第13話 優の的外れな憂鬱
慌しかった朝はすでに終わりを告げ、今は学校の昼休み。
転校からすでに随分と日にちが経過しており、通常ならば俺もそろそろ仲の良い友達でも誘って中庭のベンチに座り、仲慎ましく弁当を食べている…予定だった。
「………」
しかしどういった運命の悪戯か、仲の良い友達というカテゴリーなどおらず、人影も無い。
あるのは、なぜか俺を囲うような形で陣取っているクラスの女子達の姿。
その表情はさながら、いつ敵襲が訪れるか分からない戦場で腰を下ろしつつも、周囲の警戒を怠らない熟練した兵士のようである。
先程から目の前を通る男すべてを威嚇している。
威嚇された男子には悪いが、外から見る方も怖いだろうが、真ん中にいる俺はもっと怖いのだ。勘弁してくれ。
そんな殺伐とした重苦しい雰囲気の中。
疲れた表情で弁当を食しつつも、俺は今日に至るまでの己の行動において、この事態を引き起こす事となってしまった失敗は無かったかと頭を悩ませていた。
(やはり体育の前の休み時間、自分が女である事を綺麗さっぱり忘れて、女子更衣室に行かぬままいきなり教室で制服を脱ごうとボタンに手をかけたのが拙かったのだろうか?)
しかしあれなら、慌てて引き返してきた数人の女生徒の制止により未遂で終わった筈だ。
頭を振り、もう一度良く考えてみる。
(ではまさか、何度も誤って男子トイレへと足を踏み入れたのが拙かったのだろうか?)
すぐさま思い当たる行動を思い返す。
だがすでにその問題は解決したはずだ。なぜなら俺はその度に、ことごとく初々しい女生徒を演じきり事無きを得たはずである。
(それではまさか、クラスメイトである男子ならいざ知らず、見知らぬ男子にまで手を振られる度に手を振り返し、尚且つ円滑な友好関係の構築のため笑顔と挨拶を忘れなかったのが問題だとでも言うのだろうか?)
さすがにそれは考えられない。それをなぜかと問うのなら。
かつての俺は、愛想の一つも振り撒かずに円滑な友好関係を築けなかった。
そこで同じ徹を踏まぬようにと、せめて挨拶だけはと思い完璧に行なっているはずだからだ。
一通り考えてみるものの、やはり己の行動にこの状態を引き起こした直接的原因があるとは思えない。
(となると考えられる原因は―…)
「やはり自己紹介時の『特技は某落ちゲーで19連鎖を行なえます』が問題だったか……」
あれを行なうには至難の業。
それを容易く特技と言い放った俺に、皆畏怖の念を抱いてしまって近寄り難くなってしまったというのか。
「なんたる悲劇だ…」
「理解不能です」
自分の浅はかな失敗に一人落ち込む俺の呟きに、立ち去り始めた遠巻きの女生徒達に挨拶を交わす委員長こと小野寺薫が冷静にツッコむ。
「悩み事ですか」
どうやら俺が考え込んでいる間に、皆昼食を食べ終えていたようだ。
彼女に後の事は任せ、一足先に教室へと戻っていったようである。
無表情ながらも俺の隣へと座り、その手に持っていた食べ終わった小さな弁当箱を丁寧に仕舞い込み、こちらの様子を伺う。
………やはり無表情ながら。
「な、なんで皆私の周りを囲むようにお昼ご飯を食べるのかな〜とか……?」
『あはは』とお得意の愛想笑い浮かべながら、委員長の様子を伺いつつ、その真意を問うてみる。
すると委員長は、暫くじっとこちらを見据えた後、俯き視線を落として左手を口元へと運び、なにやら考えているような仕草のまま動きを止めた。
「………」
「………」
そして訪れる沈黙の時。
どうやらこの沈黙は、彼女なりの俺の問いかけに対する適切な返答への思考時間のようだとやっと最近になって理解出来た。
だが―
「………」
「………」
この無言のプレッシャーには、いつまで経っても慣れる事はない。
暫くして。口元に添えた左手を下ろし、俯いていた顔を上げて再びこちらに向き返し、長考の末導き出した言葉を紡ぐ。
「その問いかけには様々な要因があり私が知りうる言葉を尽くしても一つに纏めきれるものではありませんでした」
彼女はいつものように無表情、ついでに無呼吸というおまけつきで、信じられないような長い言葉を一気に言い切った。
「そっか…」
その言葉に、俺は力無く項垂れる。
その瞬間だった。
「………ふぁ」
聞き慣れぬ可愛らしい声が、すぐ隣から聞こえたのだ。
まさかとは思いつつも、横目で隣に座っている薫を盗み見ると、そこには―
「……失礼しました。睡眠不足のためか我慢出来ませんでした」
相談中に欠伸をした事への謝罪のつもりだろう。
こちらが見ている事に気がついたのか、彼女は小さく開けた口を左手で隠しつつ元の無表情へと戻す。
しかし今の俺はそれどころではない。
あの、ミス無表情と言っても過言ではない委員長が、初めて人間らしい動作を見せたのだっ…!
その驚きは、とてもじゃないが言葉で言い表せるものではない。
そしてその俺の驚きを読み取ったのか。
彼女はまるで、そんな居心地の悪さを振り払うかのように立ち上がり、俺を教室へ戻るように促した。
恥も外聞も無く現実で狂喜乱舞(挨拶)
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本日で登録から一週間が過ぎたのですが、そろそろアクセス数が1,000件に到達致します。これは読者の皆様が、如月の小説に足を運んで下さったという事であり、とても恐縮至極でございます。感激です。本当にありがとうございました(礼)
さて今回のお話ですが…。翔が考えていた事が的外れであるという事が、なんとなく伝わりましたか?(不安)
次回からは、新たなキャラクターも出てきますので、少しは楽しめるかと思います。
慢心せず、これからも少しでも楽しんで頂けるような作品を創っていきたいと思いますので、宜しくお願いしますね。
それでは〜。如月コウでした(礼)