第11話:男で女。でも女で男
俺の名前は神凪翔改め神凪優。
自称は男。他称は女。
体は女で頭脳は男だ。
決して名探偵でもなく、極々普通の高校二年生だったように記憶している。
「大丈夫か?」
あの、人生最悪の事実を突きつけられてから数日後の深夜2時。翔の部屋、パソコンの画面上。
頭上に『KYOUYA』と表示された学生服に高レベル者のみが扱える剣を携えた男が、初期装備の木刀を携えた俺に優しい言葉を投げ掛ける。
「優…じゃなかった。今は翔だったな」
名前を呼ぼうとして間違いに気がついたのか。男は文を打つ途中で訂正し、名前を入力し直す。
「気にするな」
その男の戸惑いを感じて、俺も言葉を返す。
プレイしているのはオン・ラインゲーム『夢幻学園』。
ベッドで熟睡している翔曰くは、『このゲーム自体が今の状態を引き起こした直接的な原因ではないので、プレイしても問題ない』という事なので、俺は再びこうして普段通りに過ごしていた。
「ここの階の敵はそろそろ打ち止めか…。次はどうする?もっと先に進むか?」
「あ〜そうだな。悪ぃな。レベル上げに付き合ってもらって」
「別に構わんよ」
何気ない男同士の会話。その何気ない会話内容に、俺は嬉しいような悲しいような表情を浮かべる。
(まさかネット内で男として生活出来る事に感動するなんて……)
心中複雑である。
だがまぁそれはさておき…このゲーム。
“S”がインストールされたせいかどうだかは不明なのだが、どうやら“性別の変更”という行為のみ操作不能になっていた。
さらに運が悪い事に、運営者側でバグが発生したらしく数人のキャラクターのレベルが初期レベルの一という設定に戻ってしまったらしく、その数人の中に俺も含まれていたらしい。
まさにふんだりけったりである。
いくら、自分から『女です』と明言せずにプレイしていたとは言え、相手が俺を女だと勘違いさせるような口調や仕草を行っていたなら、それは十分過ぎるネカマ行為である。
IDも一度登録してしまえば変えられないこのゲームで男のままでログインして、ネカマがバレてしまえば痛い話にしかならない。
勿論、女だと思い込んでいる相手に、ネカマだったのかと問われた時に『女だけど男のキャラを作ってみました』と言ってプレイするのも一つの手段ではあるが…。如何せん何かそれはもう破滅的に駄目な気がする。男である事を主張したい俺にとって。
レベルも初期に戻ってしまった事だし、他のネットゲームにでも手を出そうかと思案もしたが―
『現在、貴女という存在は肉体レベルという一点において、このパソコンのプログラムの影響下にあります。現在、“S”のウィルスは抑えられている状態にありまして、移転し再び肉体的に変化をもたらす事はないでしょうが…。何かプログラムが再びインストールされた場合、そのはずみで被害が拡大する可能性は大いに考えられます』
この、翔の言葉が脳裏を霞めたのだ。
まったくもって電波かつ理不尽な理論で、男の時に聞いていたら無言で警察へと突き出す所だが…。
自称『“S”という正体不明のウィルスが進入した際に発生したバグにより生み出された、ゲーム世界ではなく、この現実世界の俺の人生というゲームに対してのNPC』である現神凪翔が言うのだ。
蔑ろに出来ない。
その理論の成否は別としても、事実女となった俺が存在しているのだからな。
「しかし…まさか男だったとはな。すっかり騙されてたぞ」
響夜が快活に笑う。
「マテマテ。俺は女なんて一言も言った覚えがないぞ」
「だが、そう思われている自覚はあっただろう?」
そう言われてしまえば返す言葉がない。俺は『まいったよ』と言わんばかりのジェスチャーをとる。
すると、そんな俺を見て響夜が再び快活に笑う。
しかしこの響夜というキャラのプレイヤーはとても心が広く、いい奴だ。
このゲームをやり始めてすぐに知り合った相手な分、男だと白状するべきか迷ったが、笑って受け入れてくれた。
(男って認知される事って素晴らしい…)
思い返して、再び感動に打ちひしがれる俺。
そしてある程度時間が経った時―
「と、すまない。さすがに俺も少し寝ないと今日が辛い」
響夜が剣を納め、申し訳無さそうに言った。
「げっ…確かに俺も拙いな」
顔を見合わせ、互いに失笑する。
時刻はすでに午前4時。どうやら時間を忘れて楽しんでしまったようだ。
だがやはりネット世界とはいえ、ここまで気さくに話せる奴は現実世界においてもそうはいない。
(こいつが現実にいてくれたらな〜…)
そんな馬鹿な事をふと考えてしまう。きっとこれはゲームの世界での話であって、現実に会って見れば性格が全然違うだろう。
だが今の俺にしてみれば、男として俺を認知してくれる唯一の人物なのだ。
「それじゃまた今晩に」
再び今日の夜の約束を取りつけ、ゲーム画面を閉じパソコンの電源をOFFにする。
「さて、寝るとしますか…」
電源を消すと、訪れたのは凄まじい眠気。
立ち上がり、固まった体をほぐす為に一旦背伸びし、欠伸を噛み殺しながらすぐ傍のベッドへと身を委ねる。
潜り込む途中何か障害物があったように思えたが、寝惚け眼ながらも器用にそれを避けつつ空いたスペースへと体を滑り込ませる。
やはり慣れ親しんだ自分のベッドというのは、他では得られないほどの安眠を誘うものだ。
そしてそれに抗う事無く、俺は静かに閉じかけた瞼を完全に閉じたのだった…。
力の続く限り毎日更新出来る……気がしないでもない!(挨拶)
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さて今回は…なんだろう?(困惑)
優なりの男としての抵抗?みたいなものでしょうか。
前話で五話分が終わり、今回も新たな展開が待っています。………たぶんきっと。
脊髄反射で執筆活動を行う駄目作者に乾杯…orz
それでは次回後書きで会いましょう。如月コウでした(ぺこ)