第17話:肉体の変化による弊害とそれによる印象
約一ヶ月前。
春休みの余韻もそろそろ抜け落ち、変わらぬ学園生活へと過ごす学生達に、ある衝撃が走った。
突然この峯苫高校へと転校してきた生粋の美少女である女生徒――神凪優。
2−4組の神凪翔の親戚にあたり、日本人では東北地方に多いという青い瞳。みずみずしい肌。そしてその手入れが行き届いたセミロングの美しいブロンドの髪は、同じ女性でも思わず感嘆の声を上げたくなる。
校則で違反とされているはずのその髪の色は、彼女の『地毛です』という弁明に、教員達が『じゃあ仕方ないよね』と声を揃えて即答したほどだ。
そんな女性が転校して来たのだ。やはりというかなんというか。男子生徒の反応は凄まじかった。
当然の如く、その姿をひと目見ようと2−4組の教室に押し掛けたのだ。同級生はさることながら、下級生・上級生さえも入り乱れて。
「神凪優……貴女が、欲しい」
望遠鏡が映し出した先。
その遠方に位置する、コンクリートで固められた、何棟も連なった室内の一角。
中庭で友人達と仲睦まじく昼食をとっている、そんな有名人である優の姿を見つめながら、望遠鏡を手にしている男が呟いた。
「そういやさ。優は部活動何か考えてるの?」
「部活動?」
そんな妙な視線が、自分に向けられているとは露にも思っていない俺は、もうすっかり仲良くなった仲良し三人組の一人、悟技翼の突然の問いかけに、箸を銜えながら首を傾げていた。
「ん〜…でも二年からってどこも大変そうだし…」
過去、自分が神凪翔であった時は、俺はどの部活にも属さず帰宅部として日々の生活を送っていた。
女という耐え難いイレギュラーはあるものの、やっと元通りの学校生活へ戻れたのだ。
それほど深く考えてはいなかったその内容に嫌な予感を感じ、もっともらしい理由を付け足して曖昧に答える。
しかし―
「でも、私達も部活に入ってますよ?」
そんなお茶を濁す目的で発せられる発言には、やけに鋭い菜乃綾奈が人懐っこい笑顔で返す。
その『でも』という言葉の意味が、まったくもって理解出来ないが…。
「入部しても同じ部活でもない限り終了時刻に多少のズレがあるとはいえ、帰宅時行動を共に出来る可能性が高くなります」
食べ終えたのだろう。
その膝に置かれた小さな弁当箱に蓋をして、何処からか取り出されたコップ。
そこに淹れられた、持参のほうじ茶を一杯啜ってから、小野寺薫が俺の心の中の疑問に答える。
「な、なるほど…」
薫は人の心を読めるのだろうか…。
「でもそれは抜きにしても勿体無いよ。体育で見る限りだと、運動神経自体はいいからね」
翼が言う。
俺は帰宅部とは言え、何も運動が嫌いな訳ではない。
どちらかと言えば、体を動かす事は好きな方だ。
中学の頃には剣道部に所属していて、全国とまではいかないが、県ではかなり上位に食い込める位の腕前は持っている自信はある。
勿論、高校に入ってから適度な運動しかして来なかったのは事実であって、今、以前と同じように動けと言われても無理だろうが…。
それでも運動をしていた事は確かで、ある程度の運動なら出来る。
ただ――
「短距離走れば前のめりに転ぶわ、長距離走れば自分の体力考えずに走って後からバテてるわ…。天然過ぎるのが玉に傷だけど」
突き刺さる翼の言葉。だが、それらはすべて実際あった事なので言い返せない。
ただ、如何せん、今の俺は男ではなく女である、というのが問題なのだ。
脳というのは非常に面倒で、それが肉体的限界であったとしても、自分が可能だと思い込んでいたりすると、その限界以上の信号をいとも簡単に容易く体に送ってしまう。
そしてその結果、通常では考えられないような、まさに“漫画のように盛大なこけ方”を披露してしまうのだ。
子供体育大会の時に見かける、父親による競走時における転倒がまさにそれだ。
全盛期の頃の肉体で想定された、肥大した信号によって引き起こされた、足のもつれによる転倒である。
もっとも。
最近では女であるこの体にも慣れてきて、かなり適切な配分を行えるようになったように思う。ふと突発的な動作の際に見誤って、ポカミスをしたりも多少はするが――それは愛嬌というものだ。
それを見た上での翼の『運動神経自体は悪くない発言』だろう。
人間の慣れというのは、まったくもって恐ろしいものである。
しかし、そのちょっとした愛嬌のおかげで―
「まあそういう天然な所が、優の可愛い所でもあるけどさ」
こうやってまた、間違った認識を深々と植えつけさせてしまっているんだが……。
倒れるなら後ろ向き(挨拶)
さて今回は部活動のお話ですね。今後、この仲良し三人娘は優と同様にお話に絡んできます。この三人の魅力も出していけたらな〜とか思案中です。
時間がある内に、ある程度まで進めておきたいですしね。頑張ります。
お手紙、コメント、感想大歓迎です。もし宜しければお願いしますね。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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