第四話 神は実在するか?
オーグマーの爪からキーボードを通じてディスプレイ上のメモ帳に踊り出た文字を読む。
“それで俺はここでどんなことをすればいい?“
その文章に私は思わず吹き出しそうになる。
さっきまで僕と書き込んでいたのに! 小熊なのに俺様口調!
いや、私がオーグマーって名付けたんだけど名前負けしてる。
“何を笑ってるんだ?“
「ううん、何でも」
笑いを堪えた私の様子に釈然としない思いを抱いたのだろう、またキーボードを打ち込む。
先ほどまではどこか緊張していたけど、今は大分肩の力が抜けたようだ。
ふと気づいたんだけど、キーを打つ速度が徐々に速くなってきてる。慣れてきたんだろう。相変わらず二本の爪だけど。
“とりあえずユーチューバーなる職業について教えてくれ“
「巷で有名なYouTuberを知らないの?」
“ああ。記憶に無いからたぶん興味が無かったんだろう“
「そういえば、オーグマーの前世はどこの国のどんな時代に生まれ育ったの?」
“昭和生まれの現代日本人だ“
「古っ」
“待て、古いとは何だ“
:今、令和だよ
:まあ令和って言ってもまだ一桁だから成人しているなら平成生まれが現代に当たるんじゃないか
:やめてくれ、その言葉は俺に効く!
:少子化のせいでYouTuberを視聴している人達って必然的に昭和後期以降の生まれが多いだろうからな
:元号の違いなんぞ誤差だ誤差
:ここは老人の多いインターネッツですね!
:オマエモナー
“指摘された通り昭和後期生まれだ。場所は岐阜県だったと思うが“
「思う?」
“はっきりとは覚えていない。記憶が曖昧になってる“
「記憶をそのまま持ち越したわけじゃないの?」
“名前もそうだが何をして生きていたのかごっそりと抜け落ちている“
:そんな事ってあるのか
:珍しいな記憶を失った転生者なんて
:前世の記憶を保持したまま転生ってのが定番だよな
:転生した理由は覚えてないのか
:神様、神様にはあったのか?
:どんな姿してた?
“白髪の老人の姿をした神、いや、人か?には会った。会話も覚えている“
「いるんだ!?」
:そうか爺さんか
:女神様は定番だよね
:軽薄そうなチャラい若者だろ
:そもそも声だけで姿が見えない場合もある
:最近のラノベ作品は色々いるからな
:ていうか神とか人とかはっきりしないな
:神じゃないのか?
:どんな会話したの?
む、私を差し置いて視聴者たちと会話してる。
何か疎外感を感じないでもない。
でも、私の言いたい事を代弁してくれてもいるので楽な気もする。
……何かこのままだと駄目になりそうな気もするけど。
“まず俺が死んだ原因とか目の前の神が本当の神様なのかとか、あといわゆる転生特典とかこの世界、いや宇宙そのものが誰かによる作り物の世界ではないかとか“
:あれなんか結構真面目なこと聞いてる?
:学者みたいなこと言うねこのクマ
:転生特典あるのか?
:というか、それよりも気になること言ってないか?
:ジェームズウェッブ望遠鏡のおかげでハッブル望遠鏡よりも遥かに遠くまで銀河を観測できるようになったからな
:オケアニアっていう蝶のような形をした構造の銀河団の集合体だっけ
:ここまで宇宙は広すぎると作り物とは思えないんだが
:いや分からないぞ?
:俺たち地球人類よりも遥かに科学技術を超越した異人類がこの宇宙のどこかにいるはずだからだ
:YouTubeにあるオカルト動画でも見たのか?
:よくよく動画全部を視聴すると不自然な点に目が行くんだよな
:不自然なって何さ
:専門的な解説をしているように見えて同じ話題を延々と繰り返すところ
:動画の冒頭に派手な結論を言っておいてその確信に触れずにずるずると引っ張ったりとか
:あー確かに思い当たる節が
:だろう?
:結局金目当ての動画制作者の思惑はいかに視聴数を稼ぐことに注力するからな
:待て待て、きちんとした学者も発表してる動画もあるんだぞ
:いくらでっち上げ動画が多くを占めるかって全部を偽物扱いするな
:どこのサイトもそうだが運営は何してんの
:おーい話が脱線してるぞ
:そもそも何の話をしてたんだっけか
:転生したって言ってるオーグマーの宇宙はどうのこうのから始まったんだろ
:そうだったそうだった
視聴者の人たちが何か小難しいことを言っているような気がする。宇宙の話とかジェームズなんとか望遠鏡とか。テレビは見ないからネット上のニュースを興味が引かれたものだけつまみ食いという形で呼んでるだけだけど。
視聴者さんたちの雑談が二、三分ほど続いた後、では転生者のオーグマー君に聞いてみようという誰かの発言によってコメント欄がピタリと止まる。
「視聴者さん達も興味があるようだから一つずつ書いていこうか」
“その方がいいようだ。ではまず“
オーグマーの爪が軽やかに踊る。
って、あれ? いつの間にか一本爪だったのが全ての爪を使いこなしてキーを叩いている。その上、打ち間違いがほとんど起きていない
:はっや!?
