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第60話 交わる“S”の関係

「案内、無事終えました」

「ご苦労様」

 優の案内が終えた事を告げに部屋を訪れた私に、衣緒が労いの言葉を返す。

 少し離れた部屋から聞こえる騒動を尻目に私達は少し苦笑いを浮かべながら、準備された

お茶を啜る。

 ピンク色に可愛らしく統一された家具一式と内装に、いまだに慣れないのか衣緒は心なしか落ち着かない様子でもある。

「いい加減慣れませんか?」

 その様子を見かねて困ったように眉を顰め、苦笑いを浮かべる。

「元々汐の部屋をボクがいきなり奪い取って居座ってるだけだからね」

 視線を逸らして言った返答に、再び困ったような苦笑いを浮かべてしまう。

「私は気にしませんけど……」

 それでも朗らかに言葉を返す。だが――

『……やはり2人だとこうなっちゃいますか』

 先程まで接していた優達の騒動と、自分達の気まずさとを比較して思わず溜め息をついてしまう。

 神凪翔と優という存在は、私にとっては憧れにも似た関係だった。

 詳細はまだ聞いてはいないが、突然の変化に戸惑いながらも、自分達の一番良い形で、良い関係を築いているように思えたから。

 元々、私達と境遇が違うという理由もその1つではあるだろうが、お互いがすり替わってしうという特異な環境でさえ素直にそういう関係を築ける事は、互いに信頼していないと無理な話だ。


「立場上、そう変わってしまったんですから。慣れてもらわないと」


 まだ初見に近いとはいえ、優と名乗る元神凪翔が、現状把握とそれに対応出来るまでかなりの時間を要したように感じられた。

 しかし、彼以上に衣緒は今の自分の在り方に戸惑いを感じているのが実情だ。

 その憂いにも似た感情は、きっと衣緒にもあるのだろう。2人の関係を見た時に出た言葉がそれを証明していた。

『なんだ。それなりに友好的な関係を築けてるようだね?』

 私にとっては今、衣緒と名乗る少女は唯一無二の親友。だが、決して以前のように友好的ではない。

 私はその変化を無理やり強いてしまった負い目もあるし、衣緒は衣緒で、元々七瀬衣緒というお嬢様の世話係であったはずの自分が、その立場を乗っ取る形になってしまったという負い目を感じている。

 私が“七瀬衣緒”から“七瀬汐”へと変貌を遂げたあの日の出来事が脳裏を霞む。

 それは私にとっては望んだ変化。だが、元々“汐”だった少女にしてみれば、それは望まぬ変化だったに違いない。


「それに、今までそれほど“衣緒”に興味を示す者達がいなかった分、立ち振る舞いには苦労しないと思いますし」


 あの日交わした会話の一部を引用するような形で、渋る衣緒を諭す。だが、その言葉に益々衣緒は顔を顰める。

「衣緒の、そうやって自分がまるで居なくなっても良かったみたいな言い方は気に入らない」

 怒ったような視線を投げ掛けてくる衣緒の言葉は、彼女らしい本心だろう。

 だが、その本心にも間違いがひとつ。

「衣緒?今は貴女が衣緒ですよ?」

「…………あ」

 私の言葉に『しまった』と言わんばかりに顔を渋める衣緒の様子を見て、思わず微笑みを溢してしまう。

 彼女が私に七瀬衣緒としての生き方を返そうと、躍起になってくれる気持ちはありがたいし、それだけで彼女だけが私を七瀬衣緒として必要としてくれていた事に胸が詰まる。

 尤も。それを抜きにしても、その性格ゆえに衣緒は私にあれこれ世話を焼きたくなるのだろうが……。そうなってしまった原因は私にある以上、それは私を縛る鎖でもあった。

 ここまで説明していれば誰でも理解してもらえるだろう。

 私は元々は『七瀬衣緒』として存在していた。そして、今は『七瀬衣緒』に仕えていた『七瀬汐』として存在している。

 そして私――現七瀬汐は、神凪翔同様に被験者である者……私の場合は七瀬衣緒を導く立場でもあるのだ。

 しかしそれは立場上での話。“S”についての謎と疑問は尽きない。

 衣緒が調べ上げた、あの日のサーバー情報の中に変化が見られたのは、神凪翔唯一人。あのオンラインゲームを経営している側にある私達にしてみれば、その個人情報を得ることは容易かった。

 が、それだけだ。プログラムに変化があったわけでもなく、バグが生じた訳でもない。ただ、“YOU”が“SYOU”に。そして現実では、“翔”が“優”へと変化していただけのこと。


「……どちらにしろ。“S”を“アンインストール”して変化した私達との関連性は高い、ということですね」


 こうして出会う事でなんらかの変化が生まれるかも知れない。

 そんな期待と、望んだ今を壊される不安を感じながら、私は慣れ親しんだ衣緒の部屋の扉を閉め、汐の部屋へと歩を進めるのだった。

かなりお待たせして申し訳ございませんでした(土下座)

コメントも少しずつ返信していけるように頑張ります。読ませて頂いて、もっと頑張らなくては、と自分を奮い立たせておりました(苦笑)感謝ですw

今回は、体調は勿論でしたが、どこまで、どういった風に表現するのかを迷い、かなり時間を費やしてしまいました。

出来るだけわかり易く執筆したつもりでしたが……どうだったでしょうか?(汗)

まだまだ説明不足ではありますが、やっと五話。次からはまた少し変化した日常が始まります。

コメディの割には、謎が多く困惑してしまうかも知れませんが、それは如月クオリティということで勘弁してやってください(吐血)

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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