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第55話 変化

「しっかし、転校生が汐だったなんて驚きだよね」

 まだ夏の日差しが残る通学路を朝とは逆に進みながら、悟技翼(さとりぎつばさ)は、そう言って快活に笑った。

 その翼の言葉に賛同するかのように、その隣の定位置を歩く菜乃綾奈(なのあやな)小野寺薫(おのでらかおる)が頷く。

「それではまた、ってそういう意味だったんだね」

「驚きです」

 その返答の仕方も、いつも通りと言えばいつも通りである。綾奈はのほほんと頷き、薫は正直まったく驚いている様子が無かったりする。

「あはは。そうだね」

 その二人の様子に苦笑いを浮かべながらも、少し遅れながら後に続く神凪翔へと視線をやる。どうもなにやら思案しているらしく、先程からずっと眉を顰めた状態でうんうんと唸っているのだ。

 さすがに心配になり、盛り上がる三人の隣から足を遅めつつ翔の隣へと移動する。翔がこれほどまでに悩んでいる姿を見せる事は珍しいので、些か心配でもある。

「何か悩み事?」

 そう言って微笑みかける。

 出来るだけ努めて明るく普段通りに声を掛けたつもりだが、どうにも気に入らなかったらしい。翔の表情は険しい。

 しかし、一瞬躊躇しながらも意を決したかのように俺の正面へと向き直すと―


「貴女はどう思いますか?転校生の二人を」


 険しい表情を崩さぬまま、翔が小声で俺へそう告げた。 

 その言葉の意図する事が理解できずに、俺は真顔でこちらを見据える翔の顔をまじまじと見つめ返す。

「汐と衣緒の事か?」

「はい。ただの転校生ではないように思います」

 仰々しい翔の物言いに怯みながらも、俺はその言葉の意味がよく理解出来ないでいた。

「今回の転校騒ぎは、単なるお嬢様の気まぐれによるものとは到底思えません」

「……はあ?」

 どうやら翔は、彼女達が自己紹介した際に感じた正体不明の疑惑を拭いきれずにいるらしい。

『一身上の都合による転校』

 それが、突然この時期に転校してきた、彼女達の口から告げられた理由。しかし翔には、どうにもその理由が腑に落ちないでいるようだ。

 確かにその理由は不明瞭な説明ではあるものの、赤の他人であるはずの、ましてや全校生徒達がいる前で事細かにその理由について説明する人間なんている訳が無い。

「確かに今回が初見であるならば、そう思えるでしょうが……」

 俺の意見に珍しく翔が言葉を濁す。そこまで自分の意見に疑問を感じている翔を見るのも珍しい。

「何か問題でも?」

 しかし、俺がそんな心の機微を理解出来るほどできた人間ではない。煮え切らない翔に、眉を顰めて言及する。

「つまりは――」

 そんな俺の態度に観念したのか。或いは、いまいち理解出来ていない俺への鈍感さのせいか。翔は大きく溜め息をついてから口を開こうとした――。


「海の出会いは偶然ではなく、この布石だったのではないか?そう仰るのですね」


 ――が。その言葉は、まったく予想だにしなかった、いつの間にか背後から忍び寄っていた第三者の口によって告げられた。

「し、汐!?」

「はい。優様、お久しぶりでございます」

 突然の闖入者に驚きを隠せずに素っ頓狂な声を上げる俺に対して、闖入者である七瀬汐(ななせしお)は涼しい顔で挨拶を交わしてきた。

「何か御用ですか?」

「翔様。そんなに警戒なされなくても大丈夫ですよ」

 そう言って、前を歩く三人に歩み寄り挨拶を交わす。

 先程の言葉に、さらに警戒心を強める翔にさえ、笑顔で対応するその姿はある種の迫力さえも感じさせる。

 しかしなぜだろう?どうにも、この汐の姿を見ていると誰かを連想させるのだが…。それが誰かが分からない。

「優さん?」

 そんな俺の顔を覗き込みながら、首を傾げている綾奈が視界に入る。

「あ、んと。ごめん。何?」

 取り繕うかように苦笑いを浮かべた俺に、綾奈は一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐさま微笑むと――。

「それじゃ私達はこっちですから。また明日、です」

 いつの間にか別れ道に辿り着いていたらしい。

 そう言って駆け出した綾奈の姿を確認すると、その先にいるこちらに手を振る2人の姿が目に映った。

「また明日、か」

 いつの間にか慣れてしまった挨拶の言葉に、小さく左右に振っていた手が止まる。

 そこでふと思い返してみる。

 小さな自分の掌。丸みを帯びた体。それらに慣れてきた自分がいて、それらに慣れてきた環境が今ここにある。そのすべてが、まるで自分が男であった事は妄想ではないのかと感じさせるほどの感触があった。


「さて。ではちゃんとした挨拶をさせて頂きますね」


 そしてその思考を途絶えさせるかのように告げられた言葉。

 不釣合いなほど妖艶な笑みを浮かべた少女が、俺の前へと躍り出て――。


「優様改め翔様初めまして。私は衣緒様にとっての“現翔様”と同じ立場に在る者です。以後、お見知りおきを」


 その屈託のない笑顔で、上品にお辞儀をした。


「――え?」


 その言葉の意味を理解出来ぬまま。

 俺が搾り出すように出した掠れた声は、秋を感じさせる、少し肌寒い風に掻き消されたのだった……。

風邪で寝込んでましたorz

更新が遅れて申し訳ございません。仕事で体力を使い切り、打つ余裕が無かったです(吐血)

まだまだ本調子ではなく、更新が遅れ気味になるかも知れませんが、どうか長い目で見てやって下さいorz

さて、今回で少しだけ日常に動きがありました。

実は第一部では男としての主人公。第二部では女としての主人公を描いてます。

第三部は…どちらも言えない主人公を描きたいと思っておりまして、第二部で女としての日常を読者の皆様も慣れてしまうように描いたつもりです。なので、最後の汐の言葉に、多少の驚きを感じて貰えたなら嬉しいです。勿論、予想された読者様もいらっしゃるでしょうが…w

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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