第9話 無呼吸委員長
「吉良……君?」
思わず君付けで呼ぶのを忘れそうになり、慌てて付け足した俺に、その男子生徒は少なからず俺にとっては素晴らしく不気味な笑みを浮かべた。
「そうですっ。翔とは一年の頃に義兄弟の契りを交わした、吉良耕介ですっ。今後とも宜しくお願いしますよっ」
(そんな誓いなんざ初耳だが…。そもそもその無理やり爽やかぶった口調は気味が悪いぞ…)
心の中では呟きながら、ツッコミを入れるわけにもいかず、困ったような笑みで対応する。
「もっと2人の将来について語り合っていたいんですが、今は翔を義兄弟ではなく加害者として裁かなければ…ではなくて語り合わなければいけないので失礼しますね〜」
「はぁ…?って、翔っ!?」
意味が分からず首を傾げて生返事を返していると、捕らえられた宇宙人のように、両脇を他の男子生徒にがっちり固められ、廊下を連行されていく翔の姿。
その姿を呆然と見送りつつも、翔の席に腰を下ろし、これからどうするべきかを考えていると、ふと目の前が人影によって遮られる。
「………?」
目の前に立ち、俺を見下ろしているのは1人の女生徒。
黒く縁取られた眼鏡をかけて、その腰まである黒髪を飾ることなく凛々しく立つ彼女の姿の名は―
「………誰でしたっけ?」
これまで数多くの愛想笑いを浮かべてきたが、未だかつて無い程引き攣った愛想笑いは初めてだろう。
そんな俺を見ても、その女生徒は動じる事なく、その特徴的な眼鏡を中指でクイっと押し直す。
そして感情の起伏がない事務的な声色で『このクラスの委員長です』とだけ答えた。
「委員長さん?」
「はい」
俺の問いかけに、単語でしか答えてくれない委員長。
話し掛けて欲しいと願ったが、よもやまともに挨拶以外の会話を行う初めての相手がこのようなコミュ二ケーション困難な相手とは思いもよらなかった。
「それで何か用ですか…?」
「転校生に学校の案内を行うのは委員長業務の一環のひとつであるかと」
俺の問いかけに、委員長は変わりなくまったく感情の起伏無く無呼吸で言い切ってくれた。
「そ、そうですか…」
再び愛想笑い。馬鹿の一つ覚えだと言われるかも知れないが、実際この場に立ってみろ。怖いから。
「見知らぬ私が行うよりも親戚である神凪翔君に頼むべきかと思い本人にそれを示唆しようとしたところ、今しがた複数名の男子生徒にだ捕された挙句連行されてしまった以上已む得ません」
こちらの心中をまるで無視するかの如く、喋り続ける委員長。いや、実際無視されているのだろうが。
「案内役は私で我慢して下さい。円滑な高校生活を送る為に校内の地理把握は必要不可欠なので」
無表情のまま、感情の起伏無くこれほどまでに事務的な言葉を続けられると、ある意味感嘆してしまう。
「つまり、学校を案内してくれるって事?」
確認のため、要点だけを引き出し彼女に問う。
すると委員長は一言、『はい』とだけ答えてくれた。どうやら問いかけには、一応真摯に答えてくれるらしい。
しかしここで問題が浮上する。
(案内って言ってもな…)
転校生でありながら、転校生でない俺にとっては、この学校はすでに一年間通った学び舎。
案内してもらったところで、知らない場所なんてものは存在しない。
「いえ…その、朝早めに来た時に親切な方がある程度の場所を説明してくれたので……」
申し訳なさそうに、委員長に頭を下げる。
彼女なりの心遣いを、無下に断るのはどうかとも思ったりもしたが、知っている事を延々説明されて周るのは苦痛だ。
頭を上げて、委員長の様子を伺う。
「…………」
しかし彼女は無言のまま無表情を貫いている。
某クイズ番組で答えを焦らす司会者よりも、こちらの方が遥かに威圧感がある。
「あの〜…」
「そうですか。それではもし今後学校生活を円滑に進めるに当たって何か問題があれば仰って下さい。それでは失礼します」
耐え切れず口を開いた俺を再び無視して、委員長は目を伏せ、軽くお辞儀するとスタスタと歩いていった。
「な、なんなんだ…」
颯爽と立ち去ってゆく名も知らぬ委員長の後姿を、呆然と見送りながら俺は1人呟いたのだった…。
読めるもんなら音読してみろっ(挨拶)
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さて今回ですが。やっと男女キャラが一名ずつ増えました。皆さん女の子ですよっ!…無表情ですが。
あまりにも多過ぎると書き分けが大変なので今からドキドキものです。
次回が私なりの山場となります。いよいよ性別反転の原因の一端が説明されます。どんな変な説明でも見捨てないようにして下さいね?(事前交渉)
それでは次回後書きで会いましょう。
如月コウでした(ぺこ)