ことかの章 香りのないクラスメイト③
食卓に用意された夕食のカレーに晶は心躍った。
ワクワクしながら食卓のいつもの場所に座った。母の悠香は晶の向かい側の椅子に、妹の唯奈は晶の隣りの椅子に座り三人で『いただきます』と言って手を合わせた。
普段の夕食の風景だが晶だけは違った。カレーを見た時の心の高揚は既に緊張にかき消されていたからだ。晶には言わねばならぬことがある。勇気を出して打ち明けねばならぬことがある。
頃合いを見計らっていた晶には会話が頭に入ってこず、噓くさい笑顔で何とか話を合わせていた。そんな晶を見て何かを察した悠香がチラチラと目配せした。
追い詰められたのだと観念した晶は咳払いをしてスプーンを置いた後に口を開いた。
「明日・・・女の子のお友達が来ます。・・・」
「あら⁉、ついに彼女ができたんだねぇ。凄く嬉しいわぁ。」
『お友達』と表現したのにわざとらしく『彼女』と決めつけて悠香が煽った。
「彼女ではありません。お友達です。」
こういう時とはどうしてもかしこまってしまう。
「えっ彼女⁉明日は無理。あたしいないし。」
「うん、唯奈ちゃんがいないから明日にしたんだ。」
「は?なにそれ?酷くない?じゃ写メちょうだい。お兄ちゃんに相応しいか見てあげるから。」
「あるわけないでしょ。それに余計なお世話だから。」
「お兄ちゃんの秘密の写真を沢山持ってる妹にそんなこと言っちゃって良いのかな~。」
唯奈はこれ見よがしにスマートフォンをフリフリしてアピールした。脅された兄は戦慄しながらも妹を睨みつけたが、唯奈は無視して続けた。
「ねぇ、唯奈とどっちがかわいい?」
「ユイナチャンノホウガカワイイヨ」
晶は目を丸くさせ下顎だけをパクパク動かしながら機械のように言った。
「ダメ、やり直し。」
付き合いきれないよ。と言わんばかりの表情で晶はカレーに手を伸ばす。
「あとお母さん、香草室を使うと思う。」
「えっ香草室でデートすんの⁉」
「唯奈ちゃんは黙ってて。」
「・・・晶が扱えるものには限りがあるから、十分に気をつけなさいね。何かあったら必ず言うのよ。」
「うん、わかってる。」
「じゃあ、次は唯奈とデートね。」
「うん、わかってる。・・・えっ⁉」
予期せずに唯奈とのデートも決まった晶なのであった。