:クマなのに!
:文字打つスピードが速いな
:こんな短時間で馴染んだのか
:クマって凄え
みんなが感心する中、文章は出来上がっていく。
“神の下に呼び出されるのはごく稀なことで、大半の魂はたまたま神の下に紛れ込んでくるのが大半なようだ“
“俺の場合は前者の方だがなぜ神が俺を呼び出したのか何も言ってくれなかった。記憶の方も神が事前に消したらしい“
「え、何、どういう意味?」
私の困惑気味の声にオーグマーが淡々とキーを叩く。
“神様曰く、転生先できっかけがあれば思い出せるようにしてあるらしい“
「オーグマー、ひょっとして前世で何かあったの?」
“覚えていたら苦労はしない“
“ちなみに神様呼びも俺たち地球人がしているだけで、宇宙全体の一部を管理している組織のその末端にしかすぎないそうだ“
「は?」
“管理者の話によると、この宇宙が始まってから地球人類と一緒で何度か滅亡を繰り返しながらも宇宙に進出して他星系の人類と戦争を繰り返し、一部を除いて銀河をまとめ上げ、さらに外部の銀河へ拡張を繰り返し中規模の派閥を形成するに至ったそうだ“
:待った待った
:情報量が多い
:太陽系の外ってそんな事になってたのか!?
:なんで今になってそんな情報を開示してきたんだ
“以前、人類が宇宙へ向けてボイジャーっていう衛星を打ち上げたことあったろ? あれが太陽系の外へ出て宇宙人たちが俺たち地球人類を一定の文明レベルまで達したと判断したらしい“
“念のためボイジャーをハッキングして中身を漁り、どの程度の文明レベルかを調べたり暗号が解けるかどうか信号を送ったりしてみたそうだ“
“けれども、いい反応が返ってこないんで偵察部隊を送って情報収集を図ると共に宇宙人たちの存在に気付くかどうかのテストも行っているんだが、芳しい反応が得られなくて困っているそうだ“
:それってつまり
:もしかして
:ちょっと前にアメリカが恒星間天体って呼んでたオウムアムアのことか
“多分それだ。管理者としてはいつ気づいてくれるのか、ワクワクドキドキしていたらしい。一部は気づいたみたいだけどニュースとして取り上げても隠蔽図ったようだ“
“大々的なセンセーショナルを巻き起こして、宇宙開発に向けて活気づいてくれるものとばかり思っていたそうでがっかりしてるってさ“
「宇宙人は何でそんな事したの?」
“当たり前のように宇宙に進出できるぐらいの文明を持って管理者の所属する文明に仲間入りしてくれないと困るんだとさ“
:まどろっこしいな
:何で直接会いに来ない?
:国交結んで宇宙船売りつければ良いのに
“管理者曰く、自力で這い上がって来れないと意味がないんだってさ“
“過去に何度も他の文明をテコ入れして仲間入りさせたけど、最終的に自身の実力と勘違いして思い上がった挙句、内部分裂を起こして戦争状態に陥って大損害受けたんだって“
“逆に自力で何とかしてきた文明はその苦労を理解している故、弁えているようで互いの意思疎通が割とできるそうだ“
:ああそういう事か
:まー地球でも似たような事例がたくさんあるしな
:管理者は自身の文明を中規模って言ったよな
:つまりそれよりも大規模な文明があるんだよね?
:要するに俺たちを仲間に引き込んで勢力の拡大を図りたいということであってる?
“概ねその認識で間違いない“
:うっわ、マジかー
:てことは、オーグマーは管理者からのメッセンジャーってことでOK?
“そうなる。別に存在を口にする事を止められてないしペナルティも言われてない“
:オーグマー、ありがとう!
:てっきりオウムアムアは地球を侵略しようとしてきたのかと
:一定の宇宙文明レベルに到達すると星に住むこと自体が面倒臭くなるとは聞いたことがあるな
:何で?
:星から宇宙へ、宇宙から星へ行ったり来たりするのが手間がかかるとかどうとか
:えーそんな事で?
:星の活動で天変地異に巻き込まれるのを避けるためもあるんだとか
:あー
:そうか、宇宙空間でコロニーを作って酸素と水、燃料と食料が生産できさえすれば
:わざわざ星の地表に降りてまで生活する意味はないってことか
:文明レベルが違いからくる認識の違いだね
「勉強になるなあ」
オーグマーと視聴者たちの会話を見聞きして私はふむふむと頷く。
ちなみにコメント欄には外国語も結構混じってはいるけれども、私は日本語オンリーなので反応する事は特にない。
ここは日本だからだ。
返事が欲しければ日本語で話してもらおうか。
などと、傲慢に言ってみるテスト。
また書き溜めに入ります。
それでは。




