じられないものでも見るかのように、翔と自分の右手を交互に視線を泳がせる。

 そして、

「……優さん」

「……っ!」

 翔の一言に弾かれるように、入り口で呆然としている三人をかき分けて教室を後にしていた……。


『何が気に入らないんだよ?別に嫌いじゃないんだろ?』

「え?」

 相手が書き込みを行ったことを知らせる音に、現実に引き戻された優は、思わず口で答える。

「嫌い、ではないけど……」

 返事をキーボードに打ち込む事を忘れて、優はパソコンの画面に向かって声に出す。

(男なんだぞ。俺は)

 海でも一度考えたことだ。

 男としての俺の考え方と、女としての生きる現実の世界との相違。

 今の俺は、女で。しかし、男でもある。

 けど、それは自分の中での話であって、この世界に存在しているのは、女としての自分。

 そんな堂々巡りの思考の海に漂い始めると、他の畑から悩みの種がにょきにょきと芽を出すものだ。それは優も例外ではない。

 すでに優はネットゲームをしていたことを忘れて、一人、部屋で堂々巡りな思考に耽っている。

『とはいえ、知り合いにキスシーンを目撃された以上、あれこれ悩むよりも前に、覚悟を決めないとダメだとは思うが』

 数十分放置されたことで、優のキャラクターにAFK状態を報せるアイコンが頭上に表示されてたことを確認して、優が見当違いな悩みに頭を痛めていることを察したのだろう。

『元来、相手の気持ちなんてものは不明瞭なものであって、知るためにはそれこそ、その本人にでもならない限り不可能であってだな―』

 そこまで打ち終わって、一区切りおくと、響夜は暫くの間返事を待つ。

『……まあ、今更言っても詮無き事だろうがな』

 反応が無いことを確認すると、おやすみとだけ打ち込むと、響夜はやれやれといった感じでため息をついたまま、ログアウトしたのだった。


皆様、こんばんは。

後書きはブログにて。

長々とここで書いても、読者様的に邪魔なのでは?と思ったので(汗)

お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

小説情報や日記をブログにて公開しております。

もし宜しければ、ご覧下さいませ。

パソコン http://one-more-time.blog.drecom.jp/

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となっております。

如月コウでした(礼)

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