第19話 少女の自己性別意識の確認とその必要性
そして綾奈の代役である薫を待つ事30分。
「…まだかな」
視線の先にある時計を見ながら、ぼやくように呟く。綾奈もすぐ戻ってくると言った割には、後片付けに戸惑っているのだろうか。姿を見せない。
翔は『後は帰るだけなら私は一足先に』と、さっさと帰ってしまった。
一人でいると、なぜか男子生徒の視線が痛いように感じる。それは出来る限り遠慮したいので、いっそ『帰ってしまおうか』とも考えたりもしたが…。
さすがに、ここまで親切に案内してもらっておいて、少し時間が空いたからと言って一人で帰るのは気が引ける。我慢である。
そこでふと―
「先程は失礼した」
そう声を掛けられたので振り返ってみると、そこにいたのは先程意味不明なまま連行されたあの三年生の男子。
「さっきの……」
「うむ。そう警戒しないでくれ。俺は別に貴女に危害を加えようとしてる訳じゃない」
あからさまに怪訝そうな表情を浮かべて後ずさる俺を、安心させるためだろうか。
男はそう言って両手を高く上げ、その身をゆっくりと回転させる。
武器は所有しておらず無抵抗である事を、俺に示唆させようとしているらしい。
せっかくの機会なので―
「さようなら」
「待ってくれっ!!」
回転してこちらから視線を外したその隙に逃走を試みてみた。が、飛び掛るような勢いで制止されてしまった。無念である。
「なんですか?」
「まず話を。話を聞いてくれ!」
まるで、時代劇で悪徳商人が、借金のカタに財産を奪っていく時の町人のように、そう言って必死に俺の腰にしがみつく男。
そしてそれを振り払うように足蹴にする俺。
凄い光景である。
ともすれば、俺が―
「不特定多数に好意を抱かれ過ぎるというのもなかなか面倒なもののようですね」
先程の演技を彷彿とさせる気配の無さで、いつの間にか真横で待機していた薫が、俺の胸中を言葉にした。
そう。まるでこの姿は、告白されて断った相手に、すがりつかれているようにさえ見えてしまう。それだけは避けたいと思っていたのだが、どうやら一歩遅かったらしい。
「薫…この事は皆に内緒でお願い」
翼辺りにそういう話になって耳に入ったら、この男の命は保障しかねる。
綾奈が言っていたが、どうも翼は過保護過ぎるらしい。
だが、一応俺は男である。
気概の知れた友達とは言え、出来ればそれは遠慮して頂きたい。
それだけは譲れない。そこを譲ると、何か男として色んなものを失ってしまいそうだ。
「分かりました」
薫が頷く。薫は口が堅いので、これで安心だろう。
「…で。いい加減、人の腰に纏わりつくの止めて貰いませんか」
こうしている間も、ずっと腰にしがみついている男を半目で睨む。
「おっとすまない。不覚にも触り心地が良かったので、つい」
「…………」
嘘はつかないらしい。男は俺の問いかけに正直に答えた。
それは立派な心構えだろうが、真剣に『触り心地が良かった』と言われると、もう一度足蹴にしてしまおうかと真剣に悩んでしまう所だ。
「それで?貴方はいったい誰で。私に話っていったいなんなんですか?」
「ああ…申し遅れた。俺の名前は相川圭介。三年生。剣道部主将を務めている者だ」
俺の非難の視線も何のその。その問いかけにその男―相川圭介は破顔した。
相川圭介の話は、その奇行ぶりとは裏腹に至って単純なものであった。
「で?そのマネージャーを引き受けた、と?」
その日の帰り道。事の顛末を聞いていた翼の言葉に、俺はこくりと頷いた。
「確かに有名人の優がマネージャーになると、それを目当てに来る新入部員獲得数は計り知れないものがあるからなー。人数不足で廃部寸前の弱小剣道部には、喉から手が出るぐらいに欲しい人材だろうからね、優は」
やれやれと大げさなジェスチャーをとる翼。
俺もいくら今は女の姿をしているとはいえ、腐っても元健康的な一般男子学生である。女子マネージャー効果による部員確保ぐらい、さすがに理解できる。
だが、そのために自分が見世物のような状態になるのは絶対遠慮したいし、何よりそのせいで無駄に目立つ事だけは避けたいが…。
かつては自分も中学の頃とはいえ所属し、汗を流した部活である。熱心に頼まれた上に、それを断れば廃部決定という事態に、知らぬフリをするのはどうかと思い、首を縦に振ってしまった。
あまりそういった方法での新入部員勧誘は好まないし、実際に俺が入部しただけで新入部員が大勢押し寄せる訳はないとは思う。
だが、お世辞でも『綺麗だから大丈夫』と言って己の容姿を面と向かって褒めちぎられると、悪い気がしなかった事も事実だ。…勿論、それが理由で承諾したわけでは決してないが。
それに、最近では自分が男であった時の思い出に浸れる場所というものも少なくなってきてしまっているので丁度良い。これをいい機会に、男としての自分を再確認しよう。
(最近、自分が女である事に違和感感じなくなってきたもんなあ…俺)
家に至っては、女としての困惑の日々の思い出でいっぱいである。薄ら笑いを浮かべ、溜め息をつく。
そんな俺の心中を知らずに―
「優さんはなんだかんだ言っても優しいんですよね」
綾奈が微笑む。
そんな純真無垢な微笑の下。俺は久しぶりの愛想笑いを浮かべるのであった…。
話の展開が遅いのは仕様です(挨拶)
小説を執筆しながら『いい加減(小説内の)夏休み早く来ないかな』と真剣に切望する私は駄目ですか。そうですか。
皆様が足を運んで下さり、アクセス数もすでに2000件間近です。感謝の意を込めて、本編の間にでも何かお話を書ければいいのですが…。仲良し三人組の個々のお話は本編に追々出てくるとなると…はてさて。と言った所です(滝汗)
お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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