第35話 少女交響曲4
「い、いや〜なんか綾奈が思いつめてたようだしさ。さすがに優の断りもなく、勝手な事しちゃったかな〜って反省してね」
私は、そう言ってバツの悪そうな表情を浮かべ、二人に歩み寄る翼の後ろをついていく。
案の定、神凪優はやれやれといった表情だ。
「それに、薫も『手間をかけさせた謝罪はするべきだ』って言うものだしさ。一緒に謝ろうって事になって。その…ごめんな」
翼が私に視線を送り、神凪優に謝罪する。当然私も合わせて出来るだけ丁重にお辞儀を行う。
どうやら彼女は昨日、体育館の裏側で私が断った男子生徒すべてに、謝罪を行っていたらしいのだ。
「えぇ!?そ、そこまでしてくれたんですかっ!?」
翼から説明を受けた綾奈は叫び、申し訳なさそうに再び何度も頭を下げている。
するとそんな綾奈の様子を見かねたのか。神凪優は、その天然とはいえども大人びた美貌とは裏腹に、子供のように笑い、綾奈にお辞儀をやめさせる。
そして、その特徴的なブロンドの髪をなびかせ―
「別にいいよ。三人とも、私のためを思ってやってくれた事だしね。ありがとう」
そう言って、本当に嬉しそうな笑みを浮かべたのだ。
男であろうと女であろうと彼女のそういった態度は変わらない。
男ならば、極力異性を感じさせないように気さくに話しかけ。
女ならば、何事においても気遣い、そして優しく接してくれる。
だからこそ私達は、彼女に近寄れなかった。些細な事ですら傷つけてしまう可能性があるのだから。
しかし、彼女は笑った。まるでそんなものは杞憂だと言わんばかりに。
彼女が特別を望まず、勝手に行動を起こした私達ですら、嬉しそうに笑いかけてくれるというのなら――
俺は、なぜかぼーとしている二人を教室へと促すと、物思いに耽っていた委員長にも『もうチャイムなるよ』と、声をかけた。
「“薫”で構いません」
「え?」
突然の委員長の言葉に、俺は目を丸くした。
しかし、当の本人である委員長は用件だけ伝え、歩を幾分か早め、前をいく二人の横に並ぶ。
そして―
「教室に遅刻します。急いでください」
「ここまで来ておいて遅刻なんてシャレにならないぞ〜」
「早く行こうよ」
「優」
重なる私達の声に、私も綾奈も。そして無表情ではあるものの心なしか薫も笑い合う。
そうだ。この瞬間、私達は仲良し三人組では無くなったのだ。
「“さん”付けするの忘れてしまいました…。あ、でも二人には“ちゃん”付けで呼んでるのに変でしょうか…?」
妙な事に拘っているのか、綾奈が申し訳なさそうに言う。
そんな綾奈に対して―
「問題ないでしょう」
薫が言う。その言葉に、薫の今の気持ちが込められているようで、少しおかしかった。
「そうだね。どうしてもって言うなら今度からそう呼べばいいだろうしね」
私が肩をとん、と叩く。薫の気持ちと、私の気持ちを綾奈が伝わるように。
「…そうだね」
そして、そんな私達を見て綾奈が笑った。
以前、ハンバーガーショップで、濡れた私の頬に添えられたハンカチ。
そのハンカチ越しに伝わる彼女の体温は、いつか感じた父親の温かな掌と同じだった。
注目を浴びる事なんてしたくもなかったが、差し出された手の先にある、本当に私を心配してくれている瞳が優しくて。
つい、私は動く事を止めてしまったんだ。
ありふれた事が特別だと感じれたのなら、それはきっとその人が特別な証拠。
『今日から三人じゃなくて四人』
触れた肩から感じた、翼ちゃんと薫ちゃんの想い。
それは私の想いでもある。
だからこんなに楽しそうに笑える。笑い合える。いつだって。友達だから。
楽しげに教室へと戻る、三人の後姿。
「優、か…」
彼女等に呼ばれたその名を、俺は呟いた。
響き渡る予鈴に弾かれるかのように、俺のために開けられたワンスペースに走り込む。
そして並んだのは三人ではなく、俺を合わせて四人。
いつかの喫茶店での発言は前言撤回だ。
どうやら俺は最大の問題において、最高の答えで選び出していたらしい。
ほんの少しの罪悪感と気恥ずかしさと共に。
この三人と親友になれたという最大限の喜びを噛み締めるかのように――笑う。
(女になってそこだけは感謝してもいいかもな…)
馬鹿みたいな考えに。
俺は苦笑いを浮かべて、教室へと駆け出した。
はてさて。仲良し三人組と優のお話、如何だったでしょうか?三人の心理描写の書き分けが上手く出来たか、些か不安ではありますが…。
次回からは夏休みへと舞台は戻ります。環境が変わったため、ひょっとしたら一日一話が難しいかも知れません。申し訳ないです(汗)
お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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