そうろかの章 チョコミント色の嘘②
晶があくびをしながら学校への道のりをゆっくり進んでいると、少々遠くに、並んで歩く琴弧と亜梨紗が目に入った。二人の髪の長さ、身長、何より潜香から後ろ姿でもすぐにわかる。
目覚めはいつにも増して重かった。ただでさえ毎朝学校に行くことが億劫なのに、今朝は身体を起こすことさえ諦めようと思うほど全く脳が休まっていなかったからだ。
昨日のアイスショップでのやり取りが頭の中で暴れている。
亜梨紗が発した『付き合っている』という言葉にやけに反応していまい、身体が熱くなっては、いじらしい表情をした琴弧も同時に浮かび上がってくるのだ。
我慢できずにいつもより早くベッドに入り、掛け布団を琴弧に見立てて幽霊を成仏させるかの如く両手両足でぎゅうっと抱きしめたが、放課後の琴弧は夜が更けてもすんなりと眠らせてはくれなかった。
人生で初めての奇妙な感覚に晶は戸惑い、息苦しさすら感じていた。琴弧が側からいなった途端に広くなる空間が物足りなくて仕方ない。
そんなことが邪魔をして2人に声をかけることに怖気づいていたが、迷った末に意を決して声をかけた。
「おっ・・・おはよう、一緒に登校するなんて仲良しだね。」
「おはよう竹達くん、ちょうど駅で琴ちゃんと一緒になったから捕獲したところ。」
「おはよう、晶くん」
琴弧はわざと晶の名前を呼んで挨拶し、振り向いた晶に助けて欲しいと目で訴えている。『琴弧が何か厄介ごとに巻き込まれている』と直感的に理解し、30秒前に戻りたいと願う。
「じゃあ琴弧ちゃん、放課後またね。」
「ちょっと待った。」
巻き込まれるまいとしてその場を去ろうとしたが時すでに遅し。
晶の肩を掴んだのは琴弧だ。
「私を置いて逃げるんだ・・・?」
「逃げる・・・とは・・・?」
「晶くんと琴ちゃんの関係はまだ誰にも言ってないよ。」
亜梨紗は不敵な笑みを浮かべながら弱みを握っていることをちらつかせてきた。亜梨紗の潜香から突然、ブレンドした香辛料のような香りが漂い、晶の鼻をくすぐる。
「本当に言うつもりなの⁉」
晶は肝を冷やした。自分のペースをかき乱されるとストレスを感じたが、一歩を踏み出せない状況を鑑みて、この勢いに乗じてしまうべきかという打算的な考えも脳裏をよぎった。
「それは晶くん次第だな~」
「どういうことでしょうか・・・。」
やはり来たか、と晶。
「まだ言わないで欲しい?」
「うん・・・。」
「琴ちゃんも返して欲しい?」
「うん・・・返して欲しい。」
琴弧は隣で少し嬉しそうな表情をしている。
「じゃあちょっと相談に乗ってよ。琴ちゃんも一緒に。放課後は部活動があるから、昼休みに3人でご飯食べよ!」
「取引が上手いね・・・。」
捕獲されていながらも琴弧は感心した。
晶の鼻は亜梨紗の潜香で刺激されていた。
琴弧が宿しているものと同じ、濃い甘酸っぱさで。