第45話 真実は小説よりも奇なり
しかし悲しいかな。以前にも話したが、突発的な行動というものには慣れていない。ましてや、その時着衣しているものが着慣れない浴衣と下駄ならば尚更だ。
そうなると必然的に――
「わっ……!?」
舞台袖から駆け出した俺は、ちょうど駆け出してすぐに蹴躓いた。
そのままなんとか立ち直そうとするものの、徒労に終わり、真ん中にあるスタンドマイクに頭突きをかましてそのまま前のめりに倒れる。
「……いたたた」
静まり返る会場内。共に倒れたスタンドマイクが、俺の情けない声を拾う。周りの状況に気づき、見渡してみると全員が俺の次の一挙一動に注目しているように見える。
ふと舞台袖からの視線と、俺の視線がぶつかる。そこにいる翼達が、浴衣の裾を必死に指差していた。なぜか以前にも同じような状況に陥った事があるような気がする。
視線を上へと変えて、覗き込む吉良の様子を伺ってみる。呆然と一点を見つめている吉良。その視線を追ってみる。
そこには、片足をバタつかせてバランスをとろうとした為、盛大にはだけた裾から見えるふとももがあった。
「――っ!?」
声にならない悲鳴を上げて、慌てて姿勢を正し浴衣を両手で押さえる。何か微妙にリアクションがおかしい気はしたが、この際気にしていられない。
(大衆の面前で、こんなポカをしてしまえば、誰でもこうなるだろう?きっとそうだ。そうに違いない!)
念仏のように自己今の言動を、脳内で正当化する。
「……可愛い」
そんな時。観客席の最前列に位置していた男が、穏やかな水面を打つ雫の様にふいに呟いた。
「やべ。すげぇ可愛い……」
どこからかそんな声も聞こえた。何がそんなに凄いと言うのか。この反応か。この女のような反応が凄いと言うのか。たしかにある意味凄い。これが男の仕草だと主張しても誰も信じてくれないだろう。
「YOUちゃん可愛いーーー!」
女性陣からも喝采が生まれる。ついには、その波紋が広がりきって場内に妙な一体感が生まれていた。拍手喝采。スタンディング・オべレーションである。誰か助けて下さい。
「言葉を交わす事無く、魅了するなんて、さすが伝説のモデルYOU!皆様盛大な拍手をー!」
さらに客を煽る吉良。手元に竹刀があれば、脳天に打ち込んでやりたいぐらいだが、今は即刻この場からの戦術的撤退が最優先である。愛想笑いを浮かべつつ、そそくさとその場を急ぎ足で立ち去る。
「優。なんだかんだ言ってもファンサービスを忘れないね」
「見事です」
「お、おめでとうございます?」
舞台袖で項垂れる俺。
別に過去は男の中の男だったと主張するつもりは無い。
だが、どうしてこう女と勘違いさせてしまうような動作ばかりになってしまうのか。まったくもって謎である。
「遺憾だ……」
本心からの呟きを洩らす。
視線の先。舞台上では、審査員達が真面目な表情で審議に入っている。こうなれば、せめて優勝しないように願うばかりだ。
(……ん?)
そんな事を考えながら見つめていた視線の先。審査員の一人である霧島とふと目が合った。霧島は先程と違って、幾分か眉間にシワを寄せて不機嫌そうである。
拙い。貶す為に審査員をしたつもりで霧島がここにいるなら、不機嫌そうな表情の理由はただひとつ。俺の評価が良いという事に他ならない。
(霧島!気合だ。気合で俺の評価を落とせ!)
視線に念を込める。すると霧島は何を思ったのか、さらに不機嫌そうに顔を渋めると、俺から視線を逸らした。
「それでは優勝者の発表です!」
そしてついに迎えた運命の瞬間。
どうやら白熱した審議の結果が出たらしい。吉良が高らかに優勝者の名を宣言する。
「優勝者は、七瀬汐さんでーーす!」
同時に湧き上がる喝采。そしてライトアップされた優勝者の笑顔が映える。
表彰されている優勝者へ拍手を送りつつ、俺は己の不安が杞憂だった事に安堵していた。
どうも最近、悪い方向へと物事を考えてしまう癖がついてしまったようで、ましてや『自分が優勝するかも』なんて考えを本気で抱いていたなんて、自意識過剰もいいところだ。恥ずかしい限りである。
しかし、優勝者には悪いが、優勝するなら仲良し三人組か藍璃の内の誰かだと思っていたが……。
「てっきり三人の誰かだと思ってたけど……」
贔屓目で見ていると言われるだろうが、どうも腑に落ちない。思わず、その言葉が口に出た。
すると四人は、きょとんとした表情を浮かべて――
「だって私達、特別参加だから審査外にするように吉良に言っておいたから」
さも当然のように言った。しかも『優は審査内だけど』と付け足して。
ひと段落過ぎて、今度は花火大会のための準備に入るみんなを尻目に、俺が女らしい言動する原因の一端は彼女達にあるのではないかと、真剣に考えてしまうのであった。
さて。今回のお話ですが…。
まず優勝者が優じゃない。これは予想外だった読者様もいらっしゃるんじゃないでしょうか?勿論、その理由については次回ぐらいから補足が入りますので、どうぞご容赦を(笑)
そしていよいよ第二部の最終話となる五話が始まります。物語は一気に動き始めます、と言えるほどの構想があるわけではないですが(苦笑)読者様に楽しんでもらえるように頑張ります。
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それでは〜。如月コウでした(礼)
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