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第49話 少女の在り方

「……さて。霧島が早めに助けを呼んで来てくれると助かるんだけどな」

 海水が滴り落ちる浴衣のまま、偶然泳ぎ着いた空洞で一人呟く。

 まだ花火は続いているようで、音の後に響き渡る歓声も耳を澄ませば聞こえてくる。

 落ちた際、足首を痛めたらしい。酷く痛む。先程、歯を食いしばりながら辺りを捜索してみたが外へと繋がる出口のようなものはなかった。つまり、必然的に俺はここで身動き取れない状態にいる、という訳だ。

「でもまぁちょうどいいか……」

 少し考えようと思っていた。これまでの事。そしてこれからの事を。

 みんなが立ち去ったのを確認してから砂浜に座り込むと、俺は水平線を眺めながら物思いに耽ってみる。

『女として生きる』

 最近、その考えがより鮮明になってるように思えてきた。女として過ごし始めて、すでに三ヶ月以上が経過した。

「……ふふふ。俺はこのままでいいのだろうか…?」

 海へ到着した時もそうだ。普段通り、更衣室で水着へと着替える女子の面々。雑談を楽しみながら着替えている最中。

 俺は一人周りを警戒しつつも、視線を極力動かさずに扉で身を隠しながら、その場で項垂れていた。

 三ヶ月以上経っているのだ。その間には当然、体育の授業等で幾度となく繰り返し行なわれていたし、その度に俺はこうして更衣室で女子と共に着替えている。

 しかし。しかしだ。男として考えればそれは異常な事態だ。そんな状況に慣れてしまっている現状はどうだろうか。

 翔の言うように、性別を無意識に強く願うのならば、確かに異性に恋愛感情を抱くのはもっとも適切な状況判断に基づいた答えの一つではあるのだが…。

 それがそう安易に抱けるものではない訳だから、まずは“男である”という認識を持っておかないといけない。それが何事も基盤になる事は確かなのだから。

 何より。俺は一生この先、女で生きていけばいいなんて簡単に割りきれるほど、諦めのいい人間じゃないからな。

 そう考えると―


「…どう考えても拙いよな」


 慣れてきてしまっている。

 それはもう自分でも驚くほどに。

 確かに、生活においての行動すべてを女として行なう事が不慣れだった時期もあった。だが、それはすでに過去形になりつつある事なのだ。

 今では、家は勿論のことながら、学校でも女子更衣室で平然と着替えている自分がいる。

 そして何より―

『性別を問わず恋愛してみませんか?』

 翔の言葉。

 空想論な上に“かもしれない”がつく可能性の話。

 だが今、仮にそれが可能だとしても、両方とも俺の世界が他人の世界が交われない対角線上にある以上、どちらにも問題が生じるという事だ。

 男に恋愛感情を抱く。それは世間一般的な見地からして見れば、なんら問題は無い。

 なぜなら俺は、他人の世界では正真正銘の女であって、男との間に恋愛感情が生まれ、恋人となってもまったく違和感が無いからだ。

 だが、俺の世界ではそれは受け入れられない。なぜなら俺は男だから。

 そして女に恋愛感情を抱いた場合。男の時とまったく真逆の理由によって、片方の世界から違和感が無くなるが、もう片方の世界で違和感が生まれてしまう。

 そうなると、必然的に日常生活においてのその割合によって変わってくるはずであって…。

 そう考えると、今の自分の世界が果てしなく女である事に片寄ってしまっている気がするのだ。


「……恋愛感情を抱く、か」


 女であるなら、その対象は男になってしまう。

 それは考えたくない事だ。

 それに今こうしてそんな事を思い悩んでいる事自体が、男である事を諦める為の言い訳を考えさせられているようで気が滅入る。

 何より――

「ホントに恋愛出来る運があれば、こんな所に一人でいないよなぁ……」

 漫画や物語の中であるならば、こんな状況だと大概が男女が二人っきりで……といったドキドキのシチュエーションなはずである。

 だが、見渡す限り誰もいない。都合よく火を起こす道具も燃やす素材などある訳が無い。さらに言えば、孤島でもあるまいし、助けさえ霧島が呼べばすぐ来るだろうから、濡れた浴衣を脱いで乾かす必要性も感じない。驚くぐらいにドキドキ感が皆無である。

 しかし実際はそういうものだろう、と独白し納得する。

「だが、侘しいものではあるな」

 とはいえ、無茶をしたのは自分自身。言うなれば、自業自得というものだ。

 霧島が頼れないほど情けない奴だったわけではない。ただ俺は基本的に、『誰かに頼る』という行為に酷く抵抗を感じるのだ。女になってから、尚更その気持ちが強くなった気がする。

 弱さを見せる事を嫌い。だが、他人には弱さを見せて欲しいと願うエゴ。

 今、頼ってしまえば、そこに『女だから』という理由が加わってしまうような気がして。

「女として生きるか。男を戻るために頑張るか、か」

 ―何をどう頑張れば。何のために頑張ればいいのだろう?

 それが一番の疑問。神凪翔は存在していて。優も存在する事が、この世界の正しい形。

 では俺が男に戻る事を望めばどうなるのだろうか。叶ったらどうなるのだろうか。

 そこまで考え至って。思考がまるで、考える事を止めさせるかのように緩やかな睡魔に犯されていく。

「俺は……俺で居たいだけなんだけどな」

 最後の呟きは、遠くで響き渡る花火と歓声にかき消された。

今回は少々真面目なお話ですね。

優としての在り方。そして翔としての在り方。コメディとしてはこんな事考える事自体変かもしれませんが(苦笑)

いよいよ第二部も次とエピローグで終わりを迎えます。どうぞお楽しみ下さいませ。

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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