間話 翼の意外な特技?3
キッチンでは騒がしい声が響いていた。
悪戦苦闘しつつも、その表情は真剣な優。
その横で、そんな優に檄を飛ばす翼。
そして、その二人のフォローのため、キッチンを所狭しと動き回る綾奈。
最後に、至っていつも通りに我関せずを貫く薫。
そんな、制服のエプロン姿という魅惑の少女達の姿を、神凪家一同は総出で廊下から見守っていた。
「……優さん大丈夫かなぁ?」
その腕を一番理解している藍璃が心配そうに呟く。
だが、皆を大喜びで迎え入れた時に翼の口から発せられた『優に料理を教えに来た』と言う言葉に笑顔を凍りつかせて、ただ『頑張って下さい』とだけ答えてさり気なく己は安全圏に逃げていたりする。
「優ちゃん、ああ見えても不器用だから〜」
今度はのんびり口調で母が言う。
そんな二人を見ながら、神凪翔は黙って微笑んでいた。
(優さんも、なんだかんだ言いながらも、ちゃっかり女の子なさってますね…)
その自分の脳裏によぎった、普段では有り得ない言葉に少しばかり失笑してしまう。
彼女自身は気づいていないだろうが、普段のネカマで培った経験がそう思わせるのかどうかは分からないが、女性としての魅力はかなりのもののように思える。
勿論、その容姿端麗な姿により、男女に関わらず目を惹く事は確かだが、それだけならああやって彼女のために一肌脱ごうとする友人などいないだろう。
やはり本来、異性であるはずの女性に対しての優しさと気遣い。そして同性であるはずの男性に対しては、同性であるが故の気さくな対応が、神凪優という一人の女性としての魅力なのだ。
それに―
「優!?ここに置いてあったお塩は!?」
「え?あれって砂糖じゃなかったの?全部使っちゃったけど…」
「翼。今まさに新たな厚焼き玉子が出来上がろうとしています」
……ああいった元々の天然さも、さらにその魅力に拍車をかけているのだろう。きっと。
四苦八苦の末、なんとか出来上がった食べ物らしき物体の前。
精も根も尽き果てたかのように、がくりと項垂れる俺。もはや掛ける言葉も見つからないのか、悲痛そうな表情を浮かべる皆の視線が痛い。
「いっそひと思いに殺して…」
「あはは。でも、何も出来なかったにしては、よく出来た方だよ」
そう言って、翼は項垂れた俺の肩を叩きながら、優しく声をかけてくれた。
「この調子で、一週間みっちり練習すれば、調理実習の時に何も出来ないような事はないって」
そう言って快活に笑い、帰り支度を始める翼達。
綾奈と薫はキッチンの後片付けを行ってくれている。俺もその手伝いをする。
翼は、俺に教えながらその片手間で準備していた晩御飯を、手際よく最後まで作り上げて―
「おばさーん。遅くまでお邪魔した上に、台所をずっと占領したので勝手かも知れませんけど晩御飯は作っておきました。お口に合えば食べてやって下さい」
様子を見守っていた母親にそう告げると、視線を翼がさっきまでいた居間へと視線を移す。
そこには、散乱しているキッチンとは対照的に、いつの間にか豪勢な食事の準備が整っているではないか。そのどれもが、片手間で作っていたとは思えないような、美味しそうな匂いを醸し出している。
「翼さん、凄過ぎます…」
料理が苦手な両親に代わって、料理を良く作っている藍璃すらこの驚きぶりだ。
料理の的確な指導に、この料理の手際の良さ。これはもう綾奈や薫が言っていた『翼が料理が得意』という言葉は本当だったと認めるしかないだろう。
『一緒に食べていったらどうだ?』という両親の誘いを丁重に断り、帰っていく三人の後姿を見送る。
「それにしても…あの翼さんがあれほどの料理の腕前とは。私も些か予想外でしたよ」
そして後姿が見えなくなって、翼が準備してくれた晩御飯を食べようと、玄関へ足を向けた時に翔が素直な感想を漏らす。
その感想に『そうだな』と苦笑いで答えて家の中に入る。
家の中では、薫に薦められた父親が、料理に一つだけ紛れ込んでいた黒い塊を口にした瞬間、卒倒したらしく断末魔のような唸り声を口から捻り出していた。
そして、そのまま何事もなく調理実習が行われる前日まで料理特訓は続けられた。
その成果か、俺は調理実習で多少の失敗はあったものの、可もなく不可もなく、最低限の野菜を切る程度の手伝いをして事無きを得る。切った野菜が余ったので、翼の目を盗み他のグループに頼み込んで、試しに野菜炒めにも挑戦したりもしたのだが…。
どういう訳か、中華料理店の厨房ではよく見かける炎の柱を高々と上げて天井を焦がしてしまい、教員に注意を受けてしまった。
まあそれは……覚えたての初心者によくある失敗、という事でひとつ大目に見てもらいたい。
まともにパソコンと向かい合えるのは久しぶりな如月コウです(苦笑)
お待たせして申し訳御座いません。こうして思考がクリーンな状態で後書きを書いているのは久しぶりです(笑)
体調自体は復帰には程遠いですが、休みがあるのでなんとか…といった感じでしょうか;;
ですが、今のうちにある程度話を進められたらな、と思っております。
次回からは、前回の続きからのお話です。どうぞお付き合い下さいませ(笑)
お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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