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神装真姫 晶たん①

「この投票をもちまして、私たちのクラスの催し物は『変装カフェ』に決定しました。今日のクラス全体会議は終了です。」


 クラス委員長の望月 澪(もちづきみお)が最後の言葉をもって会議を締めた。教室に拍手が響き渡る中、一人だけ賛同できない生徒がいる。そう、晶だ。ムスっとした表情で「変装カフェ」の裏に漂っている不穏な空気をいち早くを察していた。


 入学当初から晶にとって澪は要警戒人物だった。いや、直接的な危害を加えられる方向の危うさではない。ただ、彼女の奥底に潜んでいる晶への信仰心にも似た純粋な歪みが、時折、牙を覗かせるのだ。


 澪はショートカットだが、前髪を真っ直ぐに下ろすと口元に届くほど極端に長く、顔の下半分を難なく覆い隠すことができる。席に着いたまま前かがみになると前髪がすとんと垂れて、手元を完全に隠す「シェードモード」に移行する。昼休みには教室にいながら外界との繋がりを遮断する結界の中で一心不乱に何かを描いているようだが、シェードの役割をしている前髪がノートを完璧に隠しているため、誰一人として内容を見たことがない。


 澪は晶と話す時はいつだって笑っている。けれど笑顔の裏には「歪曲した何か」の存在がわかる。潜香を読み解いていけば間違えるはずがない。澪の魂の奥に鎮座しているのは灰色。それも丁寧に重ねたグラデーションではない。まるで幼児がクレヨンで自由かつ大胆に塗りたくった粗雑で強引な灰色。その粗雑さとは反対にスモーキーな渋みとミルキーな甘さが複雑に絡み合うだけでなく、それらが共生することで丸みを帯び、あたかも「安全な人間」と勘違いさせるほど飼いならしている。


 これは「どす黒い」香りではない。むしろ、もっと冷たくて、もっと静かで、もっと不気味なもの。強いて言うならばそれは、、、地の底から這い上がる者を当然のように操る「どすほのい」香りだ。


「やはり澪は危険だ」などと考えていた矢先、クラスの解散に乗じて急速に晶との距離を詰めてきた澪が嬉々として口を開く。


「あの・・・あき・・・竹達くん。竹達くんの変装は・・・女装・・・だから・・・。」


「⁉・・・女装・・・⁉」


 受け取りの拒否権など最初から存在しない一方的で決定的な言葉。人生で初めて「自分に向けられた」ものとして晶の耳から侵入してきたにもかかわらず、なぜか心の深層は「忌むべきもの」として処理していた。


 感情の名前がわからないまま呆然としていた晶の身体は金縛りにあったように硬直し、頬には一筋の汗が流れる。地の底から現れた者が晶の背後から抱きついて頭を抑え込み、地面から這い出た骨だけの手が、足首の肉に食い込むほどの力で掴む。肌を突き刺すような凍てつく空気の中、自由の効かない晶の目には、瞳がキラキラと星降る夜空のように輝き、締まりのない口元から「はぁはぁ」と酷く荒い吐息が白く漏れる澪が映っていた。


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