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第69話 その可能性は考えてもみませんでした

「なるほど。これが原因だったのか……」

 少し離れた空を彩る花火を見つめながら、優は呟く。

 あれから、自分たちの存在に気づき、追いかけてきた大衆からなんとか逃げきったものの、優は夜に開催されているらしいイベントからは少し離れた、小さな子供達の憩いの場として作られたのであろう遊具の上に腰掛けていた。

「うん。ホントは、これをもっと近くで皆一緒に見るのも目的だったんですけどね」

 綾奈がすまなさそうに頷く。

「今日でこの花火のイベントは終了だったからなー。ま、こうして人が少ない場所で見れるんだからいいじゃん。ね?優」

「そうだね」

 背後から抱きついてくる翼に、優は相槌を打つ。

 若干距離は離れているものの、人が少ない分気兼ねなくのんびり楽しめるので、特別残念には思わない。

 男性陣の翔と霧島は、どうやら昼間の握手会の手伝いのせいか疲れているらしく、下に敷き詰められた芝生の上で座り込んでしまっているし、女性陣は女性陣で花火を楽しんでいるようなので、問題はないだろう。

 もっとも、元々近くで見るはずだった予定を、急遽変更しなければならないようにした原因は、主に翼と自分にあるのだから、優にしてみればこちらが謝罪することはあっても、綾奈が謝罪する必要などないというものだ。

「綾奈。ありがとう」

 ただ、こちらが謝罪の言葉を述べたところで、綾奈との謝罪合戦になることは目に見えている。だから、優は謝罪ではなく、感謝の言葉を告げることにした。

 綾奈は嬉しそうに微笑んで、「うん」とだけ返事を返してくれる。それだけで、場の雰囲気が温かくなったように感じられる。

「衣緒。花火見えやすいように肩車しようか?」

「しゃーーーーー!」

 とはいえ。全員が合流してからというもの、なぜか妙に翼が衣緒にちょっかいを出して、その度に衣緒が奇声を上げているのが気になるといえば気になる。

「優!こいつどうにかして!」

 威嚇の声にめげずに抱きついてくる翼は、自分だけでは対応できないと感じたのか。衣緒は、隣で笑って見守るだけの汐の助力を諦め、纏わりつく翼を剥がそうと必死にもがきながら優に助けを求める。

「二人とも、あんなに仲良かったっけ?」

 だが、険悪というには程遠く、お互いにじゃれているとしか思えないその光景は、助けていいものかどうか判断に迷うというものだ。

 衣緒の救援をとりあえずスルーして、優は首を傾げる。

「貴女のおかげでしょう。衣緒の雰囲気が穏やかになったのは」

 その疑問に答えたのは薫だった。

「衣緒が歩み寄ってくれるのならば、こちらが遠慮する必要などありません」

 その薫の言葉に綾奈はうんうんと頷く。

 そんな二人に、優は驚きを隠せなかった。

 確かに、薫の言うように衣緒の雰囲気は変わったように思う。

 仲良くなっていけばいいという優の言葉に、素直に笑って頷いてみせた通り、衣緒は皆に対しての態度をぎこちないながらも変えてきている。

 今までは、誰かが話題を振らなければ言葉を発する事すらなかったのだが、今では時折自分から話に入ってくるようになったのだ。

 そうやって、すぐさま実行に移す行動力を持つ衣緒も凄いと感じたが……。何より優を驚かせたのは、そんな衣緒の心情を察したかのような、薫や綾奈、そして、今も抱きついて離れない翼の衣緒への接し方だった。

「けど、どうして急に?」

 今朝までは、抱きつくどころか、七瀬と呼んでどこか他人行儀だったはずが、今では衣緒と下の名前で呼んで、ああしてじゃれあっている。

「こうして、友人一同で花火を見れたのです。翼も些か羽目を外してしまっているのでしょう」

 だが、薫は翼に視線をやることなく、そう言って微かに口元を綻ばせる。

「え?」

「前回は優さんも、それに汐さんも衣緒さんもいなかったもんね」

 薫の言葉にきょとんとしている優に、綾奈は微笑んだ。

 そんな二人の態度に、最初は呆然としていた優だが、少し考えてから、ああ、そうかと納得いったように微笑みを返した。

 確かに、前回みんなで行った海での花火大会では、自分が勝手な行動をしたせいで花火大会どころではなかったと、翔が言っていた。今回は、そのとき見れなかった花火をもう一度、今度は一緒に見るための企画でもあったのか。

 そして、汐と衣緒の二人も。友人として、こうして一緒に花火を見ながら騒いでいる。

「それなら、あれも仕方ない……のかな?」

 それを素直に喜んでくれている翼の、あの行動を止められるはずがない。あれは、友人としての翼なりの友好の証なのだから。

「はい」

「そうですね」

 それを知っていたのだろう。二人は、優の言葉にただただ頷くだけだった。

「それでも、あれは少しテンションが高い気がするけど」

 衣緒から抱きついて離れない翼を指差し、優は困ったように苦笑いを浮かべる。

「衣緒のあの天邪鬼な言動は子供そのもので、毎日子供の面倒を見ている翼にしてみれば大好物です」

 大好物。

 その薫の物言いに、思わず優は笑ってしまった。

 だが、その表現が一番翼にしっくりくるのだから不思議なものだ。

 そういえば、自分も女になってしまった当初は、天邪鬼とも取れる言動が多かっただろうし、翼のあのスキンシップにはどう対応したらいいのか分からず、困惑するばかりだった気がする。

 そう考えると、衣緒の姿はまるで、昔の自分自身をそのまま見ているようで可笑しかった。

「ありがとう」

 それからごめんね、と。優は独白のように呟いた。

 衣緒と自分の間にあった会話など、知るはずのない彼女達が見せた、彼女達らしい気遣い。

 それは、かつて自分にも向けられたことがある優しさで、とても感謝していること。

 だが、それは優としての自分に向けられたものであって、神凪翔としてのものではなく。それが、彼女達を欺いているように思えて、その罪悪感は未だに消えることなく残っているということ。

 そんなすべての思いを込めての、優なりの感謝と謝罪の言葉だった。

 その言葉に、二人は少し驚いたような表情を浮かべたが、

「問題ありません」

「みんなで笑ってお話できる方がいいですから」

 そう言って、小さく笑ってみせた。

「たーまやー」

 花火も終わりが近いのだろう。段々と彩り鮮やかになっていく大空に向かって、翼が大声で叫ぶ。

「たーまやー」

 それにつられるかのように、みんな顔を合わせると笑い合い、花火が彩る空に向かって叫んだ。衣緒も汐も。疲れて座り込んでいた翔も霧島も、今では最後と言わんばかりに叫んでいる。

「あれ?」

 そんな時。ふと、先程のやり取りでの疑問が優の頭の中に過ぎり、その疑問を口に出していた。

「そういえば……。私がもし衣緒の説得に失敗していたらどうしてたの?」

 その疑問に、薫と綾奈は鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をして、お互いの顔を見合わせて首を傾げる。

 そして、しばしの間見合った後、向き直すと、心底驚いたような表情を浮かべ、優を呆然とさせる言葉を言い放った。

「その可能性は考えてもみませんでした」


予想以上に忙しいorz

それでも、書き溜めていたこの話だけでもなんとか……(ぁ)

寒くもなっているので、体調管理だけはしっかりしたいものです。

次話は、エピローグ的なお話です。楽しみにしていて下さいませ。

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如月コウでした(礼)

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