第3話 女性で歓迎っ!?
昼下がりのショッピングモールの一角。
始業式も終わり、部活動や業務に携わる一部の生徒以外は、久しぶりに会う級友達と羽を伸ばしているであろう。
この場所も、学校から近い場所に位置しているためだろうか。
そういった学生の姿が、ちらほらと見掛けられる。
誰もが新しい季節の始まりに、心を躍らせているのだろう。
その表情は明るい。
そんな中、始業式を一身上の都合によりブッチした事よりも、遥かに後ろめたい気持ちで、鮮やかに彩られたショーウィンドウの服を凝視している俺。
「……ねぇ、あの子」
「一人かな?声掛けてみようか?」
先程から背中越し聞こえてくるのは、そんな珍獣を見つけたかのような言葉ばかり。
服装などは普段からあまり気に掛けていなかったが、ここまで注目を浴びると、どこか変な所でもあるのだろうかと本気で不安になってしまう。
ショーウィンドウに映る自分の姿を確認する。
無地の白Tシャツに、まだ少し肌寒かったのでこれまた白のVネックカーディガン。そして下にはジーンズ。
サイズばかりはどうにもならなくて多少ぶかぶかで不恰好だが、今の自分が着れる服がこれだけしかなかったのだ。どうしようもない。
やはり問題なのは、この嫌が応にも目立つセミロングの金髪のせいだろうか?
実はそれが気になって、家を出る時に髪の長さに悪戦苦闘した末、無理やりかきあげて帽子の中に押し込んだまでは良かったのだが…。
普段かぶり慣れてない上に、加えて乱暴にかぶった帽子など、すぐに気持ち悪さを感じて取ってしまったのだ。
「いい加減諦めて入って来ないと、パパの好きな露出度高い服しか買わないわよ〜?」
「…………」
店の中から人目をはばからず、大声で俺を呼ぶ能天気な母親。
今更だが、後悔の念に囚われずにはいられない。
どこか自分に間違った所があったのだろうかと、つい先程までの、ここに至る経緯を思い返してみる。
遡る事数時間前。
事の始まりは、普段はまったく帰って来ないクセに、ああいう最悪な状況の時だけ都合よく帰ってくる両親からだった。
あの後、未だパニックを起こしているだけなのか、それともただの嫌がらせなのか。
一家団欒の場所であるはずのリビングで向かい合い、必死に警察の必要性を両親に投げ掛ける藍璃。
お前はそこまで兄を犯罪者に仕立て上げたいのか。
そしてその後。藍璃の隣の席で、俺はまるで死刑囚のような気分で、自分の…神凪 翔の半生について語る。
まるで、自分が被告人としての裁判の最終弁論を行っているような、物悲しい気分になったりもしたが…。
その間終始笑顔の両親。
俺の弁論が終了すると、重苦しい沈黙が―。
「とりあえず考えてても仕方ないし、この子の服を買いに行きましょうか♪」
―続かなかった。お気楽な母の一言で。
「お母さんっ!?」
まるで見当違いな母の言葉に、藍璃が声を荒げる。
「藍璃。ママが何も考えずに言っているとでも思うのかい?」
「お父さんまで…」
藍璃を制するように、今まで黙っていた親父が口を挟む。
「いいかい?少なからず彼女は翔の事を、それこそ自分の事のように話せた。それは少なからず、翔の関係者であるという証明にはなる」
「それはそうだけど…」
「聞きなさい。それに何より父さんはな…」
渋る藍璃の言葉を親父は神妙な面持ちで再び遮り、
「むさ苦しい男よりも、美人の娘の方が幸せなんだ」
「マテヤ、そこの馬鹿親父」
少なからず親として根本的に間違えてる言葉を吐いた。
「歓迎するよ。いつまでもここに居るといい。翔の部屋をそのまま使っていいからね。服等の日用品は今から買いに出掛けるとして…」
「翔と同じ年って事は高校二年生よね?とりあえず明日から普通に学校に登校できるように手を回わさないと〜」
「ママ、制服も女の子用を準備しないと。あそこの女子の制服は可愛いと評判なんだよ。君ならきっとよく似合う」
テキパキと動く素晴らしく順応が素早い両親に、その子供達はすでに茫然自失状態である。
俺自身、自分の身に降り掛かったこの不幸を把握し切れていないのに、すでにこれからの事を話し出す傍若無人な夫婦がそこにいたのだった……。