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第5話 ±S

“自己の証明”とは如何に難しい事だろうか。

住民票などといった安易な物品でなく、言葉の表現において、それを証明する事は酷く難しい。

神凪翔と名乗る一組の男と女。

通常考えるならば、神凪翔という人物は生物学上男であると生まれた時に証明されており、その結果、当然の如く、男の言い分が受け入れられるのが、至極当然の事だ。

その一方で女である俺の立場はどうだろう。

固定概念に囚われていては、言葉の表現においての自己の表現は、ただの妄想癖としてしか認知されない。

よって、俺が女でありながら、相手の神凪翔は男であるという固定概念を取り除く事をしなければいけなくなるわけだ。

しかし、それほど厄介なものはない。


…つまりだ。小難しいこの話を要約するならば。

突如現れた男の神凪翔のおかげで、女である俺は危機的状況に陥っているという訳だ。



一触即発の三人をなんとかなだめ、霧島・田端の両人にはもう自分で背筋が寒くなる位に女の子して丁重に謝罪し、なんとかあの事態に収集をつけたものの、すでに買い物どころの騒ぎではない。

その場でこの身元不明で、正体不明の男を問い詰めたかったが収まった騒動を再び起こす事はないだろう。

何とか堪え、ほくそ笑む家族を率いて、自宅へと戻ってきた。

俺はなぜか再び先程のリビングの席に座らされながらも、父親と共に書斎に消えたもう1人の自分の事が気になって仕方が無かった。

何より、書斎に消える前に耳元で囁かれた言葉。


『ちゃんと女の子してないと駄目だよ?居場所ないでしょ?』


ある意味、的確過ぎる言葉に絶句する俺。

不適な笑みを浮かべて書斎へと姿を消した奴は、こうなった原因を知っている。

それはどうやら間違いないようだ。

「優ちゃんは、紅茶って大丈夫?」

ふいにキッチンでお茶を入れていた母親が、声を掛けてきた。

視線の先にあるのは、やはり俺がいる。

「ぁ、はい。大丈夫…です」

一瞬返事する事が躊躇われたが、実の母親の好意を無駄にする訳にもいかず頷く。

「ねぇねぇ。優さんって近所に住んでるんですか?」

今度は、藍璃が興味満々という表情で顔を覗き込んでくる。

「あ〜…翔が来たら話すね」

曖昧に愛想笑いで受け流す。

なにやら朝から愛想笑いばかりしてる気がするぞ…。

「でも、あの甲斐性なしの翔ちゃんが女の子を家に呼ぶなんて、お母さん嬉しいわ〜。ありがとう、優ちゃん」

「それにこんなに綺麗な人なんて…別に何か弱みを握られて脅されてるとかじゃないですよね?ちなみにそれって犯罪ですから、優さん」

「犯罪でもなんでも自力で彼女をゲットするなんて、お母さん嬉しいわ〜。ごめんね、優ちゃん」

「お兄ちゃんなんて、どこがいいんですか?もしかして道を聞いたら、ここに連れて来られたとかじゃないですよね?ちなみにそれって犯罪ですから、優さん」

真顔の藍璃。さっきも言ったがどうあっても兄を犯罪者にしたいのか。

にこにこ笑顔の母。嬉しいのか、それとも俺へ毒を吐きたいのかどちらかにしろ。ちなみにさり気なくとんでもないタイミングで謝ったな。

そして連呼される“優”という名前。

未だに名乗った事がないのに、なぜかもう1人の俺が呼んだ名前がすっかり定着している。

新手のマインドコントロール教室か、ここは。

そこでふと“優”という名前に覚えがある事に気がついた。

(ネットゲームで使用している女のキャラの名前が確か―…)

「……あっ!!」

立ち上がり、驚いている母と妹を尻目に、二階にある自室へと転がり込むと、真っ先に壁に立て掛けられた姿見で自分の容姿を確かめる。

「…………“優”だ」

気持ちを落ち着かせてパソコンの電源をONにして、オン・ラインゲーム『夢幻学園』を起動させる。

焦る気持ちを抑えつつ、パスワードを入力し、ログインする。

そしてそこに現れたキャラの名を見て、俺は再び愕然とする事になる。


キャラの上に表示されているローマ字の名前。


『SYOU』


女のキャラクターは姿を消し、男として画面上に存在しているキャラクター。

そしてそこで思い出した、ちょっとした些細な出来事。




―“S”をインストールしますか?




「そ、んな…事あるわけ…」

“YOU”に“S”をインストールして、頭文字にすれば“SYOU”、つまりは“翔”になる。

「そんな馬鹿みたいな話で…ゲーム内のキャラと自分が入れ替わったって言うのかよ」

「あ、気づいたんだね」

愕然と立ち尽くす俺の後ろ。

もう1人の俺が、開けっ放しのドアに背をかけて言葉を続ける。



「とりあえず詳しい話は後でするよ。今は家族に違和感ない嘘をついて、事を荒げないようにしないとね」



“SYOU”から“YOU”へ。

“He”が“She”に変化した、ぷらすマイナス“S”の不思議な物語。

そしてこれが、始めて俺がその変化に気づいた瞬間だ。

自分の体を一瞥し、その事実を噛み締めて呟いた。



『リアルでネカマ生活かよ…』と。


さて、今までお読み頂いてありがとうございました。『ぷらすマイナス☆S』はひとまず終了…というのは冗談で(ぁ)

物語的には、やっと始まりの第一歩を踏み出したと言った感じですね。

読んでいる途中で、名前の“S”に気がついた人は何人いるでしょうか?

前半どうしてもシリアスの部分が多かった分、次からはコメディらしくしたいと思っています。

何かご意見・ご感想がありましたら是非コメントを残していってくださいね。やはり読まれていると言う実感がないと、面白くないんじゃないかと不安で…ヘタレですいません…orz

次回はいよいよ学校に(たぶん)舞台が移ります。

是非是非、次回も後書きで会いましょう。

それでは〜。如月コウでした。

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