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第37話

世間の学生は、夏休みというものを満喫している最中。

過ごすにはあまりにも高過ぎる気温が続く毎日。

そんな蒸し暑い中、誰しもがなんとか気力を振り絞って各々の職場の席に着き、日々の激務に勤めている大人達。

その大人達が行き交うオフィス街の中にある、芸能関係のお洒落な自社ビルの中、早朝にも関わらず、男の苦悶の声が響き渡った。


「駄目だ駄目だ駄目だーーー!」


所属しているモデル達の写真とプロフィールを、様々な資料が乱雑に置かれた己のディスクへと叩きつける。

男の名前は秋月省吾。

人柄も良く、仕事も、プロとして恥ずかしくない充分な仕事実績を残し、その筋ではかなりの信頼を得ている。

ただ、難があるとすれば根っからの仕事人間であるという事。

その結果、数年前に愛想をつかされた省吾は離婚し、相手は娘と共に家を出て行ってしまった。

「皆、この企画のモデルとしては何かが足りない!」

ばら撒かれた写真に写る女性達のすべてを、たった一言で言うならば容姿端麗。

街を歩けば、男女関わらずに、その美貌に一度は足を止めてしまうだろう。

それは、絶え間ない美への追求により勝ち得た美貌によって手にした、モデルという華々しい職業を名乗るに相応しい。

だが哀しいかな。写真撮影というファッションモデルとしての一般的な仕事を、あまりにもそつなく進めてしまう。

秋月が求めているのは、写真撮影をまったく知らぬ初々しさと、そしてそれとは不釣合いな程の美貌。

しかしモデルとは本来、ハードな撮影スケジュールを耐えながらも、カメラの前では笑顔を振りまけるだけの度胸と根性が必要なのである。

それをモデルの経験がまったくない、初々しい子に求めるのは困難であって、さらにはそこにモデル並みの美貌を持った女性など、雲を掴むような話だ。

スタッフ全員で人材発掘にあたっているものの、クライアントと交わした期限が迫っている。

今日中に、クライアントが納得する写真の撮影が終了しなければ、培ってきた秋月の信頼も地に堕ちるというものだ。

だがやはり、『仕方がない』と妥協して撮った写真にクライアントが万が一満足したとしても、秋月は一生その事を悔やみ続けるだろう。

そのジレンマに悶絶している秋月の携帯電話が鳴った。

「もしもし?」

「薫です」

とってみると、それはテレビ電話として繋がっているらしく、画面にはその無表情さ度合いが分かる、母親と同じ姓――小野寺と名乗る娘の姿に秋月は苦笑いする。

「薫か。どうした?こんな朝早くに。今は学校にいる時間じゃないのか?」

携帯を片手に時計に視線を移すと、時刻は9時少し過ぎを指している。

そんな時間に、しかも普段あまり携帯電話を使わない薫が、ましてやテレビ電話をかけてくる事は極めて稀だ。

「夏季休暇中です」

「………なるほど」

ここ数日間、不眠不休で働き続けだったせいか、そういった世間感覚がまったくと言っていいほどなかった事に気がつく。

「帰宅した様子が無かったため最近の様子を伺うため電話しました」

だが、それをあまり気にしていないのか。薫は秋月の質問に答えると、己の用件のみを伝える。

「あ〜…どうも仕事が上手く進まなくてね。今日もまた帰りが遅くなるか、最悪このまま仕事場に泊まりになるかも知れない」

どうやらわざわざ様子を見に、家まで来てくれたようだ。秋月は申し訳無さそうに言う。

「そうですか。顔色が悪そうなので無理のないように」

その答えは予想していたのか。淡々とした表情で答える薫。

しかし、そこで薫がどうしてわざわざテレビ電話をかけてきたのかが理解した秋月は一言。

「心配かけてすまない。ありがとう」

娘の気遣いに素直に感謝し言葉にして伝えた。

一見無表情で、その高揚の無い口調から冷たく見える薫だが、そうやってさり気ない気遣いを出来る優しい秋月の自慢の娘だ。

そんな娘に片親で寂しい思いをさせてしまっている事を思うと心が痛む。

「本日の勉強会にこちらの家を使用するので何か入用があればいつでも言って下さい」

「ああ。時間が空いたら、こちらからまた電話をかけるよ」

様子見と、以前口にした『薫の友達とゆっくり話をしてみたい』と言った事を覚えていてくれたのだろう。秋月は、そんな娘の心遣いに感謝の念を抱かずにはいられなかった。

「ありがとう」

「はい。それでは」

いつもならそこで電話が切れるのだが、今回は少し違った。


「薫?話ついた?」


ふと、聞き慣れない女性の声が入る。

「おや?翼君か綾奈君かな?」

以前自宅に遊びに来ていた時に出会った、同じ峯苫(ほうせん)高校に通う娘の友人達の顔を思い浮かべた。

軽く挨拶を交わした程度だったが、どちらもなかなか写真栄えしそうな顔立ちだったように記憶している。

あれほどの素材ならば、仕立てればモデルとして通用しそうだと秋月は素直に思った。

是非一度、彼女等に合った仕事があれば、試しにモデルとして起用してみたいと思ったりもしていたのだが…。

残念ながら今回ばかりは難しそうだ。

時間が押し迫っているというのに、少し見栄えがしそうな子の写真を撮って、クライアントに送る書類の中に紛れ込ませて『この子なんてどうですか?』なんてやってられない。

「いえ。彼女は…」

「なっ――!?」

娘の言葉に考え事から引き戻され、携帯に映し出されたその少女を見て、秋月は言葉を失った。

「神凪優という新たな友人です」

「え?これってテレビ電話?あ、どうも。神凪優です」

驚愕のあまり、呆然と己の携帯画面を凝視する秋月を知ってか知らずか、少し困ったような笑顔でブロンド髪を揺らす少女。

興奮のあまり、テレビ電話だという事も忘れて、秋月は携帯を耳元へと近づけて冷静を装った声で問いかける。

「薫」

「はい」

「今何処にいるんだい?」

「家です」

そんな父親の目の前に映る耳のアップにも驚かず、薫は淡々と質問に答える。

「わかった。すぐ帰る」

そう言って秋月は電話を一旦切ると、すぐさま街中で綺麗と思えた女性を口説き落としている

スタッフに電話をかける。

そして呼び戻されたスタッフ総出で、自宅で待つ今回のモデルの元へと大急ぎで向ったのだった…。


今回から、題名はその話が終わるまで一定として、空欄でお届けします。こちらの方が、話の区切りも分かり易いでしょうかね?題名は、色々模索中です(笑)

更新方法について考えた結果、不定期ではありますが、出来上がり次第更新しようかと思っております。更新する曜日を決めて更新、等色々考えたのですが……。もし、何かご意見御座いましたら、よろしくお願い致します。

それとアクセス数が1万件を突破しました。読んで下さった皆様には感謝です!何かリクエストがあれば、可能な限りお受けしたく思っておりますので、仰って下さいね!

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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