第34話 少女交響曲3
「…以上において貴方は彼女に相応しくないという結論に至りました」
「ひ、酷過ぎるっ!!うわーーーん」
放課後。
告白場所としてはベターな体育館裏。
本来なら、それ目的で待ち合わせているのならば、誰しもが期待と不安に胸を躍らせてここを訪れるだろう。
しかしどういう訳か、訪れた者達のそんな純粋な心を打ち砕くどころか、さらにそこから的確に重箱の隅までつつかれ、人生の袋小路に迷い込ませるような言葉の暴力に晒される危険地帯へと様変わりしていた。
「……薫。恐ろしい子」
親友である薫が心配になって様子を観に来た翼。
薫なりの“体のいい断り方”の一部始終を眺めつつそう呟いた。
薫は、手紙で呼び出した神凪優がおらず、代わりにその場に存在している女生徒に戸惑う男子生徒に対して“如何に己―この場合男子生徒の訳だが。が、神凪優という女性とは不釣合いか”を事務的にかつ雄弁に語り始めるのだ。……当然いつもの無表情で。
本来そのような小馬鹿にされたような言葉を、見知らぬ女生徒に言われれば相手は憤怒し、最悪、激昂し殴りかかってくる可能性さえあるのだが…。
どうやら小野寺薫において、その理屈は通用しないらしい。
その無表情で罵詈雑言を言い放つ様は、悪霊が延々と意味不明な呪いの言葉を囁き続ける事と同等レベルの異質さを醸し出していた。
それにより、言われている相手は憤怒といった怒りの感情よりも先に、その恐怖に屈してしまうのである。
その恐ろしい手法には、戦慄を覚えずにはいられない。
「こ、言葉って本当に怖いんだね…」
翼の言葉に頷きながら、同じく様子を観に来ていた綾奈は先程から苦笑いしか浮かべられないでいる。
(明日にもちゃんとあの人達にフォローしとかないと……)
薫本人にはそんなつもりはないのだろうが、さきほどから繰り出される傍から見れば情け容赦ない言葉が苦で、登校拒否などになってしまえば笑うに笑えない。
「翼。今ので終了かと思われます」
そんな綾奈の心配を他所に、薫は至っていつも通りだ。
「ほい。お疲れさん。それじゃ帰ろっか」
気がつけば日も大分傾いてきている。
翼の言葉に異議を唱える者はおらず、ひとまず三人は帰路へとついたのだった。
そしてその翌日の朝。
「…………」
再び下駄箱前。
部活に所属している者達が朝練を終えるすぐ後の時間を見計らって登校した俺は、深く深呼吸し下駄箱を開ける。
そこには俺の予想通り、手紙は一枚も存在しない。俺が昨日の放課後、自分でしたためた手紙でさえ。
(やっぱりそういうことか)
どうやらこの下駄箱に投函された手紙は、自動的に回収されてしまうようだ。
……よく知る第三者の手によって。
そうなれば昨日の朝、翼が見せた奇行に説明がつく。
俺は小さく溜め息をつきつつ、上履きへと履き替え、翼にその真意を問うべき教室へと歩を進めようとしたのだが―
「あ、あのっ!優さん」
遠慮がちな呼びかけに足を止めた。
「綾奈?」
声を頼りに視線を移動させると、そこに立っていた少女の名を呼ぶ。
「どうしたの?」
この時間、朝練がある運動部に所属している訳でもない綾奈がこの場所に居るのは珍しい。
つい軽い気持ちで、その真意を問うたのだが…。どうやら軽い内容ではないらしく、その表情は苦渋に満ちている。
何事かと慌てる俺に対して綾奈は肩を震わせると、何を思ったか、勢いよくその小柄な体を九の字に曲げて―
「ごめんなさいっ」
綾奈にしてみれば珍しい、大きな声でそう言った。
「えっ!?ど、どうして謝るのっ!?」
突然の謝罪に困惑してしまう。
「その…手紙の事で…」
「手紙?……あ、なるほど」
そこではじめて、綾奈が俺を待っていたという事に気がついた。
主犯の翼と常に行動を共にしているほど仲が良い綾奈だ。手紙の事を知っていて、良心の呵責に耐え切れず謝罪にやってきたのだろう。
「あはは…。別に怒ってないから。手紙の事は知っていたし…」
と、言っても知ったのは今しがたな訳だが。
「えっ!?」
「嘘っ!?」
「驚きです」
綾奈は驚きの声に続いて、下駄箱の影からさらなる声が加わる。若干一名、言葉とは裏腹にさほど驚いたようには到底思えないのはいつもの事だ。
「……翼。それに委員長も」
たぶん、様子がおかしい綾奈の後を追ってきたのだろう。
俺は、何事かと思ってずっと近くに潜んでいただろう二人に苦笑いした。
皆さんこんばんは(挨拶)
実は前回からですが、お話上、誰に断らせるか少し悩みました。その結果、面白そうな薫となったのですが…。如何だったでしょうか?
次回でラブレター編も終了です。その次からは通常の夏休みのお話となりますのでw
お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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