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第36話:フィルムの中で微笑む少女

 世間の学生は、夏休みというものを満喫している最中。

 過ごすにはあまりにも高過ぎる気温が続く毎日。

 今日は皆で何処かに集まって、早めに宿題を終わらせて夏を満喫しようという名目の元、エアコンが効いた快適な部屋で過ごす事と相成った。

 そして今、俺は『前回優の家にお邪魔させて頂いたので』と言ってその提案の場所に自分の家を進言した小野寺薫の家にいる。

 これは今日知った事なのだが……。

 体を馴染ませるために、夏休み中早朝ジョギングを行なっているコース上に、偶然にも薫の家があったらしく、走っている所を発見されて家の中に案内されてしまった。

 そのまま案内されるがままお風呂に入らされ、今は丁度、客室でお風呂上りによく冷やされた麦茶を差し出されたりしている。

 その気持ちは有難いが、約束の時刻までには大分時間がある。

 いくら他意はないといえ、二人っきりというのはどこか居心地が悪い。しかもかなり広々としている間取りで、それがさらに居心地の悪さを増幅させる。

 そわそわしながら周りを見渡すと、ふと小さい頃の薫が家族と撮ったであろう写真が飾られている事に気がついた。

 手にとってみようとした瞬間―

「すいませーん」

「ひゃい!?」

 突然背後から聞こえたテレビドアホンの画像に映し出された宅配業者の呼びかけに、珍妙な返事で返す。

「宅配便です。印鑑かサインお願いします」

 どうも受話器を取って返事をしなくとも、先程の返事で在宅である事は承知しているらしい。

「薫ー?宅配便さんだよー?」

 席を立ったまま、姿を見せない薫を呼ぶ。

 だがどうも反応が無い。聞こえない場所にでもいるのだろうか。

 しかしこれ以上待たす訳には行かないし、だからと言ってこれだけ広い家で人一人を探すのには苦労しそうなので、仕方なく俺が出て受け取る事にした。

「ご、ごめんなさい。お待たせしました」

「いえ。全然大丈夫ですよ」

 爽やかな対応。なかなかのプロ根性である。

「秋月さんのご自宅で間違いないですね?ここに印鑑かサインお願いします」

「は?」

 宅配業者の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

(秋月?薫の苗字は小野寺だよな?)

 首を傾げる。そんな俺の様子を怪訝そうに見つめる宅配業者。妙な光景である。

「お待たせしました」

 そうしてる間に、どうやら薫が宅配業者の存在に気がついたらしく、印鑑を持って姿を現した。そして印鑑を押して、その荷物を受け取る。

「ありがとうございましたー」

「お疲れ様です」

 最後には再び営業スマイルを振り撒き去っていく宅配業者を見送りながら、さり気なく入る時には気にも留めなかった表札を確認する。

 するとそこには―

「秋月……?」

 やはり『秋月』という表札が掛かっていた。

「何か問題でもありましたか」

 そんな怪訝そうな顔で表札を凝視する俺に気がついたのか。一旦荷物を持って家の中へと入った薫が戻ってきた。

「薫の苗字は?」

「小野寺です」

「この表札の苗字は?」

「秋月です」

「だよね……」

「はい」

 なんだろう。この一見会話が成立しているにも関わらず、まったく噛み合ってないような虚無感は。それとも小馬鹿にされているのだろうか。いやしかし、あの悟技翼ならまだしも、こう言った冗談は薫は言わないはずだ。

「ここは普段薫が住んでる家だよね?」

「住んではいません」

「そうだよね……住んでないって、ええええ!?」

 衝撃の告白を、薫は事も無さげに言い放つ。

 落ち着け俺。きっと何か些細な理解の食い違いがあっただけのはずだ。

「あー……うんと。そうすると薫は他人の家の中を我がもの顔で闊歩して、あまつ冷蔵庫にあった麦茶を私に振る舞い、届けられた宅配便を印鑑を使用して受け取った、と?」

「はい。ちなみに荷物の中身は新鮮な魚介類でした。晩御飯は鍋物でどうですか」

「あ、それ美味しそうね、って違ーーーーう!!さっきの荷物開けたの!?無断で!?」

 どうやら薫は言葉を食い違わせるどころか、物品を食い散らかすつもりでいるらしい。

 誰か薫の暴走を止めてくれ。

「些細な事です」

「そんな訳あるかーーー!!」

 玄関先で捲くし立てる俺に、平然と恐ろしい事を言ってのける薫。

「薫、住居不法侵入って言葉知ってる?あ、さらに物品を物色しちゃってるから、窃盗罪も付加されるわね……」

 ぶつぶつと説教を始める俺を玄関に放置して、薫は家に入り時計を見上げる。

 そして最後のトドメ。

「先程室内を見て回りましたが、数日間帰宅した様子がありませんでした」

「……あぁ。さっきから姿見ないなと思ってたら、ちゃっかりそんな確認を」

 空を見上げる。いい天気だ。

 最近の泥棒は堂々としていると聞いた事があったが、まさかここまで堂々しているとは思いも寄らなかったよ。薫。

「電話してみましょう」

 その様子を見兼ねたのか、心なしか不安げに携帯電話を手にして薫がどこかに電話を始める。

「警察、か。差し入れはちゃんとするからね。薫」

 空を見上げたまま遠くを見ている俺に対して、薫はいつも通り無表情で―


「父です」


 と、だけ答えた。



早速ですがお報せです。今回から更新が遅くなります(土下座)

可能な限り早めの更新を心掛けたいですが、如何せん時間が無くなって参りました。申し訳ないですorz

さすがに何日も更新出来ない状態にはならないかと思いますが……(滝汗)

毎日の更新を楽しみにして頂いてくれている皆様、申し訳ないです。

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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