005話 2人の経験者
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「いっち、にー、さーん、し」
「「「ごー、ろく、しち、はち」」」
暖かくなり始めた4月の空の下、大勢の生徒が十人十色の掛け声と共に準備運動をしていた。
やる気のない生徒も多い中で、俺は人一倍テンションが高い。
体の節々が痛いなんてこともなく、快適に体を動かせていると思うとそれだけで感動的だ。
「それにしても、まさかB組と合同だったなんて」
準備運動後に始まったストレッチ中、それとなく杏に話を振る。
「普段はクラス毎らしいですけど、今日は一緒みたいですね」
「他クラスとの交流って意味も含まれてるのかな」
「多分、そうじゃないですかね。こういう機会でもないと他クラスの生徒と話すことも少ないですし」
体育教師の粋な計らいが垣間見える。
交友関係は広くとまでは言わなくとも、あった方が良いのは事実。
他クラスにサッカー部希望の生徒がいるかは気になるところだったので丁度良い。
もしも、1人でもいるのなら是非とも仲良くなりたい。
「はーい、お前ら整列!」
黒をベースにしたジャージを着た女性の体育教師が号令を掛けた。
等間隔に広がっていた生徒達が、ダラダラとした動きで集まり始める。
「もっとシャキッとできないのか! ったく、しょうがない奴らだな。はい、今日は事前に伝えてある通りサッカーをします。見て分かる通り、A組とB組合同でやるから積極的にコミュニケーションを取るように」
まだ説明の途中にも関わらず、合同と聞いただけでざわざわとうるさくなる。
体育教師の顔が怒りを通り越して、呆れに変わるのを見逃さなかった。
ここは口うるさく怒るべきなのかもしれないが、現実世界と同様強く出れない理由があるのかもしれない。
大人として生きるのはどの世界でも大変だ。
おっさんのまま転生していたら、前と全く変わらない生活を送ることになっていただろうな。
「はい、静かに! チーム分けは各クラス10人を3チームな。試合時間は1試合10分で、コートは小さめのサイズをこっちで作ってあるからそこでやるように」
試合時間は短めだけど、授業である点を考えれば十分と言える。
「あぁ、それとA組 朝花 春陽、B組 倉谷 英理奈、鷹津 凛、お前らは最後な。サッカー経験者がバラバラに試合すると面白くないから」
厳密に言えば、俺もサッカー経験者ではないけど、そこは言わないお約束。
どうやらA組には俺以外に経験者がいないが、B組には2人もいるらしい。
どの子がその2人なのか気にはあるけれど、顔を見たところで判断は付かないので試合まで待つことにした。
それまでは教師の指示通り、杏と一緒にパス練習でもしていよう。
「杏、一緒にパス練習しない?」
「それは良いんですけど、あ、あの! 春陽さんってサッカー経験者だったんですね!」
「うん、そうみたいだね。いや、みたいというかそうなんだけど」
「ポジションとかどこなんですか!」
今日1番饒舌な姿を見せる杏。
サッカー部には入らないと強く言っていたので、てっきり全く興味がないのかと思っていた。
その真逆で好きすぎるが故に、入部するなんておこがましいという意味だったのか。
「私のポジションは……んー、 FWになるのかな」
スキル構成とパラメータ的には FW適正が高い。
本人の意志次第でポジションはどこにでも変えられるけれど、個人的にも1番興味のあるポジション。
「疑問系ってことは結構色々なところを経験されているんですね」
「まぁ、そんな感じ。でも、高校ではFWに絞る予定だよ」
持って来たボールを蹴りながらの雑談。
杏には悪いけど、会話の内容よりもボールを思い描いたように蹴れる感動が勝る。
どこをどう蹴れば思ったように飛ぶのか。
それが瞬時に頭に過ぎる感覚が面白くて堪らない。
杏から返されたボールをそのまま浮かせてリフティング。
自然と的確に足の甲へ当て、決まった軌道を何度も繰り返す。
つま先にボールを乗せてからボールの周りで足を一回転させるアラウンドザワールド。
テクニカルなリフティングだってお手のもの。
無限にリフティングが出来そうなことを体感してから、杏にまたボールを蹴り返す。
「しまった! 調子乗って強く蹴りすぎた」
杏が取るには少し速すぎるグラウンダーパス。
勝手にテンションが上がってしまった矢先にこれだ。
ボールを自分で取りに行くつもりで動き出したが、その必要が無くなった。
突如、割り込んで来た赤髪ツインテールの少女がパスカット。
勝手に割り込んで来たことにも驚くが、それなりの勢いがあったボールを綺麗にビタ止めされた。
「アンタが朝花で間違いないわよね?」
「ちょっとー! たかりんいきなりそれは失礼じゃん! ごめんねー、はるっち。本当は悪い子じゃないんだよ、たかりん。ちょーっとだけ、変わってるけど」
ギャルオーラ満載の金髪ポニテの子が、間に入って会話を繋ぐ。
赤髪ちゃんの方は確実に経験者。
たかりんの愛称で呼ばれてることからも、彼女が鷹津 凛なのだろう。
そうなると横にいるオタクに優しいギャルみたいな子が倉谷 英理奈かな。
こっちから探すまでもなく、挨拶に来てくれたみたいだ。
喜ばしいと思いたいのは山々だけど、相手の反応は敵意剥き出し。
嘘でも仲良くしようなんて雰囲気は感じられない。
今も鷹津は鋭い目つきで俺を睨んでいる。
どんなことを言われてしまうか想像すると、額から汗が浮かびそうだ。
しばらくの沈黙が緊張感を助長させる。
どちらが口を開くのか、達人の間合いで両者探り合う。
「サッカーやってたって聞いたからどんなものかと見に来れば大したことないのね、アンタ」
「いや、私、朝花じゃないです」
「えっ? マジ? たかりん、どうしよ! 人違いらしいよ!? ごめんねー、ウチらの勘違いだったみたい」
分かりやすい嘘のつもりが、倉谷が騙されてしまった。
慌てた様子で、彼女より少し背の低い鷹津の肩をぐわんぐわんと揺する。
「簡単に騙されてんじゃないわよ。体の使い方が1人だけ明らかに違うでしょうが。面倒だと思って嘘つかれたのよ」
「すごっ! ここで嘘つけるはるっち、神じゃん!」
騙されたのにケタケタ笑ってくれる倉谷。
隣のツンツンちゃんとの温度差が寧ろ良いコンビまである。
「で?どんなご用件でしょうか。そんなに恨まれることした覚えもないんだけど」
「アタシ達と勝負しなさい」
「いや、そうなるように先生が最後にしてくれたよね?」
煽りではなく、純粋な疑問から言ってしまう。
だけど、それが最悪の選択だった。
彼女の顔は見る見る内に赤くなる。
恥ずかしさと怒りを含む感情が剥き出しだ。
「そういう意味じゃないに決まってんでしょ! 生ぬるい中途半端なプレーするなって言ってんの!」
いきなり声を荒げる鷹津に注目が集まる。
場の空気を瞬時に感じ取った倉谷は、そう言うことだからよろしくねと言い残して強引な鷹津を回収。
まだ言い足りない様子の鷹津が、離れながらも文句を言い続ける姿を静かに見送った。
沸々と湧き上がる真剣勝負に対する興奮を胸に。
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