第15.5話 可能性を示唆すると生まれた問題点
なんとか?無事に帰宅した俺は、いつも通りご飯を食べて、渋々ながらお風呂に入って…。
そうしている内に、どうやら家族の皆は寝静まったらしく、一階にある風呂場から自室に到るまでの廊下は、すでに消灯されていた。
「疲れた〜…」
自分のベッドへと、前のめりに倒れこむ。
目を閉じると、まず思い返されるのは騒がしかったクラスメイト達の顔。
思い返して―
(男だったとしても同じようなもんか…)
そう思った。
この疲れも、新しい環境も。
女という根底の違いはあるものの、自分が神凪翔であったとしても、あのクラスメイト達と共に過ごす事には変わりないのだから。
多少の罪悪感があると言えば、ある。
嘘は嘘。
そう考えると、俺は目先の保障の確保に動かずに、意地でも男である事を証明した方が良かったのではないかとも思ってしまう。
「まあ…全部終わっちまった事、か」
深い溜め息をつく。
そして疲れ果てた体をなんとか奮い立たせて、俺は抜き足忍び足で翔の部屋に訪れる。
「どうぞ」
ノックの後、聞こえてきたのはいつもの声。
あまりに自分のイメージとは違った、神凪翔の声というものに少し戸惑ってしまう。
体の内で聞く声と、体の外から聞く自分の声はまったく異なって聞こえると、何処かで聞いた事がある。今感じている違和感もその一つだろう。
用意された椅子をすり抜け、ベッドの上に座り込む。
そこは、この家でまだまだ一番に安心できる場所。
「………」
「………」
俺の中にある不安を察したのか。翔はただ黙って、俺が口を開くのを待っている。
「“S”ってなんだろうな…」
それが。俺が悩みぬいた末での、最初の疑問だった。
「私にもそれは分かりません。私も突然この世界で、神凪翔として産み落とされた存在ですからね」
翔が苦笑する。
その表情には、何かに対する諦めのようなものを感じられた。
「俺はこれからどうなっていくんだろうな…」
「現状だけで物を言うなら、男に戻るという可能性は極めて低いでしょうね」
「お前は?」
「さあ……どうでしょうかね。何にせよ、私には貴女をサポートする以外にはする事がなさそうですしね」
予想外だったのだろう。自分への問いかけに、少し驚いたような表情で翔は答える。
再び二人の間に沈黙が訪れる。
そして、今度は翔がその沈黙を破り、口を開いた。
「“S”は。ともすれば人の変身願望がパソコンという媒体を通して、歪ながらも形を成したものかも知れませんね」
「え?」
突然の翔の言葉に、俺は首を傾げる。
「男性が女性になる、というのはその極端な例ですからね」
「それはそうだろうが…。俺はそんな願望持っちゃいなかったぞ」
その俺の言葉に、『だから願望というウィルスなんですよ』と翔は笑う。
そんな自己の存在を根底からひっくり返してしまうような願望が、そう易々と簡単に叶う筈が無い。
だがそれらの変身願望が集まり、一個の形を成したとしたら――どうだろうか。
意識下の変革を、その肉体にまで及ぼせるモノがあるとしたら。
勿論、そんなものは所詮空想論であって、有り得ない話だ。
だが何事も『もしあったとしたら?』と、問われるとその存在を否定は出来ない。
「しかし、そう考えると一つの可能性が見えてきます」
「可能性?」
「はい。性別を再び変化させる事が出来る可能性です」
その言葉に、俺は身を乗り出す。
どんな空想論だろうが、今の俺の身に降りかかった事に比べればどれほど現実味がある話に聞こえる事か。
可能性があるならば、それを試す他に、この状況を打開する方法は無い。
「相手が“S”という願望の集合体のウィルスというのならば。それに対抗し、打ち勝てるほどに強固な自己の無意識下レベルの性別意識――つまりは“自分は男ありたい。或いは女でありたい”と心の底から思えるようになる事が重要だという事です。それにより、性別変化を防御できるプログラムが持てるかも知れません」
「それはつまり?」
小難しい事は分からない。
急かす様に、ベッドから身を乗り出して次の言葉を待つ。
そして―
「優さん。性別は問いません。本気で人を好きになってみませんか?」
翔はまるで“面白い事を考えついたので試してみよう”的な顔で、そう言い放った。
その言葉を聞くと同時に凄まじい眩暈が俺を襲う。
(そんなどこかで聞いた事のあるような解決法ならせめて言い切れよ…)
いつだったか、以前はこれで意識を手放した事があったような気がする。
免疫が出来たということだろうか。
それにしても…神様。どうやら俺の身に降りかかった不幸は、まだまだ留まる所を知らないらしい…。
背中が煤けて見えるぜ、俺(挨拶)
ようやく『ぷらマイS』もラブコメディとして話を進められるような気がする今日この頃。皆様如何お過ごしでしょうか?
第一部は如何だったでしょうか?読んで下さった読者様が少しでも面白かった、或いは時間潰しにはなったと仰ってもらえたなら幸いです。
現在、第一部が完了して如月的にはほっと一安心といったところでございます。話として纏まっているネタのストックが尽きてしまいましたが、出来るだけ早く、第二部を書き始める事が出来るように尽力致しますね。
第二部は別に分けて書こうかとも考えたんですか、このまま続きで書こうと思います。大層に書いてはいますが、すぐ更新出来ると思いますし…。
もし第一部を読んでみて、感想・ご意見が御座いましたらどんどん仰ってください。注意点や良かった部分がありましたら、それを肝に銘じつつ、第二部も考えていきたいと思いますので。
それでは第二部が始まりましたら後書きで再びお会いしましょう。如月コウでした。